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Artnavi Report 特別展「祈りの道〜吉野・熊野・高野の名宝〜」関連イベント
世界遺産登録記念国際シンポジウム「紀伊山地の霊場と参詣道」
日時:2004年7月24日(土)開演 午後1時30分 会場:NHK大阪ホール
主催:三重県、奈良県、和歌山県、世界遺産登録推進三県協議会、
大阪市立美術館、NHK大阪放送局、NHKきんきメディアプラン、毎日新聞社
後援:文化庁、社団法人ユネスコ協会連盟

第二部はパネルディスカッション
NHKの司会者と5人のパネリストが壇上に座り、
「日本の宝から、世界の宝へ」をテーマに映像資料と対話を重ねながら進行する。会場の参加者はその様子を同時通訳を聞きながら国際シンポジウムを真剣に見守りました。

(写真左から:司会NHKアナウンサー/濱中 博久、国際日本文化研究センター教授/川勝 平太、
ユネスコ世界遺産センター/メヒチルド・ロスラー、聖母女学院短期大学学長/アンセルモ・マタイス、俳人/宇多 喜代子、奈良県知事/柿本 善也 敬称略)

第二部 パネルディスカッション「日本の宝から世界の宝へ」

◎導入部の映像とナレーションでは、紀伊山地の霊場は深い森でこれまで守られてきたことを改めて教えられた。その中の吉野・大峯は過酷な修験の道であり現在も容易に人が入れない。真言密教の霊場「高野山」には今も120の堂塔があり、そして自然崇拝に起源する神道の「熊野三山」は古来より神が隠れ住んだ。今も人々が参詣のためそれらの険しい道を歩くことでご利益があると信じられている。
◎最初のテーマは紀伊山地の『文化的景観』とはどういう所か、それぞれのパネリストの現地での体験談を中心に貴重な意見が交されました。
◎後半のテーマは「これらの遺産をどう守っていくか、どう活かすか」について、
参考例として世界遺産の中でも、道として登録された先例である
“スペインの巡礼道”『サンティアゴ・デ・コンポステーラ 』を映像で紹介した。それは、聖地でありローマ、エルサレムと並ぶキリスト教の三大巡礼地の一つ。スペイン語で道はcamino。スペインを東西に横断する。巡礼のシンボルに帆立貝があり、道々にマーキングされ迷うことがなく、巡礼者は祈りを繰返しながら聖地を目指す。長く厳しい果てにあるものを求める。パネリストはそれらから「紀伊山地の霊場と参詣道」との共通点を指摘し、学ぶべきところと森と木を中心とする紀伊山地との地勢的な違いを述べながら、国際的な視点に立った保存のあり方や活かし方を提案し、「日本の宝」を真に「世界の宝・世界の人々の遺産」とすべきことを強調された。最後に『紀伊山地は命を育んでいる。命を育んでいることは知らず知らずのうちに美しい心を育んでいる。』と話されたことが特に印象に残った。
(ストリート・アートナビ 中田 耕志)
◎パネリスト:(発言の内容をメモしながら心に残った事をランダムに掲載しました。)
聖母女学院短期大学学長
アンセルモ・マタイス
1928年スペインマドリッド市生まれ。
イエズス会神父。1953年来日。
・専門は倫理学・人間学
文化的景観について:実際に廻ってみた。6月に車で高野山、熊野山に訪ねた。
自然がすごい。そこで人々は神様、仏様と触れている。杉の木がまっすぐに伸びている。熊野の杉は天に向かって伸びている。神のようだ。「杉の木は神を信じる」という小説を思い出した。世界の心のオアシス、心の原点になれば良い。
どう守ってどう活かすか:日本に来て50年修道者として洗礼を受けている。
◎サンティアゴは諸文化の十字路。ヨーロッパ24カ国、ヨーロッパ共同のもの。ヨーロッパはコンポステーラの道から生まれた。修学旅行(高校生)で行ったが、人生にインパクトを与える出来事だった。
◎日本の文化遺産は、まだ十分に世界遺産として把握されていない。日本人でも行ってないし知らない人が多い。まして西洋人は当然知らない。多くの人が来てもらうために環境を整える必要がある。スペインの巡礼道にはHOTELはないが、アルゼルゲ(民宿)があり無料か安い。巡礼にはお金はいらないが、祈りの心はいる。
◎3点に要約すると、(1)保全するには観光地にしないほうが良い。豪華なホテルは建てないほうが良い。質素な設備が必要、最低限な物で良い。(2)日本の再発見、日本人の心の復活になれば良い。私は50年前に日本に来たが、今の日本は心の不景気な時代です。(3)世界に開かれたものであって欲しい。日本語だけでは足らない。経済的なこともあるが苦労してでも世界に誇れるもの、まさに遺産遺産にして欲しい。
俳人
宇多 喜代子(うだ きよこ)
1935年山口県生まれ。18歳のとき俳句を始める。平成14年紫綬褒章を受章。
・新宮出身の作家故中上健次が主宰する熊野大学に参加、熊野の自然とそこに生きる人々の魅力に触れてきた。
文化的景観について:世界遺産に決まる前に自分の体験が先にある。出かけた実感がある。高野山も東吉野の草の一本、木の一本について教えてくれたのは土地の人であった。◎現地に行って疲れてひょろひょろしていると、地元の人からすすめられて1000年の杉に抱き着いてみる、木のエネルギーをもらう。樹に抱き着いたり、滝の水を飲んだりするのは何も昔から特別ではない、だんだん自然に恐れを抱くようになってくる。人智人力の及びのつかないところ。
どう守ってどう活かすか:サンチャゴの道の目印ホタテ貝は熊野詣での王子社のよう。伊勢に3度、熊野に7度どちらにも片詣。藤原定家の明月記には旅が辛かったことが書いてある。◎「道は歩くものだ。」中辺路(なかへち)、大辺路(おおへち)、小辺路(こへち)の熊野七街道では草一本が親しかった。
◎地名が文化のインデックスの役目を果たす、地名が私にとっては大きな先生の役目を果たした。熊野詣への道、巡礼の道サンチャゴの道は、人間が古い進化する前の道。◎慰霊のため、『だる』と云われる野垂れ死んだ者、戦争で死んだもの、無念の思い、志を遂げれなかった人に、道の人が自分のごはんを先にひとにぎり分けてあげることに私は示唆を受けた。◎闇を知って欲しい。何も情報のない所で生きる。『べたべたの闇』を。電気がないのではない。◎若い人にはきっかけは何でもよいが、感性が初々しい時に体験すると良い。
奈良県知事
柿本 善也(かきもと よしや)
1938年生まれ。東京大学法学部卒業。
2003年奈良県知事四選。現在に至る。
文化的景観について:過酷な条件、特徴が脚光を浴びる。排他性がない。奈良県の立場としては三つ目の遺産。
どう守ってどう活かすか:◎皆の意見、示唆に富んだ意見を参考にして遺産を守りたい。・サンチャゴを意識したい。類似性と違いを見てやりたい。日本とヨーロッパでは、地勢(地形の起伏の状態などの土地のありさま。)が違う。道が発達して類似性がある。東西の対比、日本は木の文化、ヨーロッパは石の文化。保存される木に因縁(物事の持っている定まった運命。)を感じやすい日本人。
場所によって参詣道の考える。登録されると人気が出てくる。(サンチャゴでは、指定前10万人、指定後は300万人と爆発的に訪れる。)・それならば受け止める準備をしないとだめ。・神秘性や恐れを感じる所は大事にしたい。・こういうルールを守って欲しいというルールを作る等、受け入れ体制を整えたい。受け入れ方、活用の仕方を考えたい。(今日、この場に関係市町村の人も一杯来ている)・保存と活用の義務が課せられた。
◎地域の人と保存と活用を取り組む。サンチャゴを参考にしながら。・地元が燃える効果がある。登録された理由、自分達が誇りにしていたものが皆に認められたこと、そのことを保存と活用の原点にする。
◎精神的な癒しがこの場所にある。関西の心身の癒しの場にしたら良いのではないか。
・利便性(トイレ、立札等)も整備する。便利に利用、楽しんで頂く。
国際日本文化研究センター教授
川勝 平太(かわかつ へいた)
1948年京都生まれ。1972年早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学教授を経て、1998年国際日本文化研究センター教授。
・太古の日本が持っていた「森の文化」を現代に蘇らせよと説く。
文化的景観について:不便だから自然が残ってきた。紀伊半島は海洋日本の原点。人類共通の遺産、世界の文化遺産。これまで森を作ってきた文化を評価された。
どう守ってどう活かすか:サンチャゴと比較してどうか、似ている所はホタテ貝の目印。サンチャゴ・コンポステーラと熊野詣の頃の仏教は末法思想で救いを求める点で共通・ヨーロッパの道は平たんでまっすぐだが、日本は山がちでぐねぐね道、海岸が迫まっている。ヨーロッパの道にあたるのは、日本では川かな、昔なら淀川。木の国の日本では、神の数え方もひと柱、ふた柱と数える。ヨーロッパとの共通性と対比性がある。◎参詣道と巡礼道。ヤコブはもともとパレスチナの人。神武の東征の道。水への関心、川への関心がある。十津川、熊野川は熊野灘に流れ出て熊野そのもの。紀伊山地そのものが教材とする。田辺の偉人、南方熊楠(みなかたくまずす)は地球を見ながら地元学を見る。近代は自然を観察するがコントロールしすぎると破壊につながる。真・善・美。◎恐れ多いが美しいものと良い付き合いをすると言葉が不用で感動するもの。例えばスペイン人が見ても、美しいものであれば感動する。そこには通底するものがある。『紀伊山地は命を育んでいる。命を育んでいることは知らず知らずのうちに美しい心を育んでいる。』
ユネスコ世界遺産センター
メヒチルド・ロスラー
1959年ドイツ生まれ。1984年フライブルグ大学卒業。1992年からユネスコ世界遺産センターに転じる。現在欧州・北米の自然遺産・文化的景観主席担当官。
・2001年高野山大学で開かれた「信仰の山会議」にユネスコ代表として参加。
コンポステーラでは、人の交流が文化の違いを越えてできる。深い精神的な体験がサンチャゴを目指す理由。
どう守ってどう活かすか:ユネスコの条件、セーフガードは遺産を未来の人に代々伝えていくための法的な規約がある。サンティゴ・デ・コンポステーラを参考に、紀伊山地の三つの県がコミュニケーションと調整をやって欲しい。遺産の保護には地元の関わりが大事、地元の宝であり、世界の宝である。若い人の自分の遺産であること、自分達が活動して守って欲しい。◎この世界遺産には3県と13の市町村がある。世界遺産条約では大規模な開発は事前の許可が必要。開発と遺産保護のバランスが大事、地元の協力が大事。開発と保護は地元の人が関わっていかないと未来に残せない。世界の人達とシェア(役割分担)することが大切。
◎司会
NHKアナウンサー
濱中 博久(はまなか ひろひさ)
1952年 京都市出身。1977年NHK入局、松江、沖縄、東京、広島等を経て、2003年から大阪勤務。
今回の登録は文化的景観や、祈りについて、私達も気付き、それをどう未来に伝えるか、考える機会になった。

◎パネリスト写真:案内パンフレットより転載
取材・写真・Web Design:2004年7月24日/掲載:8月2日
ストリート・アートナビ 中田耕志
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Osaka Municipal Museum of Art
「紀伊山地の霊場と参詣道」世界遺産登録記念
特別展[祈りの道]〜吉野・熊野・高野の名宝〜
会期:2004年 8月10日(火)〜9月20日(月・祝)
会場:大阪市立美術館 
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