掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の治療は、軟膏の塗布、薬の服用や注射、病巣感染の治療、光線療法、ビオチン療法、金属アレルギー治療、禁煙などがおこなわれます。
2010年代になってからは、扁桃除去、根尖病巣(歯の根の膿)、歯周病などの病巣感染に対する治療が中心となり、皮膚科を中心に歯科、耳鼻咽喉科などが連携して治療をおこなうことが多くなりました。一方で、ビオチン療法や金属アレルギー治療は、以前ほどおこなわれなくなりました。
2018年には、掌蹠膿疱症の治療では世界初となる薬「トレムフィア」が日本で認可され、病巣感染の治療や禁煙をおこなっても改善されなかった人への効果が期待されています。
外用剤の使用(ステロイド、ビタミンD3)/モノクローナル抗体製剤の注射/エトレチナート内服/薬の服用(漢方薬、マクロライド系抗生物質、抗炎症剤など)/扁桃摘出/禁煙/光線療法(PUVA、ナローバンドUVB、エキシマライト)/ビオチン(ビタミンH)療法
ほとんどの人が最初におこなう治療です。軽症であれば、ステロイド外用剤(主に軟膏)を塗るだけで治ります。ステロイド外用剤だけで治らなかった場合は、ビタミンD3外用剤も使用します。
扁桃は細菌やウイルスなどの侵入を受けやすく、これが原因となり発症すると考えられています。耳鼻咽喉科では、扁桃を取る(扁桃摘出)ことによって治していきます。効果の高い治療として広く認められており、有効率は60~90%とされています。
全身麻酔でおこなわれ、手術時間は30分から1時間、入院期間は1週間ほどです。禁煙ができていないと再発することがあるため、手術にあたっては禁煙が必要となります。
紫外線の免疫を抑える作用を利用して、過剰反応している皮膚の症状を抑えることで治していきます。PUVA(プバ、長波長紫外線)、ナローバンドUVB(短波長紫外線)、エキシマライトがあり、ビタミンD3外用剤と併用することが多い傾向があります。
症状にもよりますが、エキシマライトによる治療の場合、週1~2回の照射で3~10回目から効果が出始め、20回くらいが目安とされています。
光線療法の治療効果
研究者 |
症例数 |
結果 |
名古屋市立大学 |
22 |
ローカルPUVAバス療法をおこなったところ、寛解(消失)27%、改善36%、やや改善23%であった。 |
九州大学 |
8 |
エキシマライトを使用したところ、全ての人において改善がみられた。50%以上改善した人が63%であった。 |
ブザンソン大学
(フランス) |
17 |
エキシマライトを平均7.3回使用したところ、79%に有効であった。 |
復旦大学
(中国) |
15 |
エキシマライトを使用したところ、平均53%改善した。 |
ナローバンドUVB エキシマライト
●ヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤. 皮膚科
2018年に世界初の掌蹠膿疱症治療薬「トレムフィア」が、厚生労働省に認可されました。新しい治療方法として効果が期待されています。1~2ヶ月に1回注射をします。非常に高額な費用がかかることもあり、主に禁煙、歯科治療といった治療でも症状が改善しないときに使用されます。
トレムフィア
●漢方薬※10etc. 皮膚科など
他の治療方法に比べると副作用が少なく長期間の服用が可能なことから、補助的な治療として漢方薬が使用されます。
赤斑病変に対しては黄連解毒湯(おうれんげどくとう)、角化病変に対しては温清飲(うんせいいん)、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、膿胞に対しては十味負毒湯(じゅうみはいどくとう)などが使用されます。
漢方薬の治療効果
研究者 |
症例数 |
使用した漢方薬 |
やや有効以上 |
旭川医科大学 |
49 |
黄連解毒湯 |
69% |
97 |
温清飲 |
84% |
東京労災病院 |
24 |
黄連解毒湯+ミノサイクリン |
有効以上22例 |
88 |
三物黄芩湯 |
71% |
大宮日赤病院
(さいたま赤十字病院) |
15 |
黄連解毒湯+温清飲 温清飲
黄連解毒湯+四物湯 |
86% |
坂の上クリニック |
61 |
桂枝湯+防己黄耆湯 |
83% |
漢方薬
●エトレチナート 皮膚科など
エトレチナート(製品名:チガソン)はビタミンAに似た薬です。塗り薬よりも効果は高く、光線療法と併用することで効果が高まるという研究報告もあります。
他の治療で治らなかったような膿胞や角化の強い病変にも効果を示すことがあります。特に膿胞に関しては、2週間ほどで治ることもあります。
副作用があり、唇の乾燥(口唇炎)、口腔乾燥症(ドライマウス)、手足の皮膚のカサカサ感が高い頻度であらわれます。また、胎児が奇形をおこす割合が高いため、男性は半年間、女性は2年間の服用後の避妊が必要となります。また、2年間の献血も禁止されています。
エトレチナートは、口腔扁平苔癬(こうくうへんぺいたいせん)の治療に使用されることもあります。
チガソン
関連するページ ドライマウス(口腔乾燥症) 口腔扁平苔癬の治療
●マクロライド系抗生物質※11etc. 皮膚科など
マクロライド系抗生物質は抗生物質としての機能だけでなく、炎症を抑える作用があり、掌蹠膿胞症に効果があるとされています。クラリスロマイシン(商品名:クラリス)、ロキシスロマイシン(商品名:ルリッド)などが使用されます。
長崎大学医学部の研究者が43人に使用したところ、79%の患者さんに有効となりました。他の治療とあわせて、あるいは補助的な治療としておこなわれます。
●ビオチン療法※12、13 皮膚科など
2014年まで秋田県の病院に勤務していた前橋賢先生が、東北大学医学部在職中に始めた治療。前橋先生は女優・奈美悦子さんの掌蹠膿疱症を治したことでも知られています。
食生活などを原因として、ビオチン(ビタミンH)が不足することにより掌蹠膿疱症が発症するという考えから、ビオチンを服用することにより治していきます。ビオチンと整腸剤(ミヤBM)、ビタミンCの3剤を併用します。治療中は禁煙、飲酒を控え、生卵を控える等の食事制限をおこないます。
ビオチン療法よい点は副作用がない点です。一部の皮膚科、内科、耳鼻咽喉科などの医療機関でおこなわれ、奈美悦子さんの症状が改善した2007年頃は大きな話題となりましたが、否定する意見や前橋先生の退職もあり、以前ほど治療はおこなわれていません。
東京歯科大学皮膚科、歯科の研究グループがおこなった研究によると、ビオチン療法をおこなったところ、78%の症例に有効だったとの結果となりました。また、半数以上に歯が原因の病巣感染があったため、歯科治療をおこなうとさらに治療効果が高まると考えられます。
前橋先生の著書「信じてもらうための挑戦 掌蹠膿疱症は「治る」病気です」
前橋賢先生はビオチン療法を開発、ビオチン療法の第1人者としてご活躍されていましたが、2014年9月をもって本荘第一病院免疫内科は閉鎖、前橋先生は退職されました。
●禁煙 内科など
掌蹠膿疱症の患者さんの喫煙率は85%以上と非常に高く、特に女性患者の喫煙率が高いこと、ヘビースモーカーが多いことが分かっています。喫煙すると掌蹠膿疱症の発症リスクは74倍も高くなること、喫煙歴がない人は発症しても症状が軽いことが知られています。
喫煙が病巣感染の症状や炎症を悪化させます。禁煙をすれば掌蹠膿疱症が完治するわけではありませんが、症状改善のためには禁煙をおこなう必要があります。
禁煙
関連するページ タバコ
●
そのほか
甲状腺炎(バセドウ病、橋本病)、糖尿病、過敏性腸症候群、頑固な便秘も掌蹠膿疱症に関与しているとされています。
糖尿病は歯周病を悪化させることが知られており、糖尿病の治療をおこなうことで歯周病(病巣感染)の症状が改善し、掌蹠膿疱症の症状も改善することがあります。
過敏性腸症候群、頑固な便秘などの治療により、腸内細菌の改善することで、掌蹠膿疱症の改善することもあります。ビオチン療法で整腸剤(ミヤBMなど)が使用されるのも、腸内細菌の改善が目的の一つとされています。
関連するページ 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能低下症 糖尿病
※1 原渕保明、吉崎智貴、後藤孝、高原幹、坂東伸幸 扁桃と病巣感染 他科との連携 耳鼻咽喉科の立場から 口腔咽頭科19(2)181-187 ※2 山北高志、清水善徳、内藤健晴、松永佳世 扁桃病巣皮膚疾患における扁桃摘出術の有効性 掌蹠膿疱症に対する扁桃摘出術の有効性 口腔咽頭科22(1)49-54 ※3 形浦昭克 扁桃と掌蹠膿疱症 皮膚40(3)221-230 ※4 藤原
啓次、林 正樹、山中 昇 扁桃病巣皮膚疾患における扁桃摘出術の効果と限界 掌蹠膿疱症に対する扁桃摘出術の効果とその適応 口腔咽頭科22(1)39-42
※5 乾智一ら 口蓋扁桃摘出術をおこなった掌蹠膿疱症患者へのアンケート調査 耳鼻咽喉科臨床105(7)653-659 ※6 長谷川正規ら 掌蹠膿疱症に対する洗面器を用いた
Local PUVA-bath 療法 西日本皮膚科 64(6)754-757 ※7 治療 308nmエキシマライトによる掌蹠膿疱症への治療効果の検討 西日本皮膚科74(1)64-67 ※8 Evaluation
of a novel 308-nm monochromatic excimer light delivery system in dermatology:
a pilot study in different chronic localized dermatoses. Br J Dermatol.
152(1)99-103 ※9 Han L. Evaluation of 308-nm monochromatic excimer light
in the treatment of psoriasis vulgaris and palmoplantar psoriasis. Photodermatol
Photoimmunol Photomed.24(5)231-236 ※10 荒浪暁彦:治療にてこずる皮膚疾患、掌蹠膿疱症の漢方治療 皮膚科の臨床52(11)1533-1536 ※11 松永義孝 掌蹠嚢胞症とマクロライド 薬理と臨床11(5)481-490 ※12 前橋賢、牧野好夫、古川勇次ほか 掌蹠膿庖症性関節炎とビオチン 診断と治療80:1397-14022 ※13 高橋愼一、川島淳子、森本光明、山根源之 歯性病巣の関連する皮膚疾患におけるビオチンの効用 2006~2007年度科学研究費補助金(基礎研究C)研究成果報告書
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