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カウフマン、生命と宇宙を語る 

 Investigations 

スチュアート・カウフマン

本書のタイトルは、原題のままにすべきだったと思う。「一般生物学」という観点から捉えれば、生物の活動は、宇宙の法則の一部に過ぎないのであるから、確かに生命と宇宙を結びつけるという意味ではうなずけるが、やはりここは素直に、生命の探求の過程に於いて、宇宙を無視することは出来ないということからシンプルに「探求」とした方が良かったのではないかと思う。

本書に於いて、著者は、進化のプロセス自体の数理モデルによる解析を解説している。全作である、「At home in the universe」では、どちらかというとパンフレット的色彩が強かったが、本作では、細かな今までの進化論におけるパラダイムの解体を試みており、数理モデルのわかりやすい解説を行い、その必然性(妥当性)の説明、そこから導かれる前科学としての基礎付けを明示している。

著者は、生命の発生において、今まで唱えられてきている、突然変異と自然淘汰のみによる説明、つまりは、要素の組合せによって偶然あり得る今という考え方(還元主義的思考結果)ではなく、要素の共鳴による創発による必然的今(総和主義的思考結果)を提唱している。これは、因果の解析という科学の手法に於いて、因果の構成要素、原因の定量に力点を置いてきたこれまでの手法とは異なり、因果の流れの解析、原因同士の結びつきの必然性の理解に中心を於いているためである。この新しい手法は、まさに前科学であり是まで全く顧みられなかった分野である。この分野は因果の流れ自体を扱うために因果の流れが強く影響する科学分野すべてに有効である。選択制の問題が絡む分野では大変威力がある。筆者自ら示す経済分野における応用や宇宙論における対象性の破れと関連する問題などにおいてまさにそこにあるのは因果要素そのものと同じくらいに、何故そうなる必然性があるのかという秩序自体への疑問を解き明かす必要性があるからだと思われる。

邪推であるが、著者の進める科学事業は、ヴィトゲンシュタインの論理哲学の科学への導入ではないかと思う。そこにある要素(定量)よりも、そのテクスト自体に着目するという態度は、まさにそういえるのではないかと思う。

最後に、表紙の図案がが曙であることには拍手を送りたい。

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