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譲渡担保の意義

1.譲渡担保とは何であるか?

譲渡担保の性格付けは、法的構成の仕方によって異なるが、譲渡担保が実務慣行上の制度であることに着目して、「譲渡担保」という取引の現象として俯瞰してみたい。

譲渡担保は、債権を担保するために、典型担保を用いることではない方法として、譲渡に化体して行われる契約である。つまり、譲渡担保として行われていることは、法的な外観上は譲渡である。しかし、当事者間の意識、当事者間がその譲渡を行った目的は債権の担保であって、目的が果たせれば譲渡関係もまた精算される期待を持っているのである。実際に譲渡担保契約の約定にはそのことが明記されている。

2.譲渡担保の諸問題の根元

譲渡担保には、様々な問題が論じられてきている。これらの問題について、譲渡担保の法的構成に基礎を起きながら、譲渡担保の実態を鑑み、その実益と弱者保護のバランスをとる形で解決策が提示されてきた。これらの問題点を生じてしまう根元はいったい何なのであろうか?

3.譲渡担保の利便性と問題性

譲渡担保は、私的実行による担保である。取引界のニーズと典型担保のサプライの齟齬についてみてみる必要がある。典型担保は、担保権者と担保権設定者の関係を条文によって規律している。故に、非常に公平な仕組みとして整備されている。そして、担保の実行に当たっても民事執行法の定めに従い裁判所による公的方法となる。公的方法においては、競売という手法が用いられるが、競売によっては満足がいくように換価されることが少ない。これは、競売が一応偏りのない市場として機能すること、つまり、本当にほしい人物に対比手直接に交渉することで値段を引き上げるという手段が用いることができない、また競落に対するイメージも悪いことが起因している。

担保設定者が和からすれば、法律によって提供される解決手段は、魅力に乏しいのである。

実社会において、担保権者と担保設定者の関係は、必ずしも対等ではない。よくあるケースとしては、金融機関に対して中小企業が融資を要請するという構図である。融資する側は融資を求める側に対して圧倒的優位に立つことは明かである。

そして、融資する側としては、基本的に資力に乏しく(資力に乏しいからこそ融資を必要としているという側面も重要である)融資の焦げ付きのリスクが高い、担保物が十分な価値を持っていることがまれであり、様々なモノを担保の目的物として、そして大概の場合はそのような高価なモノはそのまま事業において用いられていることが常であるので、非占有が可能であり、更に公的手続きによっては、手続き自体にかかるコストや十分な換価を得られないデメリット、さらには夜逃げなどによる手続き自体の遅延可能性など、公的手続きは全く以て役に立たないばかりか、実務上の阻害にしかならない場合もありうるのである。

すなわち、リスクの高い取引においては典型担保は全く以てその機能を発揮し得ないのである。リスクの高い取引においても十分に担保としての機能を果たす仕組みが希求されたのである。これが譲渡担保の存在意義である。

譲渡担保と今言われているやり方は、ハイリスクな融資において、次のことを満たすことを目的として考案されたと考えられる。

1.低コスト

2.迅速性

3.簡便性

4.柔軟性

この4点を満たすには、典型担保はそもそも用いえないので、私的実行という形をとらざるを得なくなった。しかし、私的実行として典型担保を実行した場合では自力救済として問題になることもある。(Ex.349 流質禁止)また、全く条文上にない担保となるとその確実性を保証することができない。

よって、法律外見上は、譲渡とすることで、私的実行を合法的に行い(担保権者自らの所有物に対する処分権の行使)、様々な物の上で実効性を確保した(法律上は所有権の取得、よって譲渡可能物であれば何でも担保物にできる)のである。しかし、当事者間ではあくまでも担保であり、担保権設定者としては自らの手元に円満な形で戻ってくることに期待がある。そして、同じく担保としては債権額相応分の価額のみしか担保権者に渡したくないのである。しかし、前述のように与信者と受信者では、与信者の方が圧倒的に強い現実から、この点については、丸取りなどが横行したのである。また、外見的法律関係と内部意識の不一致は、第三者にとって虚偽表示と同然であると言えなくもないことによって、第三者との関係が問題になった。このとき、担保物の性質が深く関係してくる。つまり、譲渡という形をとっているので、不動産の場合は登記によって公示される。故に、担保権者の設定者に対する裏切りや、担保権者の財産として担保物が扱われてしまうことが問題となる。また、逆に動産の場合、設定者の手元に担保物を残し設定者に使用収益させる(これもそもそも譲渡担保が生まれるニーズの一つであることは前述した)ことによって、設定者の担保権者に対する裏切りや、設定者の財産として担保物が扱われてしまうことが問題となる。

すなわち、外見とは異なる内実があるのにも拘らず外見でもって判断されてしまうことでまたそれを悪用することで、担保物の安全が失われてしまうのである。これでは、譲渡担保関係にある双方にとってメリットが失われてしまう。これを防ぐ必要があるのである。

以上のことを総括すると、譲渡担保の問題性の根元はそのニーズと手段の裏返しであるといえる。

安全確実簡便安価な私的実行のニーズ=担保関係の譲渡への化体=担保物の安全への不安

担保物の多様性柔軟性のニーズ=担保物を譲渡するという外見=物の性質と外見問題

4.譲渡担保の問題に対する学説のアプローチ

学説は、譲渡担保を様々な形で法律構成させることで、担保物の安全を確保しようそしてきた。アプローチの分類としては、信託法的に構成して、担保物を補完する側に対して一種の忠実義務的に(担保目的以外に供しないなど)担保物の保管債務を負わせるのである。また、物権変動の過程を段階的にとらえて不完全な所有権の移転(譲渡)とみることで完全な処分権を封じることで担保物の安全を図る物権(所有権)的構成の方法、そして担保物権法の中に直接的に譲渡担保を位置づけようとする方法が試みられている。それぞれについて実際上の問題点がある。なぜならば、担保物の安全に固執しすぎると、譲渡担保を利用するメリットを害しかねないからである。担保権者が有利になりすぎれば、かなり窮地におかれたものが融資のためにやむなくという実態を引き起こし、当然のごとく搾取につながる。逆に、設定者が有利になれば、そもそも公平ゆえに出現する融資実行者側のデメリットが復活するだけで意味がない。また新たな方法を開発することになるだけである(いわゆる「逃げ水」現象)。よって実務上の利益に鑑みたバランス感覚が必要なのである。

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