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譲渡担保の物権的期待権による構成(福地、注釈民法)

1.物権的期待権構成

1.1.把握の仕方

物権的期待権構成とは、所有権自体を分解してとらえる。物権的期待権という形で、設定者は弁済の暁には所有権が回復されるものという期待があり、また担保権者は所有権を獲得できるという期待ががある。これらをそれぞれ、所有権的諸権能、所有名義と区別し、設定者が譲渡によって担保設定をすることを所有名義の譲渡ととらえ、その残余として所有権的所権能が導かれるとする。そして、譲渡担保実行時においても確定的に所有権が復元するのではなく清算の後に確定するという構成をとることで、設定者の取戻権・受戻権を保護する。

このように、所有権を分解し、期待権として交叉させることにより従来所有権的構成に対してなされていた担保権者による「譲渡」構成の濫用を防ぎ、またうまみを残すことができる。

ここで言う「所有名義」とは、各種物権的請求権の源泉となるものである(福地、注釈民法p847)、所有権の「コントロール権」ということができると思う。ここから、コントロール権を失った「所有権的諸権限」は、確かにそれは行使しうるものであるが、所有権として満全と主張し得ない物であるという風に理解を導ける。

よって譲渡担保は以下のように定義される(福地、注釈民法p848)。

1.2.定義

「債権者が、債務者または第三者が債務の担保に供した目的物について私的実行による優先弁済権を与えられるとともにこの権利を保全するために目的物の所有名義を解除権留保特約付きであらかじめ移転を受けておく判例法上の物的担保である。」

2.譲渡担保の構成

2.1.譲渡担保の設定

譲渡担保は、譲渡担保契約によって設定され、それぞれ目的物によった公示を備える。

2.2.譲渡担保の公示

2.2.1.不動産における公示

登記簿に、譲渡担保設定を原因とする所有権譲渡を登記し、解除権留保特約を附記登記する。

2.2.2.動産における公示

譲渡担保設定の旨記載した公正証書を作成し、担保物に対して明認方法を施す。

従来は占有改定が対抗要件となったが、本説においては、占有改定を不要であるとしている。なぜならば、占有改定によっても公示が確定的にできるわけではなく、表章によってたるとしている。よって、公正証書および明認方法によって公示されるとする。

3.対内的効力

対内的効力について問題となる点として大きなものは、清算原理についてである。

清算原理とは、私的実行において常に被担保債権と目的物の適正評価額との清算を要するという原理である。流担保禁止原理。

3.1.設定者の権利義務(動産不動産共通

3.1.1.取戻権・受戻権

取戻権は清算期間前において目的物の返還を請求する権利であり、受戻権は清算期間後において弁済をなしたときに目的物の返還を請求する権利で、目的物の処分が完了するまで有効である。これらは所有権的諸権限から生じてくる。これらの権利が抵当権者の処分権と拮抗する。清算義務の裏返しである。

3.1.2.目的物に対する善管注意義務

目的物に対して善管注意義務を負う。

3.1.3.占有利用権

これは、所有権的諸権限から当然に導かれる。

3.2.担保権者の権利義務(動産不動産共通

3.2.1.優先弁済権

優先弁済権を有するが、流担保は禁止される。

3.2.2.清算義務

担保者は常に清算義務を負う。帰属清算が原則であり、処分清算は帰属清算の応用としてなら問題がないが、流担保としての処分清算はできないとすべき。

3.2.3.動産について

3.2.3.1.目的物調査権

目的物の状態について調査することができる。

3.2.3.2.目的物搬出行為の禁止

完全な所有権を有していない以上、清算を行わない限り原則できない。

但し、異常事態(倒産、管理義務不徹底など)においては、目的物保全のために不法行為の成立が阻却される。





4.対外的効力

対外的効力について問題となる点として大きなものは、目的物をいかにして担保目的に拘束させるかという私的保全問題である。

4.1.設定者側の第三者について(不動産動産共通

4.1.1取戻権の処分

設定者が取戻権・受戻権の処分をすることは可能である。

しかしながら、目的物自体を処分した場合それは債権的効果しかないことになる。なぜならば確定的に所有権を有していないのであるから。

4.1.2.設定者の一般債務者による差し押さえ

設定者の責任財産ではないので差し押さえはできない。

しかし、取戻権・受戻権の差し押さえは可能である。

4.1.3.担保の二重設定

目的物に対して二重設定はできない。しかしながら、自己の期待権に対して担保を設定することはできる。しかしながら、不動産においては登記上無理である。動産については民法467条が類推適用される。

4.1.4.倒産

破産法87条取戻権の対象にはならない。丸取り防止の観点からである。破産管財人との間で清算を行うことになる。

破産法97条〜別除権については、破産管財人との間で清算を行うことになる。

同趣旨で、会社更生法上の更生担保権となる

4.1.5.動産について

4.1.5.1目的物の処分

目的物を処分しても確定的な所有権がないので、債権的効果しかないが、自己の期待権については処分することができる。しかしながら、目的物が即時取得されてしまった場合、もはや担保物が消滅してしまうので譲渡担保が消滅する。









4.2.担保権者側第三者について (動産不動産共通

4.2.1.目的物の処分

4.2.1.1.清算期徒過前の処分

第三者は、期待権を有するのみであると解する。

4.2.1.2.清算期徒過後の処分

清算期徒過によって受戻権は消滅しほぼ確定的に所有権を有することになるので有効な処分権限を持つ。

4.2.1.3.譲渡担保権の処分

被担保債権とともに移転する。分離した場合は譲渡担保が消滅する。

4.2.1.4.転譲渡担保

375条一項が類推適用される。よって不動産の場合は375条2項を類推し登記を書き換、え、動産ならば376条の類推により設定者に通知する。

4.2.1.5.同一設定者の他の債権者への担保権の譲渡

375条一項を類推=転抵当担保と同じ対抗要件

4.2.1.6.一般債権者による差し押さえ

第三者異議権を用いることができる。

故に、期待権の交叉の観点から、動産においては抵当権者が設定者の一般債務者に対して、不動産では設定者が抵当権者の一般債務者に対して可能である。

4.2.1.7.倒産

破産法88条は、不適用となる。

会社更生法においては、弁済によって目的物を取り戻せる。

4.3.第三者による目的物侵害について

4.3.1.不動産について

4.3.1.1.不法占拠

4.3.2.1.1担保権者の権利

設定者に対する引渡請求のみを行える。

4.3.2.1.2.設定者の権利

返還請求権が請求できる。



4.3.2.2.滅失・毀損について

4.3.2.2.1.担保権者の権利

被担保債権の範囲内における損害賠償請求

4.3.2.2.2.設定者の権利

担保権者が損害賠償を受けた場合、その額について債務が減免される。

そして、そのときに残額が有ればその残額について、損害賠償が行える。

また、担保権者が請求しなかった場合は、目的物の価額全額について損害賠償を請求し、そこから弁済に供することができる。

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