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特許を取り消すべき旨の決定の取消請求を棄却した原判決に係る事件の上告審係争中に当該特許について特許請求の範囲を縮減する旨の訂正審決が確定した場合と民訴法325条2項に規定する法令の違反

(判例タイムス1138号76頁)

<特許取消決定取消請求事件>

最高裁 平成15年10月31日 第二小法廷判決 (判例タイムス1138号76頁)

原審 東京高裁 平成14年4月24日判決

特許庁 特許異議 平成10年 第71450号 

(特許庁文書請求番号H10−71450、審決広報・審決取消訴訟判決集42号24項)

1.事件

1.1.概略

本件は、XおよびX2が、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子(いわゆる「青色LED」)を発明し特許庁に特許出願を行ったことに関連し、A、Bなどとの間において当該特許を争う一連の紛争が発生した。Xが出願し特許庁により設定された特許に対してAを含む4者が異議申立てを行いXの特許が取り消された。Xらは、特許庁の行政処分(審決)を不服として特許庁に対して、その審決に対する異議をなしたがそれでも尚審決の決定が覆らなかったために、特許庁を相手取り専属管轄裁判所である東京高等裁判所に対して決定取消請求訴訟を提訴した(旧特許法178条1項)。平成14年4月24日東京高裁は請求棄却の判決をしたので、同年5月15日Xらは、最高裁判所に対して上告および上告申立を行い、更に同年7月11日に特許庁に対して当該特許の範囲を縮減する目的で訂正審決の請求を行った。そのところ上告事件および上告申立て事件が最高裁に係属する前である平成14年9月2日に訂正容認の審決が確定した。

(これら手続きについては、平成15年特許法改正および先日成立した平成16年特許法改正によって大幅に変更され、本事案における前提はレアケースとなる。)

(平成16年6月11日成立知財高裁設置法により17年4月より特許に関する審決取消訴訟は知財高裁に一元化される。)

1.2.詳細

(1)

上告人Xらは、いわゆる青色LEDの発明者で、平成4年7月23日に特許庁に対して、特許を出願し、平成9年6月6日特許設定登録がなされた。

平成9年9月30日に上告人らの特許が設定登録されたことが特許公報発行により公表された。それを受けて翌平成10年3月27日から同年同月31日の間に訴外A、BなどらによってXの特許に対して異議がなされた。

(2)

特許庁は、Xらの特許設定登録を取消し、平成10年6月22日に取消理由を通知した。Xらは、同年9月7日に特許庁に対して特許取消に対する異議意見書提出を行い同時に同年同月同日特許範囲を縮減する訂正審判請求を行った。

(3)

平成11年2月19日特許庁は訂正審決請求拒絶。これに対して同年豊田合成側訂正審決請求拒絶異議意見を特許庁に対して提出。手続補正が行われる。

(4)

平成11年10月1日特許庁はXらの特許を取り消しを決定。Xら特許取消審決取消訴訟を東京高裁に提訴。平成14年4月26日東京高裁、Xらの請求を棄却。

(5)

Xらは、平成14年5月15日、上告および上告受理申立てを行うとともに、同年7月11日特許請求の範囲の減縮および明瞭ではない点の釈明を目的として本件明細書の訂正を行うことについて審判を請求した。平成14年9月2日特許庁における訂正容認審決同年同月13日同審決確定。

(6)

最高裁判所、上告事件につき上告理由不備により棄却。上告申立て事件について上申書が提出された暇で理由書提出期間(民訴法318条5項、315条1項、民訴規則199条2項、194条)を伸張するとの決定(民訴法96条1項)及び受理決定。

(7)

平成15年10月31日最高裁第二小破棄差戻判決。

1.3.手続きの過程

当該特許にまつわる手続きの流れを概観すると、

平成4年7月23日 X、X2 特許出願

平成8年2月1日 手続補正書提出

平成9年6月6日 特許設定登録

平成9年9月30日 特許公報発行

平成10年3月27日〜31日 手続補正に対してA含め異議申立て4件

平成10年6月22日 取消理由、X、X2に通知

平成10年9月7日 X、X2 特許庁に異議意見書提出

同年同月同日 X、X2 特許訂正請求

(特許紛争において当該特許の範囲を縮減することによって紛争を回避する目的。

故に、後述するキャッチボール現象がおこり、これを解決するために平成15年開成が行われた。)

平成11年2月19日 訂正拒絶理由通知

平成11年4月28日 X側、訂正拒絶に対する異議意見書提出

同年同月同日 手続補正

平成11年10月1日 X等の特許取消決定

平成XXXXXXX  X側、特許庁に対して特許取消決定取消訴訟を提起

(被告側補助参加人としてBが参加。)

平成14年4月2日 口頭弁論終結

平成14年4月24日 東京高裁請求棄却判決

平成14年5月15日 上告および上告受理申立て

平成14年7月11日 特許訂正審決請求

平成14年9月2日 特許訂正審判(訂正20002−39155)訂正容認審決

平成14年9月13日 訂正審決確定

XXXXXXXXX 最高裁判所、上告事件棄却、上告受理申立て事件(本件)につき、上申書が提出された暇で理由書提出時期を延長決定した上で受理決定をした。

平成15年10月31日 最高裁 原審を破棄差戻

2.審決及び裁判

2.1.特許庁異議審判平成10年71450号

【特許取消審決】要旨

被請求人Xらは名称「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」とする発明の特許権者であるが、請求人Aらが、本件特許について出願時提出された明細書を設定後に手続補正書によって変更したが、当該変更内容は出願時の明細書の趣旨を変更するものであるとして異議申立てをした、更にそれに対してXらは特許訂正審決を請求し補正をした。特許庁は、当該特許は特許登録の後に、補正の申立がなされ、更にその後訂正審決により補正が加えられてているが、訂正の目的などは旧特許法120条の4第2項、訂正請求の補正は同法120条尾4第3項において準用する同法131条2項に適合し、またこれらは当初出願した特許の要旨を変更してしまうものであって認められないとし、平成6年法律第1116号付則6条1項、平成5年法律第26号付則2条2項により尚従前の例よるとし、上記平成5年法による改正前の特許法40条により、補正の加えたれた特許はまた別個の特許であり手続補正書提出が提出されたときに新たに特許出願されたものとみなした上で、当初出願の特許と重複しており特許の要件を満たさず、同法113条1項2号に該当し特許として認められないとして、当該特許を取り消す旨の審決をなした。

2.2.審判取消訴訟第一審(原審)

【請求棄却】要旨

原告Xらが特許庁の特許取消審決の取消を求めた事案において、当初の明細書を補正したことは、当初明細書の特許請求の範囲に記載されていない事項を含み、その範囲を拡張するものとなるため、出願時を補正書の提出日とした決定の判断に誤りはないとして行政訴訟法7条により請求を棄却した。

2.2.1.上告および上告受理申立ておよび訂正審決請求

上告事件については上告理由には当たらないとして却下された。上告受理申立てについては、上申書が提出された日まで理由書提出期間を伸張するとの決定をした上で、上告受理決定がなされた。訂正審決請求は容認の審決がなされた。

2.3.本判決

【破棄差戻】判旨

1.訂正審決の可否について

「本件訂正審決は、本件特許の請求項1および2を別紙2の通り訂正し、請求項3を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮に当たる。」

2.最高裁係属前に訂正審決が確定したことについて

「本件のように、特許を取り消すべき旨の決定の取消請求を棄却した原判決に対して上告または上告受理の申立てがされ、上告審係属中に当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し、特許請求の範囲が減縮された場合には、原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更されたものとして、原判決には民訴法338条1項8号に規定する再審の事由がある。そしてこの場合には、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったのもというべきである(最高裁昭和58年(行ツ)第124号同60年5月28日第三小法廷判決・最判民事145号73項)。そうすると、本件については、原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるために事件を原審に差し戻すのが相当である。」

2.3.1.本件引用判例について

昭和60年5月28日第三小法廷判決・最判民事145号73項の要旨

実用新案登録を無効にする審決にたいして、当該審決取消訴訟を提訴したが、請求を棄却する旨の原判決が下されたとき、原判決の基礎となった口頭弁論の終結後に当該実用新案登録請求の範囲の記載の一部を訂正する審決がされた場合において

「そうすると、原判決の基礎となった行政処分の後の行政処分により変更されたものであるから、原判決には民事訴訟法420条項8号所定の事由が存在するといわなければならないが、このような場合には、原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があったものとしてこれを破棄し、更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのが相当である。」

3.【検討に当たり】特許審判と訴訟について

3.1.特許審判制度いついて

特許は発明の発明者が特許庁に対して発明に対する特許設定を出願し、特許庁が当事者もしくは第三者による審査請求を待ってそれを審査した上で問題がなければ特許が査定された上で特許原簿に登録される。このとき特許庁が審査するのは、特許それ自体の要件を満たしているか(特許法49条各号)についてが中心である。

特許審判制度は、上述のように特許が設定登記されるまでの過程において不利益な処分があった場合に行われる査定系審判と、上述の過程を経て確定した行政処分について対立する当事者が争う当事者系審判がある。査定系審判は特許の権利付与における審判であり、当事者系審判は形式的には当事者間の紛争に特許庁が審判を下す形になっているが、下される審判は特許取消にする行政処分であるので、権利剥奪における審判である。

どちらの審判においても、特許という非常に高度専門技術的であり、対世的効力を持つので、準司法的、職権主義的え厳格な制度となっている。審判は3人または5人の審判官による合議体によって行われ、査定系審判では書面審理、当事者系審判では口頭審理を原則とし職権探知主義による証拠調べ、職権進行主義による進行が行われる。審判は審判請求に始まり審決によって終結する。

この一連の過程において、設定登録までは手続補正という形で、設定後は訂正審決の請求という形で特許の登録請求範囲を、特許の同一性を失わず、また範囲を拡大する内容ではないという一定の要件の元、常に可能であったが、法改正によって訂正審決についてはその請求下できる時期が制限され例外的にしか行うことができなくなった。

3.1.1.無効審判と訴訟

設定された特許に対して、無効審判請求人が当該特許の無効理由を特許庁に提示し無効審判の請求を行うことによって無効審判が開始される。無効審判は前述した当事者系審判であり、特許庁は請求人の示した無効理由の存否を判断するだけでなく、同時に、職権により別個無効理由を提示し特許を取り消すことができる。特許庁は、特許または登録に係る権利を剥奪するのが相当と判断した場合、係争特許を無効とする旨の審決をし、逆に無効とすべきではないと判断した場合は、請求人の無効理由は存在しないことを示し、審判が成り立たない旨の審決をする。特許取消審決が確定すれば特許は特許原簿から削除され、無効審判請求の不成立をいう審判が確定すれば、何人も「同一事実および同一の根拠」に基づく無効審判請求をすることができない。

この審決確定の効果を遮断し、更に判断を求める方法が、東京高等裁判所への審決取消訴訟の提起である。この結論に応じて審決が取り消されもしくは請求が棄却されることになり、審決が取り消された場合は特許庁の審判手続きに再び委ねられる。ことのき特許庁は東京高裁の判断に拘束されるが別個の無効処分を下すことは尚可能である。

3.1.2.特許法改正による影響

平成15年の特許法改正の目的の一つには、特許審査の迅速化という問題があった。従前の制度において、キャッチボール現象という同じ特許に対して手続を何度も繰り返して攻撃を加えるという手法が出現してしまっていた。

特許を争うAとBが存在した場合、Aの申立により無効審決が特許庁によって決定された後、Bは審決取消し訴庁を裁判所に提起し、同時に訂正審決の請求を特許庁に対し行い、容認審決がなされると、遡及的に特許が変更され、訂正時になした内容が出願時になした内容と見なされることによって、裁判所は無効審決取消しの判決を下す(最高裁(3小)判平成11年3月9日、民衆53巻3号303項)。裁判所は特許設定を直接おこなうことはできないので、特許庁において再審理と審決が行われる。そして更にAが別個の理由に基づき申立をし無効審決がなされBが審決取消訴訟をまた起こす、もしくは特許庁の再審理、審決に対してAもしくはBが不服として審決取消訴訟を起こしその後また特許庁に帰ってくる、というように、特許庁と裁判所の間を何度も往復するという非常に不経済な現象が生じることがある。

旧特許法においては、特許の有効性を争うのについて、異議申立てと無効審決の2つが存在していた。平成15年改正により、異議申立ては、登録から6ヶ月内なら何人でも申立が可能で、なされた場合、異議申立人の提出した意義が存在しているかを査定系審判によって審査する仕組みである。一方の無効審判は当事者系審判である。この2つを統合して新無効審判制度とした上で、訂正審決は特許無効審決が特許庁に係属したときからその審決が確定するまでの間は請求することができない(126条2項)とし、審決取消訴訟が提起されたときは提起された日から90日以内に制限している。更に審決取消訴訟係属中に訂正審決請求がなされたときは訂正が容認される前でも裁判所は事件差し戻しができるとし、特許庁に差し戻され再審理されるときに訂正と相手がなの反論をまとめて審理するように改められた。

以上本改正によって、本件において特許取消決定と訂正審決の関係について従来の判例「無効審決の取消を求める訴訟の係属中に当該特許権について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正審決が確定した場合には当該無効審決を取り消さなければならないものと解するのが相当である」(最高裁(3小)判平成11年3月9日、民衆53巻3号303項)については、その前提となる係争中の訂正審決が法改正によって行われなくなったが、無効審決訴訟中に訂正審決が確定するというケースが発生しなくなったわけではないので最高裁は今後類似事案において自判により特許取消決定を取り消すという解決の可能性は残っている。

4.本稿における論点

私は本稿において本件の判断について、特許法上からみた妥当性と訴訟法上からみた妥当性という2つの論点から観察してみたいと思う。故に以下のその2点の具体的観点を述べる。

1,特許取消審決の取消を争っている間に訂正審決が確定したときの判決

最高裁は破棄自判すべきであったかにといて検討を加えたい。本件のようなケースにおいて、旧特許法181条は「裁判所は、・・・当該請求を理由があると認めるときは、当該審決または決定を取り消さなければならない。」としており、また無効審決の取消訴訟係属中に訂正審決が確定した場合には、無効審決は取り消さなければならないとする平成11年3月9日最高裁第三小法廷判決が存在する。これらの点から、本件においても破棄差戻とはせずに、当該無効審決を無効とする破棄自判の余地があったのではないだろうか。

2.新訴訟法上の上告理由と再審事由について

本件では、上告人Xらは、訂正審決の確定という再審事由が生じたことを、最高裁に提出した上申書において、上告事件、上告受理申立て事件の双方で主張したが、上告事件においては上告理由に当たらないとして棄却されたが、上告受理申立て事件(本件)につき、上申書が提出された日まで理由書提出時期を延長決定した上で受理決定をした。

本件のように裁判の基礎となっている行政行為について遡及的に変更が加えられたとき、旧民訴法においては再審事由が上告理由となることについて異論がなかったが、新民訴法312条において、法令違反の主張は上告理由とならないとされていることから、新民事訴訟法において、上告理由と再審事由がどのような関係にあるのか、再審事由があるときに破棄せずに確定させたうえで再審に委ねることができるのかについて検討を加えたい。

5.検討

5.1.特許取消審決取消訴訟において上告審係属中に訂正審決が確定したときの判決

特許取消審決がなされその取消を求める訴訟係属中に特許請求の範囲を縮減する目的で訂正審決が行われ確定したとき、いかなる裁判を裁判所はすべきか。通常無効審決取消訴訟が提起され請求に理由が認められるとき裁判所は当該審判を取り消す旨の判決をする(旧特許法181条)と定められている。これは、訂正審決の効果が遡及的に訂正後の内容をもって当初から請求されていたとするからである。つまり訂正審決が確定した結果、特許取消審決を下した特許自体が存在しなくなと解されるからである。

まず、通常、審決取消訴訟では、裁判所が判断すべき事項は審決が実体上、または手続き上、違法であるか否かのみであり、たとえ審決が違法であったとしても、その審決を破棄して自判することができないと判例学説ともに一致して解されている(最高裁判決昭和51年3月10日、青山248)。これは司法と行政の分離という観点から当然のことであり、特許自体の処分は行政処分そのものであるのであって、高度な科学工学技術上の専門的知識をようし、更に対世権力を特許権者に付与するという点で、特許庁による審決を特許法が定めている趣旨に立ち返ると、特許審決の過程における特許法の適用についての瑕疵については司法の及ぶ範囲であるが、審決の内容自体については司法の及ぶ範囲ではなく行政の専属管轄であると理解されるためである。

(パテント Vol38(7)「審決取消訴訟の審理を巡る問題点」)

(パテント Vol38(3)「審決取消訴訟における裁判所の役割」高林克巳)

この点について、最高裁(3小)判平成11年3月9日(民衆53巻3号303項)は、特許取消審決取消訴訟係属中に訂正審決が確定したときは、特許取消審決を取り消さなければならないとしている。

【最高裁(3小)判平成11年3月9日(民衆53巻3号303項)】

「審決取消訴訟において、審判の手続きにおいて審理判断されなかった公知事実との対比における無効原因は審決を違法とし、またはこれを適法とする理由として主張できないことは当審の判例とするところである(最高裁昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民衆30巻2号79頁)。明細書の特許請求の範囲が訂正審決により減縮された場合には、減縮後の特許請求の範囲に新たな要件が付加されているから、通常の場合、訂正前の明細書に基づく発明について対比された公知事実のみならず、その他の公知事実との対比を行わなければ、右発明が特許を受けることができるかどうかの判断をすることができない。そして、このような審理判断を、特許庁における審判の手続きを経ることなく、審判取消訴訟の係属する裁判所において第一次的に行うことはできないと解すべきであるから、訂正後の明細書に基づく発明が特許を受けることができるかどうかは、当該特許権についてされた無効審決を取り消した上、改めてまず特許庁における審判の手続きによってこれを審理判断すべきである。」

無効審決訴訟係属中に訂正審決が確定したときに、無効審決の扱いについて、学説は特に言及しているものがほとんど無いが、大多数の概説書および評釈では、当然に取り消されるとする「当然取消説」が多数のようである。(パテント Vvol32〜Vol42 田中整「特許庁審決取消訴訟における法律上の問題点」)

しかしながら、この点について玉井克哉教授は、判例評論452号57頁において「訂正審決が確定しても、同一の引用例により訂正後の特許に無効理由があると判断できるときまでに裁判所が常に無効審決を取り消すことは、無用な審理の重複を招くのみであり・・・裁判所が右判断を下すことは審判制度の枠組みを超えることにはならない。・・・・裁判所は・・・裁量により無効審決を取り消すこともできる。・・・・無効審決訴訟係属中に訂正審決が確定したときに・・・・当然取消説を採るならば、最高裁は無効審決を取り消す自判をすることができるはずである・・・・」として裁量説を唱えている。

以上のことから、上告審においても上告審係争中に訂正審決が確定した場合において、同様に旧特許法181条によって当該審判を取り消す旨の自判を行う余地が残されていそうではあるが、民訴法326条の定めるところでは事実の確定を必要としないことが前提となっている。訂正審決がなされた場合、その訂正審決の効力は当初から訂正後の内容により特許が設定されたものとされる(旧特許法128条)。となると裁判の前提となっている事実そのものが変更されていることになり、上告審においては当然に民訴325条に該当し破棄差戻となり、もはや自判の余地はないと解すべきである。

この点について、判例においても、訂正審決による特許の変更はもはや事実審レベルの問題であって法律審においては、自判の余地無く破棄差戻す判断を示している。最高裁平成8年(行ツ)第265号同11年3月9日第三小法廷判決、最高裁平成10年(行ツ)第61号同11年4月22日第一小法廷判決などもこのような判断を踏襲している。訂正審決の事実が再審事由として上告債において主張されたとしても、それらは事実審の口頭弁論終結後の事実である以上法律審ではなくて事実審に差し戻すべきであるという判断が働いていると考えられる。

5.2.上告理由と再審事由について

本件のように裁判の基礎となっている行政行為について遡及的に変更が加えられ再審事由が生じたとき、旧民訴法においては再審事由が上告理由となることについて異論がなかったが、新民訴法312条において、法令違反の主張は上告理由とならないとされていることから、新民事訴訟法において、上告理由と再審事由がどのような関係にあるのか、つまりは、新訴訟法においても旧訴訟法におけるのと同様の理解がなされていいのであろうか?従来判例は、再審事由に当たることは上告事由にあると認める旨の判示するのみであり、両者の関係について必ずしも法律構成を明らかにはしていない。本件において、新民訴法338条と同法312条の関係においても、旧民訴法420条と同法394条において判示された関係が維持されるのかが問題であり、この点に関連して旧法における再審事由の主張を許容するための上告期間伸張決定が行われるか否かについても注目すべきであると考える。本判決においてこれらの点については、旧民訴法で維持されてきた判例理論を新民訴法上においても維持したものであるといえる。つまり、再審事由に当たることは、当然に違法であるので、迂遠的な再審の訴によっての救済ではなくても上告において主張し得るのであれば、訴訟経済上これを認めるべきであり、判決においてその理由は明言されていないが、再審事由を知ったときが上告受理申立書提出期間をすぎていても、上告受理申立書提出期間を伸張してこれを認めるべきだという判断をなしたと考えれる。

5.2.1.旧訴訟法上の理解

旧民訴法430条と394条について、判例学説ともに、その結論「再審事由は上告理由になる」については一致しているが、学説は4説ほど存在していおり、その法律構成が異なっており、混乱を来してしまっていた。故に上告理由書提出期間伸張決定経過後にわかった再審事由について上告理由とさせるために、上告理由書提出期間伸張決定の要不要についての判断が分かれていた。

判例の変遷では大正15年に民事訴訟法が改正され、ドイツ法に習い再審について、原状回復の訴、取消の訴とに分けて規定しており、法律審と事実審の区別を重視して、原状回復の訴については上告理由足らないと解されていたようであるが、前述改正によって両者が区別されなくなり(後述学説の一部にはこの点をもって、再審事由全てを上告理由とするという立法意思があったとする)改正後の大判昭和9年9月1日・民集13巻1768頁において「民訴法第420条第1項第6号ニ依レバ文書其ノ他ノ物件ガ偽造又ハ変造セラレタルコトノ有罪判決確定シタルトキハ斯カル文章又ハ物件ヲ証拠ト為シタル民事判決ガ既ニ確定シタル後ト雖当該判決ヲ為シタル裁判所ニ対シ再審ノ訴ニ依リ新ニ審理ヲ求ムルコトヲ得ルガ故ニ其ノ未ダ確定セザル以前ニ至リテハ一層強キ理由ノ元ニ当該裁判所ヲシテ審理ヲ新ニセシムベキモノト做スヲ相当トスベク、斯ク解スルコトハ所謂訴訟経済ノ原則ニ照ラシ是認セラルルニノミナラズ前記有罪ノ刑事判決確定ノ今日ニ至リテハ原院ハ結局同判決ヲ無視シテ裁判シタル違法アルコトニ帰シ訴訟手続ノ違背アルヲ免レザルニ依リ」と判示して以来、最高裁は訴訟経済上の理由に再審事由に当たれば違法のである、もしくは再審になれば確定判決の既判力を覆せるにも拘らず上告できないわけがないというような論理を付加的に用いて、最判昭和43年5月2日民集22巻5号1110頁、最判昭和53年12月21日民集32巻9号1740頁「上告理由として原判決につき同条一項六号所定の事由の存することが主張された場合において、当該事実に関し同条二項所定の要件が具備されていることが認められるときは、原判決につき判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があつたものとしてこれを破棄し、更に審理を尽くさせるため事件を原審に差し戻すのが相当である。」など再審事由の何がどのように法令違背であるのかについてはふるれること無く再審事由に該当すればすなわち上告理由であるという風にシステマティックに決している。これは訴訟経済という理由だけではなく、法律審として事実審には振れないという態度、つまりは再審事由に当たるとしてもその事由の内部についてまでは直接立ち入らず(再審事由があるか否かという点での判断はしているといえるが、上告理由として再審事由を認めた例においてはいずれも再審事由の存否確認が容易であった。再審事由に該るも上告理由として認めなかった例として最判昭和43年8月29日判決民集22巻8号1740頁「所論検証の結果についていう上告人の判断遺脱の主張は、民訴法四二〇条一項九号所定の再審事由に当らないとした原審の判断、ならびに証人Aの証言および被上告人(被告)本人の供述が虚偽である旨の上告人の主張は、同条一項七号、二項所定の再審事由に当らない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認でき、原判決には所論違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、所論は独自の見解であつて採用できない(なお、当審において、かりに所論Aに対する起訴事実について原審口頭弁論終結後である昭和四二年三月二日有罪判決が確定した旨主張されたとしても、右有罪判決確定の事実は、原判決に対する再審の訴の再審事由となるものではないから、右主張を本件上告の理由として採用する余地は存しない。)。」があるが、これは判断の再審事由の存否にかかる問題であった。)再審事由が生じているという一事を以て差し戻し事実を再検討させて改めて法律審にくるならばそのときに処理しようという態度があるのではないだろうか。

学説上、再審事由と上告事由の関係は、旧民訴420条1項に定められた1号乃至10号の再審事由は旧民訴395条に定められた絶対的上告事由と同一のものが含まれており、再審事由は、絶対的上告事由となっているものも含めそれ以外も上告事由たると理解されていた。通説では再審事由の立法事由、および訴訟経済上の理由に依っている。これに対して、再審制度の沿革からそもそもは原状回復と取消の二種類があったところを一つにくくったものであるから、再審事由において取消に属していた事由の1号乃至3号(新旧共通)については上告理由になるが、4号乃至7号(可罰行為)については原状回復に類するものであり事実審理を要するため再審させるようにしなければならないとし、訴訟経済上の理由にのみで十分再審事由が上告理由になることを説明しうるとしている説もある(三上、伊東、山田など)。

以上の点については、以下の4説が存在していると言える。

説1.訴訟経済からいって当然である。

(判例通説)

説2.420条それ自体から導ける、明文規定がないのは訴訟政策上の過失である。

(少数;斉藤、兼子、竹下など)

説3.394条の法令違背の特殊形態であり本質は再審事由に該当する違法性にある。

(有力;飯塚、奥村、新堂など)

説4.394条法令違背の特殊形態であるが、その違背の本質は経験則違背である。

(少数;小室、石川など)

学説では基本的に、再審事由が上告理由たることについて積極的であるといえるが、1.訴訟経済型、2.法文根拠型にわかれ、更に法文について394条の法令違背と同質で有るのだからそのことを以て394条に準じて扱うとする説と、420条それ自身が上告理由足ることを想定しているのであって394条を持ち出すまでもないとする説に分けることができる。基本的には大正改正によって上告理由と再審事由の関係が不明確になってしまったのを受けた昭和9年9月1日大審院判決において「訴訟経済の原則に照らして」という文言が用いられてた結果当時当該判例について評釈が相次ぎ、それらを基礎として法条根拠説が発生してきたと考えられる。前述した通り判例は昭和9年9月1日判決以来取り立てて理由付けなくして、有るとしても「再審事由に該当する違法」(杉田)というような理由付け程度で、当然に再審事由たれば上告事由たるとしてきた。

対して学説はあくまでもその法的構成の追求を行い、再審事由があるときは当然にその事件に対する判断そのものが危ういのであるからここに法令違背があるとし(説3)、更にこの点について単なる394条の法令違背ではなくて、再審事由が生じたことによって自由心証の枠外のアクシデントが生じ、自由心証主義といえども経験則という枠組みに従うのであって、再審事由があるということは自由心証の基礎が崩れてしまっているわけであって当然に上告事由となることができるのであるとする(説4)。

これに対して、再審事由を定める420条の立法過程および420条1項から当然であるとする(説2)。この説においては再審事由はそれ自体が当然として法令違背性があるので、そのことを以て主張すれば足りるとするのである。

この両説の間においては420条説からは、394条に言う法令違背という場合の違背は具体的な者ではなく抽象的な一般的意味であるので、具体的な規範たる判決のようなものは想定外であるという批判が為されるのに対して、398条説からは上告審は法律審であって上告理由になり得るのは法令違背であり、補充的救済手段たる再審のその規定から直接上告理由を引き出すのは無理があるのであり、上告理由たるのであれば上告の章に書いてあるべきであるのであるからして自説の法が有利であるとして言える(この点について斉藤教授が旧刑事訴訟法413条において再審事由を上告理由としうる旨の規定があったがこれを民事訴訟法においても採用すべきであったとしていることに言及しておこう)。

更に、上告理由期間を伸張するという決定の要不要についても必要説不要説に分かれるが、この分け目は再審事由の性格をどのように理解するかであって、つまりは、再審事由を上告事由として主張するときにおいても再審の補充性を要するのであるか、具体的には420条1項但書及び420条1項4号乃至7号420条2項の要件を具備する必要があるのかということであり、必ずしもどちらの条文であればどちらの説に決まると言うものではない。飯塚教授は、再審事由が上告理由足ることについて「民事訴訟法394条にいわゆる判決の結果に影響を及ぼすこと明らかな事実認定手続違背の特殊な場合」とし、再審事由を上告事由として主張するにおいても420条1項但書、420条2項の要件を満たす必要があるとし、そのように解するのであれば上告理由書提出期間に間に合うことがないことがあるのは明らかなので158条を適用して期間伸張をすべきであるとしている。小室教授もまたこの点について経験則違背をその理由としながら、420条2項については法律審と事実審を分けると言うこと、つまり法律審に事実審に属することをを持ち込まないという観点から要件具備を必要とし、再審事由について420条2項を満たさないままであるが一応主張して、上告理由書提出期間完了後に2項が満たすような場合においては補完にすぎないので必要ないとしているが、そもそも主張自体が満了の後は新たな主張の追加提出であるので158条1項によって伸張決定をすべきであるとし、420条1項但書につては再審の訴においてのみ再審の濫用を防ぐために機能するとして上告理由として再審事由を主張する場合には不要で、かかる機能を果たすのは139条によるとしているている。

新堂は、再審事由と上告事由との関係について、再審事由が上告理由になることは訴訟経済を指摘すれば十分であるが、法適用上は420条の解釈から導き出され394条の特殊例であるとし、再審事由というものの補充的救済手段という側面を重くみて、420条1項但書、420条2項を肯定する。その上で、上告理由書提出期限伸張決定についてこれを必要なものとする。なぜならば、法律審であるという建前を重視するよりも実体的正義の迅速的な実現が重要であって、また当事者間の攻撃防御の公平性という観点から上告審が斯かる理由について正式に採用したことを宣言する働きをしているからであるとしている。

竹下は、再審事由と上告事由との関係について、訴訟経済の観点から訴訟法全体から導き出されるとし、394条を根拠とすることは一般的救済ができないときにおいて用いられる再審事由を上告理由一般原則に押し込めようとするものであって両者は相容れないのであるとする。よって再審事由は再審事由であることを以て上告理由となるとする(「再審制度から上告制度に対する反作用」)。この上で、420条2項について法律審において主張するのであれば、手続きの性格の違いからいって必要であるが事実審での主張においてまで要求されないとしている。そして上告理由提出期間の伸張決定については、期間内から再審事由を主張しながら420条2項の要件が具備しないときは、あくまで同条同項は訴訟行為の適法要件であるのであって、上告又はこの上告理由を特に却下ないし棄却する裁判が有るまでは当然に期間後においても追完できる者であるとする。そして、期間満了後に初めて再審事由が主張できるようになったときにおいてはこれは例外的に期間伸張決定なしに主張できるとしている。なぜならば、期間後に新たに適法に主張しうるようになった事由について期間を制限を課すこと自体不可能であるからである。だからといって、確定を待って再審の訴をするなどと言うことは、そもそも再審慈雨を上告理由と認めたことに反し、迂遠であって訴訟経済上意味のないことである。更に言えば、不定期間ではあるが期間経過後に伸張の決定をするということは例外であってそれを認める明文がない上にこの期間に信頼が結びついている訴訟の相手方にとっては寝耳に水であって期間経過後に伸張を認めるべきではないのであって理由書提出期間を伸張するする必要はなく、期間経過後に再審事由が備わった婆愛それを追完ないし追加提出することができ、これは義務ではないので、確定を待って再審の訴を起こすことについて制限されないと説示する。

基本的には、394条に根拠をおく以上、139条による主張制約を受けるが158条に従って、その扱いについても本来の394条上告事由と同じく扱われ、つまり再審事由が新たな主張であるのであれば当事者の攻撃防御における公平の観点から必要であろうが、しかしながらあくまで再審事由により補完するにすぎず新たな主張ではないから伸張決定せずに主張できると説示するのである(小室など)。一方で420条自体に根拠をおけば、420条1項但書による主張制限、420条2項の充足を要すると解することになるが、ここにおいて上告事由であるということからそれらについては再審の訴においてのみ機能すると解するものもある。つまりは、上告事由として再審事由をみたときに、上告事由としての色合いで全体をみれば394条に関連した扱いとなるし、あくまでも420条再審事由という観点をみて、上告事由になることを例外的にみるのであればより420条に準じた扱いになるということになる(新堂など)。そして420条に依拠する説においては394条に関連した道具立てが使えないので例外的処理を多用することになってしまう(竹下)。

5.2.2.新訴訟法上の問題

新民訴法においても、再審事由、絶対的上告理由の内容は変わっていないと解されている(平岡)。しかしながら、312条において上告理由が制限されたことによって、旧訴訟法下では、再審事由がそのまますべて法令違反として上告理由となり得たが、新民訴312条では憲法違反のみが上告理由となり得るのであって、立法趣旨からいってもいくら甚大な瑕疵があったとはいえそれは312条の適用範囲にはない。よって上告受理申立理由として再審事由が扱われることとなり、そのときの再審事由に対する裁判所の評価態度、そしてそれを処理するに当たって上告受理申立書提出期間の伸張決定を必要とするか否かについて問題があると思われるがこれについては私見における総括に譲る。

6.私見

【判旨賛成】

まず、最高裁判所が上告事件を棄却し、上告受理申立て事件について受理決定をし、訂正審決の遡及効によって事実が変更されたことを新民訴法338条1項8号にあたることを、この点について新民訴法325条2項にあたる判決に影響を及ぼす重大な法令の違反があるとして破棄差戻した。この点について、まず上告審係属中に訂正審決の確定がしたとき新民訴338条1項8号に該当するかどうかであるが、当該訂正審決によって遡及的に特許の内容が変更され、特許取消訴訟の前提となった行政処分が変更されたことになる。よって、このことは新民訴法338条1項8号に該当すると解することには問題がない。そして、上告事件を上告理由としての理由不備に当たるとして棄却した点について、新民訴法312条が最高裁への上告を制限する立法趣旨であり、法令違反を上告理由としては理由不備と扱う以上、再審事由は如何に違法性があるとしても法令違反であり、同312条に当たることはない。そして、再審事由にあたることをを上告受理申立てにおいて受理決定に足る理由とすることは、再審事由に該当する場合が、重大な法令違反であることに変わりがない。この点については旧民訴法において再審事由が上告理由になるとされたドグマがそのまま援用できると思う。新民訴法においては、上告事由として法令違反が認められなくなった「だけ」であり、旧民訴法からごっそりとその点が抜け落ちたにすぎないと解することが可能であろう。よって上告受理申立理由として、338条1項8号に該当することを上げる点は問題がないと思われる。よって325条に当たり破棄差し戻すことができる。このとき本件では、期間伸張決定を行った上でなしている点についても、原則的に補充性を肯定していると考えられる。この原則肯定するという立場は、当事者間の公平という点からみても首肯できるし、また、あくまでも原則であって敗訴者に帰責事由無く主張しなえかった場合、その法令違反性に着目して救済すべきは救うという判断であると考えられる。

以上のことから本件は、新民事訴訟法施行後においても旧民事訴訟法上に展開されたが再審事由が法令違反である故に上告理由となるというドグマを維持しているが、新民事訴訟法においては上告理由としての法令違反が明文規定から削除され、またその立法趣旨からも認められないため、再審事由のうち絶対的上告事由と重複しない事実行為については、もはや当然に上告理由とはならず、その法令違反の程度によって上告申立て事由によって受理される可能性があるのみであると判示したと考えられる。

では、一方で原審に再審事由があるのであるのだから、原判決を確定させその上で再審させるという判断の余地はあったのだろうか?確かにこの点については322条から、再審事由について判断を下すことが可能ではあるが、本件においては改めて調査するまでもなく特許庁の審決を一読すれば自明であり、事実の実質的当否の判断は原審に委ねるべきであるし、再審の補充性が問題からみた場合、上告人が上訴で再審事由を主張した場合、その後再審事由を主張することは可能であるが(注解民訴・420)、同338条1項但書の趣旨は、通常の不服申立てを非常の不服申立てたる再審に優先させるのである。この点に鑑みていったん原審を確定させて再審に委ねることはでき無いと解するべきであろう。本件においては特に特許法の側からみても、この点につき、本判決は、事件の実情にあった大変適切な判断といえる。つまり、破棄差戻の妥当性についてであるが、平成14年5月15日に上告および上告受理申立てがなされ本上訴審係争したのちに、同14年7月11日訂正審決を請求し、同14年9月2日に確定したことにより、訂正審決の遡及効が働き、平成4年7月23日に遡り特許が訂正審決の内容で設定されたことになり、本件の原審たる東京高等裁判所に対して起こした特許取消審決取消訴訟の前提となる事実が変更されてしまった以上、この事実はすでに事実審口頭弁論が終結してしまった後に変更された事実であるので、もはや法律審たる最高裁において取り扱うべきではなく、事実は特許庁の審決に全て現れているので、証明の程度も自由な証明で足り、本案請求の要件事実としての訂正審決について主張立証を尽くさせるためには、事実審たる原審に差し戻すべきであり、妥当な判断であるといえる。しかしながら、再審事由と上告事由の関係についてその内部関係をはっきりさせるものとはいえず、また本判例は338条1項8号についての事案であり、以前から懸案となっていた4号乃至7号において338条2項の要件を具備する必要があるか否か、つまり従前旧民訴法420女2項についての判断に対応する部分をを為していないので、再審事由と上告理由についてその関係を明確にし、もしくは旧訴訟法時代のロジックをそのまま継承することを宣言しているとは言えない。

以上のことから、本判例は、旧民事訴訟法との関連から言えば、従前の判断及び処理方法をそのまま新法においても維持した判例として先例拘束性を有しているといえるし、特許取消審決取消訴訟としても特許法の観点からみても従前の処理を維持しており、また具体的な紛争解決方法としても、当事者の実体的利益を考慮に入れ、迅速な正義を無理なく実現した誠に妥当な判断であるといえる。


Ap.大正15年改正法と平成民事訴訟法との対比

(http://www1.odn.ne.jp/~cjq24190/acts/act002_01_01comparison.html)

390条,309条,

391条,,規184条

392条,,規185条

393条,311条,

394条,312条1項,

394条,312条3項,

395条,312条2項,

396条,313条,規186条

397条,314条,

398条,315条,

399条,316条,

399条の2,,規197条1項前段

399条の3,317条,

400条,,規201条

401条,319条,

402条,320条,

403条,321条1項,

404条,321条2項,

405条,322条,

406条,323条,

406条の2,324条,

407条1項,325条1項,

407条2項,325条3項,

407条3項,325条4項,

408条,326条,

409条,,規202条

409条の2,327条1項,

409条の3,327条2項,

410条,328条1項,

411条,328条2項,

412条,329条,

413条,330条,

414条,331条,規205条

415条,332条,

416条,331条による286条準用へ,

417条1項,333条,

417条2項,,規206条

418条,334条,

419条,335条,

419条の2第1項,336条1項,

419条の2第2項,336条2項,

419条の2第3項,336条2項,

419条の3,336条3項,

420条,338条,

421条,339条,

422条,340条,

423条,341条,

424条1項,342条1項,

424条2項,342条1項,

424条3項,342条2項,

424条4項,342条2項,

Ap.本稿を執筆するに当たって参照した文献

青山紘一  特許法第6版 (法学書院)

田中 整  特許争訟手続における審判と訴訟・裁判法の諸問題上

      特許取消審決取消訴訟における法律上の問題(パテントVol32〜42)

弁理士会 審判取消訴訟の審理を巡る問題(パテントVol38(4〜9))

高林克美  審決取消訴訟における裁判所の役割(パテントVol38(3))

三谷忠之  再審 新判例コンメンタール民事訴訟法6

控訴理由x上告理由x再審理由 (法学教室1990.1No112)

      民事再審の法理

小室直人  再審事由と上告理由の関係・裁判法の諸問題下

実用新案訂正審決確定の可能性と取消訴訟の上告理由(最判昭和58.3.3)

      (民商法雑誌 89(6) 1984.3 p861〜865)

      上告理由として民訴法四二〇条一項六号所定の事由が主張され

        同条二項所定の要件が具備された場合と上告審のとるべき措置

      (最判昭和53.12.21)

      (民商法雑誌 81(3) 1979.12 p409〜417)

民商法雑誌60巻4号104頁1969年7月

吉村徳重  再審事由 裁判と上訴・下

藤原弘道  再審事由 民事訴訟雑誌26(法律文化社)

上田徹一郎 民事訴訟法 (法学書院)

石川明ほか 注釈民事訴訟法8巻9巻

平岡建樹  上告および上告受理の申立て(論点 新民事訴訟法)

加波眞一  絶対的上告理由についての一考察 (民事訴訟雑誌 49 2003 p1〜26)

篠田省二  上告理由として民訴法四二〇条一項六号所定の事由が主張され

       同条二項の要件が具備された場合と上告審のとるべき措置

       (最判昭和53.12.21)

      法曹時報 (33(4) 1981.4 p239〜252)

伊東乾

山田恒久   上告理由として,民訴法四二〇条一項六号の事由が主張され

       二項後段の要件が具備された場合の,上告審のとるべき措置

       (最判昭和53.12.21)

      (法学研究 ( 52(9) 1979.9 p1078〜1082 ))

豊田博昭  上告理由として民訴法四二〇条一項六号所定の事由が主張され

       同条二項所定の要件が具備された場合と上告審のとるべき措置

       (最判昭和53.12.21)

      (法学新報 ( 87(5・6) 1980.8 p155〜167 ))

井上 薫  再審の補充性の程度(判例タイムス797号12頁〜17頁)

新堂幸司  法学協会雑誌87巻3号89頁1970年3月

法学協会雑誌82巻2号178頁

杉田洋一  法曹時報21巻3号98頁1969年3月

      法曹時報21巻7号66頁1969年7月

奥村長生  ジュリスト406号81頁1968年9月

      法曹時報20巻10号128頁1968年10月

竹下守夫  法学協会雑誌86巻7号75頁1969年7月

飯塚重男  民商法雑誌60巻1号112頁1969年4月

満園武尚  法学研究(慶応大)42巻12号125頁1969年12月

坂井芳雄  法曹時報15巻6号128頁1963年6月

実用新案登録の審決取消訴訟においてその基礎となる登録査定が将来訂正審決により変更される可能性と上告理由(最判昭和58.3.3)

判例タイムズ 34(17) 1983.7.15 p78〜79

実用新案登録の審決取消訴訟においてその基礎となる登録査定が将来訂正審決により変更される可能性と上告理由(最判昭和58.3.3)

判例時報 1075 1983.6.21 p153〜154

最高裁判所判例解説33巻4号1255頁

最高裁判所判例解説(民事)平成11年度

http://www5.famille.ne.jp/~lmsd0998/law/

以上。

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