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特許を取り消すべき旨の決定の取消請求を棄却した原判決に係る事件の上告審係争中に当該特許について特許請求の範囲を縮減する旨の訂正審決が確定した場合と民訴法325条2項に規定する法令の違反
<特許取消決定取消請求事件>
最高裁 平成15年10月31日 第二小法廷判決 (判例タイムス1138号76頁)
原審 東京高裁 平成14年4月24日判決
特許庁 特許異議 平成10年 第71450号
(特許庁文書請求番号H10−71450、審決広報・審決取消訴訟判決集42号24項)
【判決要旨】
破棄差戻。特許を取り消すべき旨の決定の取消請求を棄却した原判決に対して上告又は上告の受理の申立がされ、上告審係属中に当該特許について特許請求の範囲を減縮する旨の訂正審決が確定した場合には原判決には民事訴訟法325条2項に規定する法令の違反がある。
【事実】
本件は、XおよびX2が、窒化ガリウム系化合物半導体発光素子(いわゆる「青色LED」)を発明し特許庁に特許出願を行ったことに関連し、A、Bなどとの間において当該特許を争う一連の紛争が発生した。Xが出願し特許庁により設定された特許に対してAを含む4者が異議申立てを行いXの特許が取り消された。Xらは、特許庁の行政処分(審決)を不服として特許庁に対して、その審決に対する異議をなしたがそれでも尚審決の決定が覆らなかったために、特許庁を相手取り専属管轄裁判所である東京高等裁判所に対して決定取消請求訴訟を提訴した(旧特許法178条1項)。平成14年4月24日東京高裁は請求棄却の判決をしたので、同年5月15日Xらは、最高裁判所に対して上告および上告申立を行い、更に同年7月11日に特許庁に対して当該特許の範囲を縮減する目的で訂正審決の請求を行った。そのところ上告事件および上告申立て事件が最高裁に係属する前である平成14年9月2日に訂正容認の審決が確定した。これを受けてXらは原審を破棄するように求めた上申書を提出した。上告事件については上告理由に当たらないことは明かであるとして、上告棄却の決定がされている。して上告受理申立て事件について、上申書が提出された日まで理由書提出期間を伸張する決定をした上で上告受理決定を行った。
【判決理由】
1.訂正審決の可否について
「本件訂正審決は、本件特許の請求項1および2を別紙2の通り訂正し、請求項3を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮に当たる。」
2.最高裁係属前に訂正審決が確定したことについて
「本件のように、特許を取り消すべき旨の決定の取消請求を棄却した原判決に対して上告または上告受理の申立てがされ、上告審係属中に当該特許について特許出願の願書に添付された明細書を訂正すべき旨の審決が確定し、特許請求の範囲が減縮された場合には、原判決の基礎となった行政処分が後の行政処分により変更されたものとして、原判決には民訴法338条1項8号に規定する再審の事由がある。そしてこの場合には、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったのもというべきである(最高裁昭和58年(行ツ)第124号同60年5月28日第三小法廷判決・最判民事145号73項)<注>。そうすると、本件については、原判決を破棄し、更に審理を尽くさせるために事件を原審に差し戻すのが相当である。」
注;本件引用判例について
昭和60年5月28日第三小法廷判決・最判民事145号73項の要旨
実用新案登録を無効にする審決にたいして、当該審決取消訴訟を提訴したが、請求を棄却する旨の原判決が下されたとき、原判決の基礎となった口頭弁論の終結後に当該実用新案登録請求の範囲の記載の一部を訂正する審決がされた場合において
「そうすると、原判決の基礎となった行政処分の後の行政処分により変更されたものであるから、原判決には民事訴訟法420条項8号所定の事由が存在するといわなければならないが、このような場合には、原判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があったものとしてこれを破棄し、更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すのが相当である。」
【参照条文】
民事訴訟法325条2項、338条1項8号
平成15年法47号改正前の特許法114条、126条
【評釈の要点】
本判決の分析の要点となるのは、新民事訴訟法によって、上告理由から従来上告理由とされてきた法令違背が除外され(312条)、裁量上告制度(318条)が導入されたことにより、「上告審係属中に生じた再審事由と上告受理申立の受理要件の関係」という点である。さらに本判決においては上告係属中に再審事由が生じそれを上申書の形で提出したのを最高裁は上告受理理由提出期間を延長する決定をして、申立書を上告受理理由書として、上告受理決定を行っているという点で更に特異である。
これらの点は旧法下における「上告理由提出期間経過後の再審事由」と「再審事由と上告理由」という二つの議論に対応する問題点を含んでいる。
よって本判決において1.「再審事由に当たることは上告申立受理要件をみたすか」2.「上告申立理由書提出期間経過後の再審事由について、再審事由は上告受理申立理由書提出期間の拘束を受けるか。」という2点が検討すべき所であろう。
この判決の位置づけについて結論を先に言うと、本判決においてこれらの点については、旧民訴法で維持されてきた判例慣行を新民訴法上においても維持したものであるといえる。つまり、再審事由に当たることは、当然に判断に違法があると言い得るので、迂遠的な再審の訴によっての救済ではなくても上告において主張し得るのであれば、訴訟経済上これを認めるべきであり、判決においてその理由は明言されていないが、やはり訴訟経済上の理由から、再審事由を知ったときが上告受理申立書提出期間をすぎていても、上告受理申立書提出期間を伸張してこれを認めるべきだという判断をなしたと考えれる。
旧民事訴訟法から新民事訴訟法における改正ポイントについて
具体的な検討に入る前に、新民事訴訟法と旧民事訴訟法との相違を概観したい。1996年に成立した新民事訴訟法によって、現代語化、準備的口頭弁論(164条以下)、弁論準備手続(168条以下)、書面による準備手続(175条以下)の新設、証拠袖手手続きの文書提出命令対象の拡張(220条4号)による強化、少額訴訟制度の新設(368条以下)、上告制限制度の導入(312条上告理由の制限、318条上告受理制度)、書記官に対する権限の委譲など「訴訟の迅速化、合理化」が行われた。これらの改正のうち特に本稿において問題となるのは、上告制限制度の導入(新法312条)にとなう上告受理制度の導入(318条)である<注>。
注;312条1項「上告は、判決に憲法の解約の誤りがあることとその他の憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。」
312条2項「上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第34条第2項(第59条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
1号から5号省略
6号 判決に理由を付せず、又は理由に食い違いのあること。」
312条3項「高等裁判所にする上告は、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることを理由とするときも、することができる。」
318条1項「上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は原判決に最高裁判所の判例と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について申立により決定で上告審として事件を受理することができる。」
2項から5項省略
【評釈】
新法の成立によって、再審事由を受け止めていた法令違反という枠組み自体が上告理由から消滅してしまった。よって、再犯事由はどんなに重大なものであったとしても、明文上312条にもはや該当する事由ではなくなっているので旧法下において為されていた再審事由=上告理由の枠組みは、もはや明文によって否定されていると考えてよいだろう。
また、それに伴い上告理由提出期間と再審事由の存在を訴える上申書の処理の関係も、前提となる上告理由と再審事由の関係が崩れたといえる。
このことは、本判決において、最高裁が、特許範囲を縮減する旨の訂正審決が確定したことについて「行政処分が後の行政処分により変更されたものとして、原判決には民訴法338条1項8号に規定する再審の事由がある。そしてこの場合には、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったのもというべきである」<注>とし、325条2項を適用していること、またそもそも、上告を上告理由なしとして棄却決定していることからも明かである。
注;この「判決に影響を及ぼすことが明かな法令の違反」とは325条2項に定める職権破棄事由である。
新法312条は場屋理由と憲法違反と同条が規定する絶対的上告理由の二つに限定し、従来までは認められていた法令違反を認めないものとしている。
旧法下においては、再審事由(旧法420条)は当然に上告事由に当たるとされてきた。
この325条2項は、上告受理制度に対応して作られた規定であり、上告理由と上告受理理由とを区別しているのに対応した技術的改正である。
よって再審事由に当たることが318条1項上告受理理由にあたるか、そして上告受理理由と再審事由の官界はいかなるものかを明らかにする筆意卯がある。
上告受理制度は、新法において最高裁判所の負担を軽減する措置の一環としてアメリカ法における裁量上告制度に範を採って導入されたものである。上告受理申立ての方式、原裁判所による不適法却下などは上告提起と同じである(318条5項)。318条1項に該当するか否かは原裁判所ではなく最高裁判所のみが判断する(最判三小判決平成11年3月9日判タ1000号256頁)。最高裁判所は原裁判所から上告受理申立て事件の送付を受けると318条1項に当たるか審理し、当たらないと判断したときは不受理決定をする。そして318条1項に当たると判断し時は受理決定をする。
以下具体的に、1.「再審事由に当たることは上告申立受理要件をみたすか」2.「上告申立理由書提出期間経過後の再審事由について、再審事由は上告受理申立理由書提出期間の拘束を受けるか。」という2点について考察を加えていきたい。
1.再審事由に当たることは上告申立受理要件をみたすか
破棄差戻の要件を定める新法325条2項は312条規定の理由がない場合においても「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときは」326条の場合を除いて原判決を破棄し差し戻すことができるとしている。
本件においては、「原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったのもというべき」であるとして破棄差戻をしている。
まず、前提として再審事由は上告事由に当たるかという問題が新法においてどのように扱われているかを明らかにしておくと、もはや再審事由は上告事由から明文的に排除されていると言っていいだろうし、318条2項において、上告理由は上告受理理由とならないのであって、本判決もこれに従っていると考えられる。
従来は、再審事由に該当すれば、再審事由は法令違反の一種であるから、そのまま上告理由となり、上告理由なることはそのまま破棄差戻の要件を備えることになった<注>。
しかしながら、新法においては単なる法令違反は上告事由とならなくなり、再審事由が上告理由とはならないことになってしまった。
注;
従来判例は、再審事由に当たることは上告事由にあると認める旨の判示するのみであり、両者の関係について必ずしも法律構成を明らかにはしていない。本件において、新民訴法338条と同法312条の関係においても、旧民訴法420条と同法394条において判示された関係が維持されるのかが問題であり、この点に関連して旧法における再審事由の主張を許容するための上告期間伸張決定が行われるか否かについても注目すべきであると考える。
上告受理制度を定める新民訴法318条1項には、上告受理の要件として「判例の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件」とされている。この要件に再審事由に当たることが含まれるのかが問題である。
この点について、318条1項要件範囲は、1,最高裁判所の判断により法令解釈の統一を図る必要がある法律問題」2.「原判決の法解釈に誤りがありそのために原判決の結論に見過ごしがたい誤りがあると認められる場合」があるとする説がある(近藤)。もしくは、旧民事訴訟法394条後段「法令ノ違背」のうち重要性が高度であるものに限って受理理由となるとする説である(山本)。
近藤の説においては、2については本来事件個別の問題であるが、最高裁判所の最終審であり法律審であるという役割からこの点肯定している。つまり必ずしも新判断ではないが上告があったものと同等に扱うべきならば原判決破棄を免れないものを扱うと言うことである。そして、この原判決における法解釈の誤りには、旧法下において法令違背の一種とされた経験則違反や採証法則違反をも含むとしている。よって原判決に事実誤認に留まらない経験則違反等の違法があり2に該当するならば、要件を満たすとしている。だが同時に近藤はこのような事案における違法は、「法令の解釈に関する重要な事項」ではなく「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」(325条2項)であるといえ、職権破棄の事由に留まる可能性を示唆している。
一方の山本も、「法令の解釈に関する重要な事項」について経験則違背の扱いについても問題点を指摘している。つまりは、法令違背のうち重要度の高いものを上告適格があるとみる規定であるとすると経験則違背が重要度の高い法令違背たるかということであり、山本は、旧法下における学説において経験則の上告適格性を肯定しながらもその射程が十分に広くないことから新法下ではその上告適格性を否定する見解に触れつつも、経験則にいても法的問題を含むものがあり、上告適格性を否定すべきではないとしている。
このことを踏まえて、再審事由が上告受理理由として適性を持つかという点について述べると、両説ともに旧法下における経験則の上告適格性を新法下でも肯定するので、旧法下における再審事由が上告理由となる理由について経験則違背の一種として考えるのであれば、新法の下においても再審事由は上告受理理由として上告適格性を保ちうることになる。
また、最判事由が再審事由になることについて、それ自体に法令違背性を肯定する説も維持可能であろう。
2.上告申立理由書提出期間経過後の再審事由について、再審事由は上告受理申立理由書提出期間の拘束を受けるか。
上告審係属中に再審事由が生じた場合、従来はそのことについて控訴人側から上申がされ、最高裁は上告受理期間を上申された日まで伸張する決定をしたうえで、再審事由が生じたことを上告理由に組み入れた上で、さらにその再審事由が上告理由としてみとめられるとして破棄差戻をするという処理の仕方がなされていた。
しかしながら、新法成立により上告理由から法令違反が削除され、もはや名文的に、再審事由=上告理由とすることは無理になっている。しかしながら、訴訟経済的要求は変わることがない。
本判例においては、再審事由が生じた後に上告人が提出した上申書をその提出日まで上告受理理由提出期間の伸張決定した上で、上申書を上告受理理由書として扱っている。
旧民事訴訟法下において行われていた再審事由が生じた後その旨を申し立てる上申書をその提出日まで上告理由書提出期間を伸張した上で上告理由書として扱う処理においては、学説は伸張決定を要するものと不要とするものも2説があった。これら2節の際を生むのは、攻撃防御の公平と訴訟経済的利益のどちらに重点を置くかと言うこと、再審事由の補充性を上告理由となるときにも必要とするかということである。
伸張決定必要説は、攻撃防御の公平性から伸張決定は必要であるとし、再審事由がそもそも主張されているならば、上申書は上告理由と補完するものであり伸張決定が不要であるが、新たに再審事由を上告理由とする場合は、新主張の追加であるから伸張決定を要するとする。そして再審事由の補充性は、再審事由の濫用を防ぐ点からも必要であり上告理由としてもそれは変わらないのであって、再審事由の補充性を肯定する以上は、期間内に再審事由の補充性要件を満たしえないのであって、そのような場合は前述した公平の観点から伸張決定を以て扱えばよいと言うことになる。
再審事由を法令違背の一種として捉える場合においても法律審と事実審を分けないという観点から再審事由について上告理由としても補充性を肯定するので、上述と同じ結論に達する。
一方で伸張決定不要説は、再審事由と上告理由の関係について再審事由の補充性は再審の訴を行う上でのみ必要とされる訴訟行為上の要件であって、一般救済ができないときにおいて用いられる特別手段としての再審事由の性格から、そもそも上告理由の制度に対して収まりきるものではなく、例外的に理由書提出期間に拘束されずに再審事由を追完もしくは塚主張できるとすることによって、確定を待って再審の訴を提起するという迂遠な方法に依らずに訴訟経済的にも優れているとしている。更に伸張決定を容易に認めてしまうことは公平の間手院から言えば本来はあまり好ましいことではなく、期限が過ぎたことに対して信頼を置いている被上告人にとっては信頼を裏切られることとなるのだから伸張決定は特別な救済手段である再審事由による上告においては不要であるとする。
以上旧法かにおける上告理由書提出期間伸張決定に関する再審事由との関連について概括したが、新法下においてこれら旧法かにおいて展開された枠組みが適用できるかについて検討してみると、上告受理理由として再審事由が新法の下でも上告適格性を失わないことから維持できるものであると考えられる。
検討1と2から
旧法下における上告理由と再審事由に関する議論が新法の下でも維持できることを見てきた。このことを踏まえて、本判決を見てみると、再審事由については、325条2項を適用して、破棄差戻としていることから、再審事由の性格については本件において338条1項8号にあたることを「原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があったのもの」といえるとしていることから、法令違背の一種としていると考えられる。となると上述した検討1において述べたように、旧法下における枠組みが一応新法における上告受理制度においても維持されることになる。
また、本判決において問題となっている再審事由は338条1項8号であり、再審事由の補充性が正面から問題となりやすい可罰事由ではないので、本判決から直接的に補充性についての判断を引き出すことは難いが、上告受理理由書提出期限の伸張決定をしていることからおそらくは再審事由の補充性を上告受理理由として扱うときも肯定するものと思われる。以上から、本判決において、旧法下においての上告理由と再審事由の関係が上告受理理由と再審事由の間においても同じであると判断されたと考えてよいだろう。
つまり、判例においては再審事由は法令違背に当たりこの再審事由による法令違背は上告受理理由の要件を満たしている。その上で、上告受理理由としても再審事由の補充性は考慮すべきであり、そうなるともはや上告受理理由書提出期間に再審事由の主張を為すことは困難あり、かといって法令違背として処理している再審事由に対して特別に期間を無視させる脇庭行かず、期間を伸張することで、再審事由を上告受理理由として追加主張されたものとして扱っていると考えられる。
しかしながら再審事由は再審事由たることにおいて違法性を有していると考えるのがより合理的ではないだろうか。つまり、再審事由に当たるということは、原判決において公正な取り扱いがなされていないと言うべきであって、であるならば、何らかの救済がされてしかるべきであろう。このとき再審の訴による方法が一般的に採られるだろうが、公判係属中に再審事由が生じたのであればその係属している公判の中で治癒すべきであり、わざわざ確定を待つという訴訟経済的なロスに甘んじる必要はなく、本件におけるような場合、再審事由は当然に、「原判決の法令の解釈に誤りがあり、そのために原判決の結論に見過ごしがたい誤りがあると認められる場合」の範疇にあると考えるべきだろう。確かに、事実審法律審の分担を超越してしまいうるかもしれないが、しかしながら形式的な分離ではなく、実質的に紛争の解決という点に奉仕するのであれば、再審事由に当たることはその緊急救済的性格から例外的に処理されても問題はないと思われる。むしろ訴訟経済的要求の強まる近年においては迅速な紛争解決という観点からも積極的に肯定されるべきである。更に、上告受理理由書提出期限の伸張についてであるが、当事者間の攻撃防御の公平性から、そして再審事由による上告受理が特例的な上告ルートであると位置づける以上、一般的な上告受理理由の方式に納めることはできないので、伸張決定を為した上で再審事由藁谷上告受理理由として追加主張されたものとして扱うべきである。よって、上告審係争中に再審事由が生じ上告受理理由書提出後に上申書などの形で再審事由を上告人が主張した場合、最高裁判所は、上告受理理由書提出期間経過後であった場合、上告受理理由書提出期限伸張決定を為した上で上申書を上告理由書として追加主張されたものとして扱いうる。
以上。
【参照文献】
山本克巳 最高裁判所による上告受理及び最高裁判所に対する許可抗告
ジュリスト1996.10.1 No.1098 P.83
近藤崇晴 上告と上告受理の申立て
自由と正義 2001年3月号 P.52
【付録】
旧民訴法における判例学説
旧民訴法430条と394条について、判例学説ともに、その結論「再審事由は上告理由になる」については一致しているが、学説は4説ほど存在していおり、その法律構成が異なっており、混乱を来してしまっていた。故に上告理由書提出期間伸張決定経過後にわかった再審事由について上告理由とさせるために、上告理由書提出期間伸張決定の要不要についての判断が分かれていた。
判例の変遷では大正15年に民事訴訟法が改正され、ドイツ法に習い再審について、原状回復の訴、取消の訴とに分けて規定しており、法律審と事実審の区別を重視して、原状回復の訴については上告理由足らないと解されていたようであるが、前述改正によって両者が区別されなくなり(後述学説の一部にはこの点をもって、再審事由全てを上告理由とするという立法意思があったとする)改正後の大判昭和9年9月1日・民集13巻1768頁において「民訴法第420条第1項第6号ニ依レバ文書其ノ他ノ物件ガ偽造又ハ変造セラレタルコトノ有罪判決確定シタルトキハ斯カル文章又ハ物件ヲ証拠ト為シタル民事判決ガ既ニ確定シタル後ト雖当該判決ヲ為シタル裁判所ニ対シ再審ノ訴ニ依リ新ニ審理ヲ求ムルコトヲ得ルガ故ニ其ノ未ダ確定セザル以前ニ至リテハ一層強キ理由ノ元ニ当該裁判所ヲシテ審理ヲ新ニセシムベキモノト做スヲ相当トスベク、斯ク解スルコトハ所謂訴訟経済ノ原則ニ照ラシ是認セラルルニノミナラズ前記有罪ノ刑事判決確定ノ今日ニ至リテハ原院ハ結局同判決ヲ無視シテ裁判シタル違法アルコトニ帰シ訴訟手続ノ違背アルヲ免レザルニ依リ」と判示して以来、最高裁は訴訟経済上の理由に再審事由に当たれば違法のである、もしくは再審になれば確定判決の既判力を覆せるにも拘らず上告できないわけがないというような論理を付加的に用いて、最判昭和43年5月2日民集22巻5号1110頁、最判昭和53年12月21日民集32巻9号1740頁「上告理由として原判決につき同条一項六号所定の事由の存することが主張された場合において、当該事実に関し同条二項所定の要件が具備されていることが認められるときは、原判決につき判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違反があつたものとしてこれを破棄し、更に審理を尽くさせるため事件を原審に差し戻すのが相当である。」など再審事由の何がどのように法令違背であるのかについてはふるれること無く再審事由に該当すればすなわち上告理由であるという風にシステマティックに決している。これは訴訟経済という理由だけではなく、法律審として事実審には振れないという態度、つまりは再審事由に当たるとしてもその事由の内部についてまでは直接立ち入らず(再審事由があるか否かという点での判断はしているといえるが、上告理由として再審事由を認めた例においてはいずれも再審事由の存否確認が容易であった。再審事由に該るも上告理由として認めなかった例として最判昭和43年8月29日判決民集22巻8号1740頁「所論検証の結果についていう上告人の判断遺脱の主張は、民訴法四二〇条一項九号所定の再審事由に当らないとした原審の判断、ならびに証人Aの証言および被上告人(被告)本人の供述が虚偽である旨の上告人の主張は、同条一項七号、二項所定の再審事由に当らない旨の原審の判断は、いずれも正当として是認でき、原判決には所論違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、所論は独自の見解であつて採用できない(なお、当審において、かりに所論Aに対する起訴事実について原審口頭弁論終結後である昭和四二年三月二日有罪判決が確定した旨主張されたとしても、右有罪判決確定の事実は、原判決に対する再審の訴の再審事由となるものではないから、右主張を本件上告の理由として採用する余地は存しない。)。」があるが、これは判断の再審事由の存否にかかる問題であった。)再審事由が生じているという一事を以て差し戻し事実を再検討させて改めて法律審にくるならばそのときに処理しようという態度があるのではないだろうか。
学説においては、最判事由が上告理由となる理由について、4説があげられる(石川)。
説1.訴訟経済からいって当然である。
(判例通説)
説2.420条それ自体から導ける、明文規定がないのは訴訟政策上の過失である。
(少数;斉藤、兼子、竹下など)
説3.394条の法令違背の特殊形態であり本質は再審事由に該当する違法性にある。
(有力;飯塚、奥村、新堂など)
説4.394条法令違背の特殊形態であるが、その違背の本質は経験則違背である。
(少数;小室、石川など)
学説では基本的に、再審事由が上告理由たることについて積極的であるといえるが、1.訴訟経済型、2.法文根拠型にわかれ、更に法文について394条の法令違背と同質で有るのだからそのことを以て394条に準じて扱うとする説と、420条それ自身が上告理由足ることを想定しているのであって394条を持ち出すまでもないとする説に分けることができる。基本的には大正改正によって上告理由と再審事由の関係が不明確になってしまったのを受けた昭和9年9月1日大審院判決において「訴訟経済の原則に照らして」という文言が用いられてた結果当時当該判例について評釈が相次ぎ、それらを基礎として法条根拠説が発生してきたと考えられる。前述した通り判例は昭和9年9月1日判決以来取り立てて理由付けなくして、有るとしても「再審事由に該当する違法」(杉田)というような理由付け程度で、当然に再審事由たれば上告事由たるとしてきた。
対して学説はあくまでもその法的構成の追求を行い、再審事由があるときは当然にその事件に対する判断そのものが危ういのであるからここに法令違背があるとし(説3)、更にこの点について単なる394条の法令違背ではなくて、再審事由が生じたことによって自由心証の枠外のアクシデントが生じ、自由心証主義といえども経験則という枠組みに従うのであって、再審事由があるということは自由心証の基礎が崩れてしまっているわけであって当然に上告事由となることができるのであるとする(説4)。
これに対して、再審事由を定める420条の立法過程および420条1項から当然であるとする(説2)。この説においては再審事由はそれ自体が当然として法令違背性があるので、そのことを以て主張すれば足りるとするのである。
この両説の間においては420条説からは、394条に言う法令違背という場合の違背は具体的なものではなく抽象的な一般的意味であるので、具体的な規範たる判決のようなものはさしえないという批判が為されるのに対して、398条説からは上告審は法律審であって上告理由になり得るのは法令違背であり、補充的救済手段たる再審のその規定から直接上告理由を引き出すのは無理があるのであり、上告理由たるのであれば上告の章に書いてあるべきであるのであるからして自説の方が有利であるとして言える(この点について斉藤教授が旧民事訴訟法413条において再審事由を上告理由としうる旨の規定があったがこれを民事訴訟法においても採用すべきであったとしていることに言及しておこう)。
更に、上告理由期間を伸張するという決定の要不要についても必要説不要説に分かれるが、この分け目は再審事由の性格をどのように理解するかであって、つまりは、再審事由を上告事由として主張するときにおいても再審の補充性を要するのであるか、具体的には420条1項但書及び420条1項4号乃至7号420条2項の要件を具備する必要があるのかということであり、必ずしもどちらの条文であればどちらの説に決まると言うものではない。飯塚教授は、再審事由が上告理由足ることについて「民事訴訟法394条にいわゆる判決の結果に影響を及ぼすこと明らかな事実認定手続違背の特殊な場合」とし、再審事由を上告事由として主張するにおいても420条1項但書、420条2項の要件を満たす必要があるとし、そのように解するのであれば上告理由書提出期間に間に合うことがないことがあるのは明らかなので158条を適用して期間伸張をすべきであるとしている。小室教授もまたこの点について経験則違背をその理由としながら、420条2項については法律審と事実審を分けると言うこと、つまり法律審に事実審に属することをを持ち込まないという観点から要件具備を必要とし、再審事由について420条2項を満たさないままであるが一応主張して、上告理由書提出期間完了後に2項が満たすような場合においては補完にすぎないので必要ないとしているが、そもそも主張自体が満了の後は新たな主張の追加提出であるので158条1項によって伸張決定をすべきであるとし、420条1項但書につては再審の訴においてのみ再審の濫用を防ぐために機能するとして上告理由として再審事由を主張する場合には不要で、かかる機能を果たすのは139条によるとしているている。
新堂は、再審事由と上告事由との関係について、再審事由が上告理由になることは訴訟経済を指摘すれば十分であるが、法適用上は420条の解釈から導き出され394条の特殊例であるとし、再審事由というものの補充的救済手段という側面を重くみて、420条1項但書、420条2項を肯定する。その上で、上告理由書提出期限伸張決定についてこれを必要なものとする。なぜならば、法律審であるという建前を尊重するよりも実体的正義の迅速な実現が重要であって、また当事者間の攻撃防御の公平性という観点から上告審が斯かる理由について正式に採用したことを宣言する働きをしているからであるとしている。
竹下は、再審事由と上告事由との関係について、訴訟経済の観点から訴訟法全体から導き出されるとし、394条を根拠とすることは一般的救済ができないときにおいて用いられる再審事由を上告理由一般原則に押し込めようとするものであって両者は相容れないのであるとする。よって再審事由は再審事由であることを以て上告理由となるとする(「再審制度から上告制度に対する反作用」)。この上で、420条2項について法律審において主張するのであれば、手続きの性格の違いからいって必要であるが事実審での主張においてまで要求されないとしている。そして上告理由提出期間の伸張決定については、期間内から再審事由を主張しながら420条2項の要件が具備しないときは、あくまで同条同項は訴訟行為の適法要件であるのであって、上告又はこの上告理由を特に却下ないし棄却す
る裁判が有るまでは当然に期間後においても追完できるものであるとする。そして、期間満了後に初めて再審事由が主張できるようになったときにおいてはこれは例外的に期間伸張決定なしに主張できるとしている。なぜならば、期間後に新たに適法に主張しうるようになった事由について期間を制限を課すこと自体不可能であるからである。だからといって、確定を待って再審の訴をするなどと言うことは、そもそも再審事由を上告理由と認めたことに反し、迂遠であって訴訟経済上意味のないことである。更に言えば、不定期間ではあるが期間経過後に伸張の決定をするということは例外であってそれを認める明文がない上にこの期間に信頼が結びついている訴訟の相手方にとっては寝耳に水であって期間経過後に伸張を認めるべきではないのであって理由書提出期間を伸張するする必要はなく、期間経過後に再審事由が備わった場合それを追完ないし追加提出することができ、これは義務ではないので、確定を待って再審の訴を起こすことについて制限されないと説示する。
基本的には、394条に根拠をおく以上、139条による主張制約を受けるが158条に従って、その扱いについても本来の394条上告事由と同じく扱われ、つまり再審事由が新たな主張であるのであれば当事者の攻撃防御における公平の観点から必要であろうが、しかしながらあくまで再審事由により補完するにすぎず新たな主張ではないから伸張決定せずに主張できると説示するのである(小室など)。一方で420条自体に根拠をおけば、420条1項但書による主張制限、420条2項の充足を要すると解することになるが、ここにおいて上告事由であるということからそれらについては再審の訴においてのみ機能すると解するものもある。つまりは、上告事由として再審事由をみたときに、上告事由としての色合いで全体をみれば394条に関連した扱いとなるし、あくまでも420条再審事由という観点をみて、上告事由になることを例外的にみるのであればより420条に準じた扱いになるということになる(新堂など)。そして420条に依拠する説においては394条に関連した道具立てが使えないので例外的処理を多用することになってしまう(竹下)。
三谷忠之 再審 新判例コンメンタール民事訴訟法6
控訴理由x上告理由x再審理由 (法学教室1990.1No112)
民事再審の法理
小室直人 再審事由と上告理由の関係・裁判法の諸問題下
実用新案訂正審決確定の可能性と取消訴訟の上告理由(最判昭和58.3.3)
(民商法雑誌 89(6) 1984.3 p861〜865)
上告理由として民訴法四二〇条一項六号所定の事由が主張され
同条二項所定の要件が具備された場合と上告審のとるべき措置
(最判昭和53.12.21)
(民商法雑誌 81(3) 1979.12 p409〜417)
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藤原弘道 再審事由 民事訴訟雑誌26(法律文化社)
上田徹一郎 民事訴訟法 (法学書院)
石川明ほか 注釈民事訴訟法8巻9巻
平岡建樹 上告および上告受理の申立て(論点 新民事訴訟法)
加波眞一 絶対的上告理由についての一考察 (民事訴訟雑誌 49 2003 p1〜26)
篠田省二 上告理由として民訴法四二〇条一項六号所定の事由が主張され
同条二項の要件が具備された場合と上告審のとるべき措置
(最判昭和53.12.21)
法曹時報 (33(4) 1981.4 p239〜252)
伊東乾
山田恒久 上告理由として,民訴法四二〇条一項六号の事由が主張され
二項後段の要件が具備された場合の,上告審のとるべき措置
(最判昭和53.12.21)
(法学研究 ( 52(9) 1979.9 p1078〜1082 ))
豊田博昭 上告理由として民訴法四二〇条一項六号所定の事由が主張され
同条二項所定の要件が具備された場合と上告審のとるべき措置
(最判昭和53.12.21)
(法学新報 ( 87(5・6) 1980.8 p155〜167 ))
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