故事成語に「衣食足りて礼節を知る(物質に余裕ができて初めて礼儀や節度をわきまえられるようになる、という意味)」というものがありますが、世間をみてみれば、まだまだ衣食足りてないような感じです。食料も衣服もたくさん今の日本にはあふれているのに…です。「もったいない」ということばが一時期注目され、定着したのかどうかわかりませんが、最近耳にすることが少なくなりました。相も変わらず「グルメ・ブーム」が続いていて、「B級グルメ」「ご当地グルメ」「世界のグルメ」など、食に関するものには「グルメ」ということばがついてまわっています。「美食家」などというものもよく聞きます。
なんだかとても気安くこれらのことばを使っていますが、ほんとうはどんな意味で、どのように使うものなのでしょうか。
ご存知のとおりグルメはフランス語(Gourmet)です。英語でもそのまま使われるようですが、epicureといいます。辞書を引くと、美食家、食通または芸術などの洗練された感覚の持ち主、となっています。グルメは人間を表現することばです。ワイン通などの料理に関連した情報に詳しい人もグルメと呼ばれたりします。また、料理そのものではなく、「芸術的な料理」を賞味する行為もグルメといいます。
「B級グルメ」「ご当地グルメ」では料理、「世界のグルメ」では高級食材という意味で使われているようで、いつのまにか変化してきてしまったんですね。
それにしても芸術の国フランス、食と芸術がリンクしています。料理と作法をまとめあげたフランス料理を生み出した国ならでは、と感じます。
ちなみに、食通とは料理の味や知識について詳しい人で、美食家は人並みはずれて美食を追求する人とされています。グルメ=食通=美食家ということになりますが、グルメにはもうひとつの意味がありました。
『美味礼賛』という随筆を著したブリア・サヴァランが有名ではないでしょうか。フランスの政治家で、美食家(グルメ)でもあった彼のこの著作の原題は、とてもとても長いもので、まるで学術論文のタイトルのようでもあります。書かれたのは1825年ですが、いまも美食家たちの必読書のような作品です。有名なことばは「どんなものを食べているか言ってみたまえ、君がどんな人間であるかを言いあててみせよう」です。
日本では陶芸家としても有名な北大路魯山人。人気コミック『美味しんぼ』の海原雄山のモデルともいわれています。会員制の美食クラブを発足させたり、茶寮の顧問兼料理長として料理・食器の演出に携わったりしました。
ソムリエや調理師専門学校長などもグルメに入るのでしょう。もともとのグルメの意味を考えると納得できます。
グルマン(フランス語:Gourmand)は、美食家、食い道楽または大食漢という意味です。日本では、グルメ=美食に対して、グルマン=大食漢・大食いととらえられているように感じます。あまり良いイメージがわかず、グルマンということばに申し訳がないですね。グルメには「快楽主義者」という意味も含んでいるので、なるほどなと思います。
作家の太宰治が『食通』という短い作品を書いていて、「食通というのは大食いの事で、安くておいしいものをたくさん食べるのが食通の奥義」とありました。彼はグルメではなくグルマンなんですね、きっと。
また、彼は「私は一つの皿の上の料理は、全部たべるか、そうでなければ全然、箸をつけないか、どちらかにきめている。料理の食べ残しは、はきだめに捨てるばかりである」と『佐渡』という作品で書いていました。