儁irabilis jalapa


補給のために立ち寄ったカン・バルクは相変わらずの豪雪でとても寒い。
エリーゼの家があるという話をユルゲンスを通じて聞き、その場所を探す為に長いことモン高原を探索した。
目的地も無事見つかり、それはよかったものの、長時間あの雪原を歩き回った影響でかなり疲労が溜まっている。

 「じゃあ僕、ちょっと消耗品補給してくるから先に宿行ってて」
 「すまないなジュード」

ざく、ざくと雪道を踏みしめながらモン高原側の入り口から進み始める。
とはいっても、宿と商店は同じエリアにあるため、十字路の手前にある道具屋でジュードは他のメンバーと別れた。
ひとまず消耗品の補給と、ついでに収集品を引き取ってもらうかどうか、倍率の確認をしようと道具屋の主を訪ねる。

倍率は今のところどれも2.0でもう少し様子を見てみようかなと、ジュードは考え込む。
ひとまずグミ類とボトル類をある程度買い込んで、次は武器屋と防具屋も覗いていこうかと振り返ると、目の前に人影があった。

 「・・・・・・あれ、アルヴィンどうしたの?」
 「宿の部屋、1部屋しか空いてなくてな。お嬢様方がお着替えっていうんで追い出されたわけ」

その理屈でいくとローエンも追い出されたのだろうが、彼はきっと宿の1階でのんびり読書でもしているのだろう。
暇を持て余しています、という空気を醸しているアルヴィンを前に、
そういえば彼の武器もそろそろ買い替え時かなと思っていたことを思い出した。

 「なるほどね・・・・・・でも丁度よかった、これから武器屋と防具屋も覗いていくつもりなんだけど、一緒に来ない?」
 「そんじゃついてくわ」
 「うん」

通りへ戻って十字路の方へと歩き始めたところですっぽりと抱えていた荷物を抜き取られた。
一瞬何が起きたのか分からなくてただ荷物が上に移動するのを目で追う。
ジュードの腕の中から離れた荷物は、アルヴィンの右腕の中に収まっていた。

 「あ、別に荷物持ち頼むつもりだったんじゃないのに」
 「両手で荷物抱えてたんじゃ、滑って転んでも手がつけないしな」
 「レイアじゃないんだから、転んだりしないよ」

以前カン・バルクへ立ち寄った折に雪だ雪だとはしゃいでいたレイアが、気持ち良いぐらいに思いっきり滑って尻餅をついた。
さすがにあんな不注意はないだろうとジュードは苦笑する。
さほど距離が離れていない武器屋に到着し、早速商品を眺め始めた。

 「アルヴィンの武器、そろそろ消耗してきてるから買い換えよう」
 「ん?よく気づいたな」
 「・・・・・・いつも一緒に動いていれば、さすがに分かるよ」

今、変な間を作ってしまったなと、ジュードは内心反省する。
言外に伝えるつもりのないニュアンスが伝わってしまいそうだ。

未だに困惑したり迷ったりしている様子こそあるが、アルヴィンはようやくと以前の調子が戻ってきている。
そんな彼の変化を眺めているうち、ふと気づくといつもジュードの視線は彼の姿を追うようになっていることに最近気づいた。
その理由は何となく思い当たってはいるものの、今はまだ確信を持てずにいる。

 「へーえ・・・・・・ま、それじゃあお言葉に甘えますかね」

気づいたうえで気づいていない素振りをしているのか、本当に気づいていないのかは分からない。
とりあえず追求されなかっただけいいかと、一行のお財布係として会計を済ませた。



宿に向かうとどうやら男子禁制は解かれたようで、今夜泊まる部屋に入ることができた。
荷物を置いてから全員揃って温かな夕食をとり、部屋に戻ってからは今夜のベット割の相談が始まる。

 「カン・バルクの難点は椅子がね・・・・・・ソファだったらよかったのに」
 「ジュードさん、室内とはいえこの豪雪地帯でベッド以外の睡眠は厳しいですよ」

確かにローエンの言うとおり、暖を取れているとはいえど寒いことにはかわりない。
ともすれば、ベッド4つをどうにか6人で使うしかないという結論に至る。

 「じゃあはーい、わたしエリーゼとティポと同じベッドね!」
 「はい、よろしくお願いします」
 「レイアと一緒ならいーよ!」

真っ直ぐに手を挙げたレイアにエリーゼとティポもそれでいいようだ。
さすがにミラと男性陣が同じベッドというのはあまりにどうなんだということもあり、
ここは普通に男性陣3人のうち2人は同じベッドということになる。

 「別に私は構わんのだが・・・・・・」
 「いや、そこは構ったほうがいいよ?さすがに」

別段気にもした様子はなく、漢前発言をするミラにジュードは冷静な突っ込みを入れる。
寂しいならティポと寝てねとミラに言うエリーゼのほうが、よほど常識的だ。

 「さて・・・・・・さすがにアルヴィンさんと私というのは狭すぎるので、ジュードさんとどちらか、でしょうな」
 「俺もさすがにローエンと同じベッドじゃ、朝には落下してそうだわ」
 「まぁそうなるよね、サイズ的に・・・・・・僕はどっちとでもいいけど、どうしようか」

そうは言うも、内心ではどちらがいいのかどこかで希望を持ってしまっている自分に気づく。
完全に意識してしまっている、きっかけはきっとカラハ・シャールで押し倒されるようなかたちになったあの一件だ。
最近こういう相談事は最終的にジュードがこうしよう、と決めることが多い中、今回は中途半端な反応をしてしまい、
アルヴィンかローエンかが何でもいいから決めてくれないものかと、ジュードは苦笑した。

 「これは言ったもの勝ち、ということで私がベッドをひとつ使ってよろしいですかな」
 「・・・・・・だそうだ」
 「うん、じゃあそれで」

結論はあっけなく出た。さすがは指揮者とよく分からない賞賛を心のうちでひっそりとしておく。
客観的に見ても自分の思考回路が不調をきたす域に達していることはジュード自身理解してはいた。

 「まくらどうしよっかーさすがにティポをまくらにはできないよね・・・・・・」
 「レイアひっどー!」
 「そんじゃあこれ使えよ」

そう言ってアルヴィンは自分たちの使うベッドのまくらをレイアに放った。
うまいことそれをキャッチしたレイアは、一瞬きょとんとしたあとに嬉しそうに礼を述べる。
あぁ少しはわだかまりも落ち着いてきたなと思ったのもつかの間で、
アルヴィンがまくらを投げたのであればジュードのまくらもないということだ。

 「けどよかったの?そっちも2人で寝るんでしょ?」
 「別になくても平気だろ、なぁ?」
 「え?んーまぁいいんじゃない」

さすがに今更返してくれなどと言えるはずもないし、折角いい空気になっているのを無碍にすることもない。
まくらがないなら上着でもたたんでまくらにしてしまおうかとも思ったが、なくても寝れるかなという結論に至った。
否、そもそもアルヴィンと同じベッドでちゃんと眠れるのかという話でもある。

 「それでは灯りを落としますよ」

部屋の灯りに近いベッドに陣取っていたローエンが一声かける。
荷物の封を締めて、欠伸をかみ殺しているアルヴィンがいるベッドへと歩み寄った。
シーツを捲り挙げてぽんぽん、とベッドを叩かれて少し気恥ずかしさを感じながらも空けられたスペースに収まる。
ジュードがベッドに入ったのを見計らったのか、そのタイミングで部屋の灯りは落ちた。

 「そんなに隅にいたら落ちるぞ」

ぼそりとそう呟かれて、部屋が暗くなってすぐに閉じた目蓋を持ち上げると、暗闇に慣れた目がアルヴィンを捉える。
思いのほか近い距離で一瞬焦ったが、同じベッドにいればこんなものだろうとどうにか平常心を取り戻した。
しかしこれ以上内側に詰めると、精神衛生上あまりよろしくない気はする。
かといって変に遠慮すると、何かとマイナスに捉えがちになってしまったアルヴィンが悪い方に捉えかねない気もした。

 「・・・・・・じゃあ、もう少し寄っていい?」
 「どーぞ?」

シーツを持ち上げられると冷気がふわりと体を掠める。
これは確かにローエンの言うとおりで、あの椅子がソファだったとしてもベッドで寝ないと風邪を引きそうだ。
その寒さのあまりに勢いあまって体を動かしすぎて、存外アルヴィンと密着する位置に落ち着いてしまった。
一度動いた手前、今更距離を離すことはできないし、何より持ち上げられていたシーツはアルヴィンの左腕ごと降りてきている。

 「はい、おやすみ」
 「うん・・・・・・って」

まるでそこにまくらがあるかのように少し高い位置で頭が落ち着いてしまい、何故かと思えばそこにはアルヴィンの右腕があった。
どうしてこうなった、と今にも頭を抱え込みそうな衝動を覚える。
これではどうみても自爆行為だ、眠れるはずがない。

 「腕、しびれるよ」

どうにか振り絞った問いかけには返答がない。
しかもシーツと一緒に降りてきたアルヴィンの左腕は未だにジュードの頭を抱え込むような位置に置かれたままだ。
少し前であればこれでも眠れたのかもしれないが、一度意識してしまったら無理に決まっている。
そうだこの前読んだ医学書の復習でもしよう、などと現実逃避を始める始末だ。



どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
他のベッドから寝息が聞こえてくる中、未だにジュードは眠れずにいた。
いっそ気絶でもできればいいのではないかという考えが浮かぶ時点で、完全に思考回路が参っている。

 「・・・・・・っ」

ふと、アルヴィンが小さく唸る。
目が覚めてしまったのだろうかと様子を窺うも、閉じられた目が開く気配はなかった。
しかしいつもは後ろに流している髪が垂れているその隙間から見えた表情は険しい。
アルヴィンは魘されているようだった。

こういう時は起こした方が良いのだろうか、どうしようと考えているうちに段々苦しそうに浅い息を繰り返し始める。
思わず伸ばした手はアルヴィンの頬に触れるすんでのところで一瞬止まったが、ひとつ息をついてからそっと触れてみた。
顔がこわばっている様子が、その感触からも伝わってくる。

 「・・・・・・」

小さく呟かれた声は上手く聞き取れなかったが、しきりに何かを謝っているようだった。
最近調子が戻ってきたと思っていただけに、改めてその根深さを思い知らされる。
繰り返される謝罪の言葉に、胸が苦しくなる。

 「・・・・・・アルヴィン」

上体を少し起こすと、肩のあたりにおかれていたアルヴィンの左腕が腰の辺りへと移動する。
今はそんなことは気にしている場合ではなくて、少しでも早く彼を悪夢から起こさなければと
頬に触れていた手で彼の左肩を掴んで揺らした。

 「アルヴィン」
 「ん・・・・・・」

ゆっくりと開かれたアルヴィンの目は寝起き独特のぼんやりとしたものだった。
数回瞬いたあと、疲弊したような視線がジュードへと向けられる。

 「大丈夫?魘されてたけど」
 「悪い、起こしたか」

そもそも眠れていないとも起こされたとも言えず、曖昧に笑って誤魔化す。
あぁ弱ってるなぁとジュードは思った。
そして自分もどうしたらいいものかと弱ってる。

 「・・・・・・水でも飲む?」

寝起きのせいだけかもしれないが、アルヴィンの声は少し嗄れてしまっている。
水差しのある場所に行くためにはベッドを出なければならない。
起こしていた上体はそのままにベッドの外へと足を出そうとしたところで不意に右手を握られた。

 「水は、いい」

そう言いながら、アルヴィンは握った手を引く。
引かれるままにベッドへ倒れこむと、ジュードの右手から離れた彼の左腕に抱き寄せられるた。
すっぽりとその腕の中に抱え込まれてしまい、これはカラハ・シャールの時と同じだと思った。

 「ちょ」
 「・・・・・・わるい、こっちがいい」

舌足らずに喋るアルヴィンは、そのまま再び眠りについた。
抱きすくめられてしまったせいで完全に体が密着している。
しかし一度落ち着いてしまったせいなのか、それとも開き直ってしまったのか、
今度は逆に、寝起きだったアルヴィンの体温が温かくてうとうととしてきた。

 「・・・・・・」

もういいや、と完全に思考回路が停止したジュードは右手をシーツの中でアルヴィンの背へと回した。
アルヴィンの胸元に顔を埋める格好となり、彼の左手は腰のあたり、右腕がジュードの頭を抱え込む。
この状況を明日他のメンバーに見られたらどうしようか、などとぼんやり考えたが、
考えがまとまらないうちにジュードは眠りに落ちていった。



知らず彼を目で追ってしまう理由、確信が持てていないなんて自分が自分についた嘘だった。




我が家のアルジュは全然くっつく気配がなくてどうしようかと思って書いた結果がこれだよ。
両片思いなていにしたかったんだけど・・・・・・あれ?
タイトルはまたお花の学名。TOXは花言葉使うといいなと思う、エリーゼの家のイベントもそうだけど。