儡tellaria media
モン高原から繋がる音無しの洞窟が魔物の巣窟になっているという話をカン・バルクで耳に挟む。
音無しの洞窟といえば、エリーゼの家があった場所の手前にある道の細い洞窟だ。
複雑そうな表情でその話を聞くエリーゼに、少しでも魔物を減らそうと討伐へ向かうことになった。
「思い出の場所の近くに魔物が大量、なんてあんまりだもんねーわたしがばっきばっきなぎ倒しちゃうよ!」
「あの、ありがとうございます・・・・・・」
レイアの言葉にエリーゼは少し申し訳なさそうに、それでいて嬉しそうに礼を述べた。
それにしてもモン高原はいつ通っても体の芯まで凍えるような気候だ。
障害物もろくにないこの高原を吹き抜ける風はどこまでも冷たく、その空気を吸い込むだけで肺が一気に冷える。
「あー・・・・・・ミラ様のその格好、見てるこっちが寒くなるわ」
「ふむ?今はイフリートがいるからな、私は全然寒くないぞ」
何ということもないといった様子で答えるミラの格好は、
そもそもこの冷たい風でスカートが捲れてしまわないかという不安すら感じる。
そしてそんなやりとりを聞いていると、以前の風邪を引いてみたいなどとのたまう彼女を思い出した。
そうこうしているうちに前方には音無しの洞窟への入り口が見えてくる。
この距離からでも妙に魔物の気配が多いように感じた。
早速と洞窟の内部へ入ると、以前エリーゼの家を探しに来たときの比ではない数の魔物が犇いている。
「これはなかなか手ごたえがありそうですな」
「いつのまにこんなことに・・・・・・これも霊勢の乱れが原因なのかな」
「かもしれないな・・・・・・よし、では行こうか」
ミラの声を合図に、ジュードはアルヴィンと前方へと踏み出した。
次いでエリーゼとローエンが詠唱を始め、後方から近づく魔物をミラとレイアが牽制する。
迫り来る魔物は多いが、拳を叩き込んだ後に輪舞旋風でできるだけ引き寄せて飛燕連脚で蹴りを入れた。
「行くよアルヴィン!」
「おう」
魔物がかたまっている位置を狙ってリフレクトボミングを叩き込むと、ふわりと熱を帯びた空気が頬を撫でた。
うまいこと共鳴術技が決まったところにすかさずローエンのブライトベルが澄んだ音色を響かせた。
後方では地水火風とエレメンツ4が綺麗に決まり、エリーゼのリベールイグニッションがオーバーキルの勢いで留めをさす。
怒涛のラッシュのお陰で、あれだけの数いた魔物もその姿がなくなった。
恐らく一部の魔物は逃げ出しているのではないだろうか。
「・・・・・・ん?」
ようやく一息つけるかなと思った折、ふと、天上からぱらりと小石が落ちてくる様子が視界に入る。
薄暗い洞窟の中、目を凝らして天上を見ていると、少し後方に立っていたアルヴィンに右腕を強く引っ張られた。
危うく転倒するのではないかというぐらいに千鳥足になったが、ぽすりと後頭部がアルヴィンの胸元にぶつかる。
一体どうしたのかと問おうとして顔を後ろへ向けた途端、
凄まじい轟音が前方から響き、土埃が勢いよく押し寄せてきた。
咳き込みそうになったが、アルヴィンの方へ向いた状態で抱え込まれ、
体を捻った彼の背が盾になるように土埃が発生した方へと向く。
「げほっ・・・・・・大丈夫か?」
「う、うん」
頭の上から咳き込むアルヴィンの声が聞こえ、それに応じる。
ようやくジュードを抱え込む腕の力が緩められ、ジュードはひょっこりと体を傾けてアルヴィンの向こう側を見遣った。
「・・・・・・え、まさか岩盤落下?」
「ごほっ、どうやらそのようだな」
ジュードの問いに答えたのは埋まった洞窟の向こう側、モン高原方面にいるミラの声だ。
改めて己の立ち位置を考えてみれば、ジュードとアルヴィンがいるのはエリーゼの家があった場所側ということになる。
岩盤が落下したのはジュードとアルヴィンのいた場所と、エリーゼとローエンがいた場所の間だったらしい。
このままでは帰れないではないかと頭が痛くなった。
「こっちは大丈夫だったけど、ジュードとアルヴィン君も平気ー?」
「こっちも問題ねぇけど、これじゃ俺ら帰れないな」
「ティポでもさすがにこの岩は飲み込めませんね・・・・・・」
「む、無理すぎー!」
あの伸縮性抜群のティポの大口でも、さすがにこれだけのサイズの岩を飲み込むはどうみても無理だ。
これは困ったなと思いつつアルヴィンの顔を見上げると、先ほどの岩盤落下で飛び散った小石で頬を切ったようだった。
左頬だったため、右手を伸ばして治癒功を使う。
「お、ジュードくんってば優しい」
「はいはい」
こんな状況でもにやりと笑うアルヴィンにジュードは苦笑して応える。
掠った程度だったようで、まもなくして傷口は塞がり、持ち上げていた手を下ろした。
「そうだ!ノームに頼むのはどうだ!?」
「ミ、ミラ、頼むから大技使うのはやめてよ?!更に落下してきたら僕たち埋まっちゃうよ」
「ふむ、妙案だと思ったのだがな・・・・・・」
いささか残念そうに呟くミラに、冷や汗が流れる。
恐らくこの岩盤落下も、先ほどまで派手に魔物と戦っていた影響だろう。
だとすれば、へたすればエリーゼの家があった場所への道すら岩盤が落下して、完全に閉じ込められる危険性すらある。
そんなことになっては終いには酸欠になって命すら危うくなってしまう。
「ここは一旦シャン・ドゥまで行って、掘削できるものを持ってくることが得策でしょう」
「そうだなぁ、あそこは岩削ってでかい像作るような街だから、丁度良いのがあるだろ」
「そういうことです。ですのでお二方には申し訳ないのですが、そのまましばらくお待ちください」
指揮者イルベルトが同行者にいてよかった、本当によかったとジュードは心から思った。
モン高原側にいた4人がシャン・ドゥに向かった後、ジュードは壁を背に座り込んだ。
向かい側の壁にはアルヴィンが腕を組んで立ったまま寄りかかっている。
「アルヴィンさっきはありがとう」
「ん?」
「何かさり気なく庇ってもらっちゃったからさ」
落下してきた岩盤を避けられるようにというだけでなく、
それによって発生した土埃やとびちった小石から、アルヴィンがジュードを庇ってくれた。
そのお陰で、ジュードは岩盤落下による怪我は擦り傷ひとつない。
「何、俺のこと惚れ直しちゃった?」
「なっ、人が真面目にお礼言ってるのにどうしてそういう言い方するかな・・・・・・」
急に恥ずかしくなって、ジュードは膝を抱え込んで顔を埋めた。
発した言葉の後半はもごもごとなってしまい、前方からはくくくと小さな笑い声が聞こえてくる。
「もう・・・・・・はぁ、さっきまで戦闘後だったから暑かったけど、冷えてきたかも」
「まぁこんな雪国じゃ、洞窟の中なだけマシとはいえ、ねぇ」
良くも悪くも洞窟の通路が埋まったせいで、風が吹き抜けるようなことはない。
そもそも落盤が発生時点でついていないわけではあるが、不幸中の幸いと思っておくことにした。
ふと、何か考え込むような素振りをしているアルヴィンに気づき、首を傾げながら様子を窺う。
「ジュード、ちょいちょい」
「うん?」
「いいからこっちこいって」
唐突に手招きをされてクエスチョンマークを浮かべながら、ジュードは座り込んでいた地面から立ち上がる。
目の前で壁に寄りかかる彼のもとに歩みよると、何だか楽しそうに笑っていた。
両手を肩に置かれ、何故か背を向けさせられる。
「え、何?」
しゅるっと布が擦れるような音が後ろからしたと思ったら、ふわりと何かが首筋に触れた。
何かと思い振り返ろうとすると、肩の上から彼の両腕が前にまわされて、何かが目の前で交差する。
その流れるような動作に、何が起こっているのか理解するまでしばらくかかったが、
後ろで何かが結ばれたところでようやく状況を把握した。
「ぷ・・・・・・くっ」
再び肩に置かれたアルヴィンの手に体の向きを変えられ、改めて向かい合うと彼は噴出しそうになって口元を塞ぐ。
ようやく把握した状況、それはアルヴィン愛用のシルク製のスカーフがぐるりとジュードの首元に巻かれ、
どうやら後ろで結ばれているようだった。
片手でその結ばれている場所に触れてみると、どうにも大きな蝶々結びになっているようだ。
「くくっ・・・・・・蝶々結びが思いの他似合ってんぞ」
「じっ、自分でやっておいてひとりで爆笑しないでよ、もう」
「く・・・・・・はは、わりぃわりぃ」
謝ってはいるが、とてもではないが謝っているようには見えない。
しかしシルクといえば保温性が高い、先ほど肌寒さを感じていた状態は大分緩和された。
ふんわりとまかれていることもあって、顔半分をスカーフに埋められる。
「・・・・・・あれ、ちょっと気に入った?」
「まぁ、暖かい・・・・・・けど・・・・・・」
両手で顔にかかるスカーフに触れると、シルクのさらりとした感触が気持ち良い。
ただ、鼻を掠める彼の匂いがたまらなく恥ずかしい。
先ほど冷えてきたと零したから、気を遣ってくれたのだろうと分かってはいるものの、
何だか悔しくて素直にお礼が言えない自分はまだ子供なのだろうなと、ジュードはぼんやり考えた。
天然なミラ様が好きです。
ただ、二次創作のアルジュを書いているはずなのに気づいたらあまり公式であっても違和感がなさそうな話になっていた。
な・・・何を言っているのかわかr(以下略 あ、そうか公認だもんね、仕方ないね。