冱econdando


噴出していた瘴気への対処のためタタール冥穴を奥へ奥へと向かう最中、
シルフの風のバリアを利用しての移動自体はさほど問題がなかったものの、戦闘ともなると勝手が悪かった。

 「あまり私から離れるな」

自然と術を行使するミラを中心とした陣形を取ることとなったが、それは普段の陣形とはかなり異なる。
普段後方からの敵を対処するミラが陣の中央に位置するエリーゼとローエンと共に立っている。
なるべく術は後方を優先する方向で、レイアはいつも通り後方に立っている状況だ。

 「レイアほんとに大丈夫?」
 「平気平気ーそれに、基本的には後ろ側って通ってきた道側だから、そんなに魔物こないし」

レイアはそう言うが、魔物なんてものは不意に姿を現す。
ただ彼女もこれまでの旅で随分と腕も上達しているのだから、任せても大丈夫なんじゃないかという考えと、
とはいっても昔の彼女のことや、そもそも女の子なのだからと思うと、ジュードの中でも平行線になっていた。

 「なるべく戦闘を避けて、急いで奥へ向かいましょう」
 「そうだね・・・・・・じゃあ行こう」

何はともあれ、風のバリアもそう長くはもたないらしい。
今は目的地へ急いで進むことを優先すべきと、ジュードたちは階下層へと進んでいった。



ようやくたどり着いた場所は開けた場所で、でも薄暗く道が細い。
道なりにゆっくりと進んでいくとそこが目的地ではあったものの、巨大な魔物の影があった。
瘴気を封じるにしてもその魔物を倒さないことには話にならないと、戦闘を開始する。

 「風のバリアはもう長くはもたない、急ぐぞ」

バリアが消えて瘴気の中へと生身で放りだされては命が危うい。
とはいえ急いてことを仕損じては元も子もない、ジュードはひとつ深呼吸をしてから魔物へと駆け出した。
右側に回りこむように駆けると、リンクするアルヴィンは左側へと回り込む。
様子見の魔神拳、次いで連牙弾と打ち込みながら様子を窺う。

 「うあっ」

攻撃の合間に魔物の攻撃がすかさず入り、僅かに後方へと体が吹き飛ぶ。
どうにか受身を取り大事はなかったが、風のバリアぎりぎりの位置に着地した。
ここまでの戦闘と比べても、これはかなり危険だ。

 「ジュード、平気か!」

魔物の攻撃を往なしながら問い掛けてくるアルヴィンに頷いて応え、屈んだ姿勢から立ち上がる。
途端、アルヴィンの大剣を弾いた魔物が急速に動いた。
勢いよく地中へ潜り込み、ミラとエリーゼ、ローエンが立つ位置の足元へと飛び出す。
彼らはそれをどうにか飛び退いて避けたが、エリーゼとローエンの唱えていた術は詠唱が中断を余儀なくされた。

 「イフリート!」

ミラの呼びかけに応じて現れた大精霊イフリートの炎が煌き、その斬撃とブレスが魔物に命中した。
呻き声をあげた魔物がふらふらと数歩歩き、その先には後方からまばらながらも姿を現す
道中にもいた小型の魔物を始末しているレイアの後姿がある。

 「レイア後ろ!」
 「よっと・・・・・・えっ?」

丁度魔物を倒したところだったようで、ジュードの呼び声にレイアが振り返る。
よろけていた魔物も意識がはっきりしたようで、丁度目の前にいたレイアめがけて勢いよく足を振り下ろした。

 「きゃっ!!」

その風圧に弾かれたレイアが大きく宙を舞い、後方の壁へと衝突した。
衝突した位置でぐらり、と彼女の体が傾いてそのまま地面へと落下する。

 「まずい、バリアの外だ」

ミラの焦った声が聞こえる。
しかし彼女はシルフの力を借りて風のバリアを展開している立ち位置のため一歩踏み出して留まった。
いまだ後方には数体の魔物の姿もあり、瘴気の中で生身の人間が晒されている状態は危険すぎる。
バリアの外といってもそこまで遠い距離ではないと、ジュードは覚悟を決めて駆け出した。
 
 「なっ、おいジュード!」
 「ごめん、アルヴィンそっちはお願い」

レイアに追撃は入れないまま、魔物は再び地中へと潜り、ジュードとアルヴィンのもとで飛び出してきた。
魔物からの攻撃を大剣で受け止めて弾き返し、エネルギー弾を放つアルヴィンの横を駆け抜ける。
そのままエリーゼとローエン、そしてミラのもとを通り過ぎて風のバリアの効果範囲から出る直前にリンクをきった。
さすがにリンクを繋げたまま瘴気の中へ飛び出すのは、リスクが増すだけだ。

 「レイア、大丈夫?」
 「う・・・・・・ごほっ、ごめ・・・・・・」

倒れているレイアの上体を抱き起こすと、どうにか意識はあるようだった。
よろり、としながらも立ち上がろうとする彼女の手を取り、引っ張りあげるようにして立ち上がるのを手伝う。
立ち上がったところでふらついた彼女を支えれば、苦しげながらも礼を述べた。

 「レイアはミラたちのところ戻って、後ろは僕がやるから」
 「えっ、でも」

会話する声が聞こえたのか、後方をうろついていた魔物がジュードとレイアの方に向かって一直線に走ってくる。
ふらふらとしているレイアが風のバリアの中に着くまでは、魔物を相手にしながら少しずつ後退する他なさそうだった。
いいからはやくさがれと語調強く言うと、申し訳なさそうな顔をしながらもレイアがゆっくりながらもさがっていく。

 「獅子戦吼!」

接近してきた敵を吹き飛ばしてこちらも一歩後退、そして転倒から起き上がったところに魔神拳で追撃する。
そしてまた一歩後退、叛陽陣を設置して一歩後退するところで段々と呼吸が苦しくなってきた。
ただでさえ瘴気の中に生身でいるうえ、こうも技を連発していては息も切れる。

ちらりと視線だけ振り返って様子を見ると、どうにかレイアは風のバリア内まで到達したようだった。
そろそろかなり辛い、一気に後退しようと思ったところ地面が大きく揺れる。
どうやらあの巨大な魔物が地中を移動しているようだ。

 「く・・・・・・っ」

限界が近づいていた体は一度よろめいてしまうと立て直しがきかず、ジュードはその場に膝をついた。
そしてまずいと思った時にはすでに遅く、接近して飛び掛ってきた魔物への対応が遅れる。
右の太股に強烈な痛みが走り、そのまま崩れた体勢は重力に逆らわずにその場へと倒れた。
あぁこれではミイラとりがミイラになってしまうと思うが、体が自由に動かない。

 「ジュ、ジュード!?」

風のバリア内でようやく調子を取り戻したらしいレイアが名前を呼んでいる。
もしこのまま自分が死ぬようなことがあれば、きっと彼女は一生悔いてしまうのではないかと思った。
そこまで考えたところで、そうかこれはさすがにそろそろ死にかねないのだと、改めて考える。
ぼんやりとしてきた視界の中で地中から飛び出してきた魔物をアルヴィンとレイアが大きく跳ねて回避していた。

 「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・っ」

着地したところでアルヴィンとレイアが何かやりとりをしているように見えて、
次いで彼がこちらの方へと駆けてくる。
ふっと地面に影が落ち、ちらりと見上げると飛び上がった魔物の姿があったが、
視界の外から飛んできた光撃を受けて後方へと弾かれた。

 「しっかりしろ」

横向きでぐったりと地に伏していた体が仰向けになり、ふわりと宙に浮く。
ゆっくりとした速度でまばたきをひとつ、目蓋を持ち上げると目の前にアルヴィンの顔があった。
彼の右肩に頭を寄りかからせる格好で抱き上げられたようで、彼の左腕は両膝の裏にまわされている。

数発のエネルギー弾が放たれて魔物に命中する音がした。
左手には彼愛用の銃が握られており、ジュードのことを抱えながらも器用にそれを使っている。
まもなくしてふっと風を切るような感覚があり、アルヴィンがバリアの範囲内へと一気に後退した。

 「後方は私が気にするようにします、アルヴィンさんはジュードさんを」
 「あぁ」

ローエンの声にアルヴィンが相槌をうち、引き続き戦闘が発生している位置からは少し離れた場所で体がふっと地面へと降りる。
上体はそのままアルヴィンに寄りかかる格好で、ジュードは荒い呼吸を繰り返していた。
交戦している場所にアルヴィンが背を向ける体勢のため、向こうの様子は分からない。

意識が途切れることはなかったものの、油断すると重たい目蓋が閉じようとしていた。
今は薄っすらとした目で、アルヴィンの様子を窺う。

 「ったく、お前はひとりで無茶しすぎなんだよ」
 「はぁ・・・・・・・っ、ごめ、ん」
 「ほら、飲め」

アルヴィンの左手には蓋の開いた小瓶が握られていて、その瓶の先が唇に触れた。
傾けられた小瓶の中から口内に流れ込む液体をどうにかごくりと飲み込むが、荒い呼吸のせいで咳き込む。
すっと小瓶が口元から離れ、こつん、と地面に置く音の後に彼の左手がジュードの口の端からこぼれた液体を拭った。

 「・・・・・・飲めそうか?」
 「ごほっ・・・・・・っはぁ・・・・・・」

苦しさが酷く、アルヴィンからの問いかけに返答する余裕がなかった。
平衡感覚がおかしくなったのか、何だかぐるぐるとする。
少しの間、ジュードからの返答を待っている様子だったが、彼の左手が小瓶を取った様子が見えた。
しかし一向にその小瓶が口元に添えられることはなく、
どうしたのだろうと思いながらも重たい目蓋への抵抗叶わず、ジュードは目を瞑った。

 「・・・・・・ん」

ふわりと鼻を掠めたのはアルヴィンの匂いで、その後感じたのは唇に触れた小瓶とは違う感触だった。
そして僅かに開いていた唇の隙間から、先ほどの小瓶と同じ液体が流れ込んでくる。
すっかり閉じていた目蓋をどうにか持ち上げてみると、思いのほか間近に彼の顔があった。
そうかこれは、この感触は、触れたことはないけれど恐らくは彼の唇の感触。

ゆっくりとしたペースで少しずつ流し込まれる液体は、先ほどよりも幾分か飲み込みやすくて、
今の状況に対する感想がそれとはジュード自身もおかしいような気もした。
無意識に伸びた右手は彼のお気に入りのスカーフを掠め、再び目蓋を閉じながら、入らない力で小さく握る。

唇の感触が離れた後、ぎゅっと抱きすくめられて右頬に体温が触れた。
右の耳元で呼吸が聞こえてきた、きっとこの体温はアルヴィンの頬のそれだ。

 「こういう無茶は俺にやらせとけよ」

お前がやる必要はないだろ、と呟くアルヴィンの声は少し悲しそうな、寂しそうな響きを伴って聞こえた。
何か、何か言葉を返したいのに停止した思考回路は答えをくれず、閉じた目蓋は持ち上がる気配がない。
呼吸の苦しさが残る中ではあったが、彼の温かな体温に包まれ、ジュードはそのまま意識を手放した。




サブイベの魔装獣倒した後のシーンで、エリーゼに瘴気吸っちゃったんですか?!って聞かれて思いついたとか。
ライフボトルくちうつしとか、テイルズでは恒例行事だと思っている私がいるんです、ろまんだね、ろまんだよ。
ところで瘴気が噴出してるとか言われてどこのオールドラントだよって思いました、ガイラルディアさん愛。