儚osa rugosa


カラハ・シャールからサマンガン海停へ向かっている最中、突然の鉄砲雨に進行を妨げられた。
急ぎではない旅かと言われればそういうわけでもないものの、かといってこの豪雨の中を進む気にはならない。
丁度戦闘が終わったタイミングともあって、慌てて近場の大木のもとへと身を寄せた。

 「そうだジュード。以前、このあたりで一晩越しただろう」
 「えっ?あぁ、ミラの足を治しに行く時かな・・・・・・でもあそこ、6人も入れるかな・・・・・・」

当時手頃と思って一晩過ごしたあの小さな穴倉は2人だからこそ、広すぎず狭すぎずだった。
しかし今は総勢6人、とても入りきれないと思うものの、
かといってこの駆け込んだ大木の足元にずっといてはひんやりとした風も通り抜けるし体も冷える。

 「よさそうなとこあるなら行こうよーここじゃ風邪ひきそうだし」

現在位置から目的地まではそう遠くない。
レイアの言も尤もで、入れるならあの場所のほうが雨風をしのげるだろうと、
そこへ行こうと皆に言い、土砂降りの中を駆け出した。

到着してみて思ったが、記憶に紛れずそこはやはり狭い。
ぎゅうぎゅう詰めでようやく入れたは入れたが、窮屈というレベルではなかった。

 「せっ、狭い・・・・・・ですね」
 「ぎゅーぎゅーすぎてつぶれちゃいそー!」
 「ふむ、これはこれで悪くはないぞ?くっついていると温かいからな」

ミラの言う事も納得できるところではあったが、それでもこの狭さはかなりのものだ。
見兼ねた様子でローエンがエリーゼの肩を叩いて、膝の上を勧める。
一瞬戸惑いながらも、屈み気味に立ち上がると少し遠慮がちながらもエリーゼがローエンの膝に座った。

 「これで少しは楽になったでしょう」
 「はい・・・・・・あの、ありがとうございます」

これで実質5人でスペースを分けている状態ということになったが、まだ狭い。
それでも隙間が生まれただけまだ圧迫感はないだろうか。
目の前では暖をとる為の焚き火がぱちりと音をたてた。

 「こいつは本格的に降ってきたな」

ぽつり、と隣で外の方を眺めているアルヴィンが零すのを聞いて、焚き火を眺めていた視線を外へと向けた。
ざああと地面を叩きつける雨音は先ほどよりも大きく、雨粒は地面に跳ねたり、強風によって横薙ぎに舞ったりしている。
これは益々サマンガン海停に向かう気にはなれなかった。

すっかり進む事を諦めているのは何もジュードだけというわけではなく、
狭苦しい中ながらもティータイムにでもしようとしているのか、
エリーゼを膝に乗せたままローエンが何か荷物を解いて準備をはじめていた。

焚き火のおかげでようやく体が少し温まってはきたが、いまだに肌寒さが拭えない。
雨音は嫌いではないものの、もう少し小降りにならないものかと改めて穴倉の外へと目を向けた。
ふと視界に入ったアルヴィンのコートに、ジュードは違和感を覚えてその原因を注視する。

 「・・・・・・え、ちょっとアルヴィン」
 「ん?どうしたよ優等生」

ジュードの右隣に座っているアルヴィンは並び順としては一番端っこだ。
よくよく彼の右肩あたりを見ると、少しコートの色が濃くなっているように見える。
聞くまでもない、それは明らかに濡れていた。

 「もう・・・・・・右肩、濡れちゃってるよ?言ってくれれば詰めるのに」
 「心配性だねぇジュードくんは、この程度で風邪ひくほど俺ってやわじゃねぇんだけど?」

じとり、と目を向けて見るが、アルヴィンは小さく肩を竦めて見せるだけだ。
これはもう強引にいかないとだめそうだなと、ジュードは大きく溜め息をつく。
先ほどのエリーゼのように屈み気味に立ち上がって、アルヴィンの左二の腕を掴んでずるり、と内側に引き摺り寄せた。

 「って、うおっ」
 「ほら、こうすれば濡れないでしょ」

引き摺られたアルヴィンの体は、少し体勢を崩してジュードの左隣にいたミラの方に傾いている。
そんな彼の足の間にすとんと座り込んで、抱えあげた荷物から本を取り出した。
少し照れくさくはあるが、あのまま雨に当たっているアルヴィンを見て見ぬふりはできない。

そのまま背もたれに寄りかかるようにして体を後ろに倒せば、彼ももうこの狭さで身動きが取れないだろう。
本を開いたのは照れ隠しだったが、案外座り心地がよくて栞を挟んでいたページから字面を追い始めた。

 「濡れないでしょ、ってお前ね・・・・・・」

両腕を立てた膝の上に置いて、アルヴィンは盛大に溜め息をついた。
これは嫌だったのだろうかと様子を窺おうとした折、とすんと右肩に彼の頭が落ちてくる。
肩に額をぐりぐりと押し付けられ、ぼそぼそと"あーあーあったけぇよ"なんて呟く声が聞こえてきて、くすくすとジュードは笑った。

 「えーっ、ジュードとアルヴィン君まで何くっついてんの・・・・・・ミラ!わたしミラにくっつくよ、寒い!」
 「あぁ、私は構わないぞ、どんときたらいい」

きゃいきゃいとレイアがミラの左腕にしがみついている。
結果的にこれは、ローエンとエリーゼで1人分、レイアとミラで大体1.5人分、ジュードとアルヴィンで1人分と、
3.5人分程度には省スペースが実現したのだろうかなどと他人事のように考えた。

穴倉の外では相変わらず雨が降りしきっているが、寄りかかった背中から伝わる体温が温かかった。




台風の雨風が酷すぎて絶望したので大雨話。
我が家のリンクコンビはどこも仲良しです。