儕enstemon


エレンピオスでの素材集めに勤しんでいた頃合。
かなり戦闘も楽になって気が緩んできていたことは皆何となくながら気づいていて、
それなら今日はこんなことをしてみてはどうか、とローエンが提案した内容がリンクの組み方を変えるというものだった。

 「ふむ、たまにはいいかもしれないな」
 「いいけど、どういう組み合わせにするの?」

ミラの同意もあり、どのような状況でも動けるようにしておくべきという観点からしても
慣れた相手以外とのリンクもたまにはやっておいたほうがいいとは思った。
しかしもともと戦闘中の立ち位置を意識した結果、現在のリンク構成に収まった節もあり、
あまり大きく変えると、それはそれで流石にリスクが高い。

 「では、このような組み合わせでどうでしょう」

荒野のど真ん中、ローエンに誘導されるように動いた結果、
ミラとエリーゼ、アルヴィンとレイア、ジュードとローエンという構成となった。
まさかそこでアルヴィンとレイアを組ませるとは思いもしなかったが、
ある意味彼らの間にある溝を埋める機会には少なからずなるのかもしれないとも思う。

 「私、頑張りますっ」
 「がんばるぞー!うおー」

やる気十分のエリーゼは、両手をぐっと握り締めてミラの隣で声をあげた。
ローエンとのリンクだとどの技がいいだろうかなどと考えながら、ジュードはアルヴィンとレイアの様子を窺う。
居心地悪そうながらも言葉は交わしている様子だった。

 「それじゃあ、これでやってみよう」

丁度前方に魔物の群れが見え、行動を開始する。
戦闘時の配置は、前方をアルヴィンとレイア、中央にミラとエリーゼ、後方がジュードとローエンだ。
いざ戦闘となってみると不慣れながらも思っていたほどの不都合はなく、
敵から術が放たれてもローエンのお陰で動けるというのはかなりいい。

ふと気になってアルヴィンの方へと目を向けてみた。
前方と後方とあってかなり距離は離れているが、レイアともうまいことやっているようだ。
余計な心配だったかな、とジュードが思った矢先、鋭い魔物の爪が振り下ろされて、慌ててそれを避ける。

 「おやおやジュードさん、余所見をしているとさすがに危険ですよ」
 「っと、ごめん」

避けたところで爪の持ち主はローエンの放ったセヴァードフェイトの被弾している。
急いで体勢を整えたところで、その魔物へと飛燕連脚を打ち込み、
共鳴術技を使おうと思ったが今組んでいるローエンとはこの繋ぎでは動けないと思い出した。
宙に浮かせていた体を地面に着地させ、三散華から玄武散を放つ。

 「よし、いい感じだね」
 「そうですね、ですがジュードさん・・・・・・」

ふっと隣に立つローエンが口元を耳へと寄せきて、何かと思いジュードは首を傾げた。
後ろの方、陣形でいうところの前方の方ではまだ交戦している音がしているが、
ジュードたちが向いている後方にはすでに魔物の姿はないため、ひとまず構えを解く。

 「彼のことが気がかりなのは分かりますが、さながら子離れのできない親、それとも浮気を心配する恋人、でしょうか」
 「なっ・・・・・・ちょ、ローエン!」

はっとして一歩後退し、ジュードは思わず声をあげた。
目の前では人のいい翁の笑みを浮かべたローエンがこちらを眺めている。
そしてトドメをさすように、"顔が赤いですよ"と指摘されて、ジュードは頭を抱えた。
前者の子離れができない親の方がまだ近い気はしたが、後者の話は突飛している。

 「もう、そういうのじゃなくて、レイアとは色々あったから心配だっただけだよ・・・・・・」
 「ほほほ、その点については案外と大丈夫そうですよ」

ローエンの言葉に頭を抱える腕を解き、視線を前方へと向けた。
どうやら戦闘も終わったようで、テンションが高くなっているレイアとハイタッチをしている様子が見える。
何だ全然大丈夫そうじゃないかなんて安堵の息をつきながら、ちくりと感じた感情は何かとジュードは僅かに顔を顰めた。

 「おや、どうされましたか」
 「・・・・・・ローエンが変なこと言うから、ちょっと考えちゃっただけ」
 「おっと、悪ふざけがすぎたようですね」

大きく息を吐いて、知らず篭もってしまった力をすっと抜くと肩が落ちた。
ローエンは一体どこまで考えて、リンク構成を変えてみようなどと言い出したのか予想もつかない。
青春ですね、などと言われてしまうと、ここまでは想定していたのだろうかと思わずにはいられなかった。



今日はこのリンク構成のままでやってみようという話になり、そのまま次元の裂け目を通ってリーゼ・マクシアへと戻った。
ミラの社からニ・アケリアへと移動し、補給を済ませてからは再び移動を開始する。

 「ねーねー、今日はどこまで行くの?」
 「うーん、とりあえずはこのままハ・ミルを通過して、イラート海停まで行ったらもういい時間になりそうだね」

前方を進むレイアが顔だけ少し振り向きながら問い掛けてきて、ジュードがそれに応じる。
まもなくして視界の端にハ・ミルの小屋が見えてきて、思わず小さいながらも溜め息を零した。
どうにもこの道を通るのは好きではない、アルヴィンとレイアのことだけでなく、
エリーゼもここを通る時はいつも複雑そうな顔をして眺めていることも、ジュードは知っている。

何となく空気が重たいなと感じ、ハ・ミルを通過するまでの時間が酷く長く感じた。
その分、イラート間道に出てからはあっという間だ。
遭遇する魔物も弱く、イラート海停に到着した時刻は思っていたよりも早かった。

 「素材渡すついでに補給もしてきちゃうね」
 「では宿をとりにいっておきます」

イラート海停に入ったところで皆と別れ、ジュードは宿とは反対側にある商店へと向かった。
あまり支障はなかったといえど、普段に比べれば薬品類の消費は多い。
武器や防具の買い替えはひとまず問題ないと、道具屋へと真っ直ぐに向かった。

 「うわー・・・・・・」

改めて道具入れを確認してみれば、消費が多いとわかっていたものの予想以上の減りようだった。
資金は潤沢なので問題はないものの、あまり支障はなかった、とは言えないかもしれない。
そんなことを考えながら、あれは何個、これは何本と必要な個数を確認していると、
後ろから伸びてきた手がひょい、と最後の1個になっていたアップルグミを摘み上げた。

 「あれ?・・・・・・もう、つまみ食いしないでよ」
 「どうせ最後の1個だろ、15個まとめ買いでいいじゃねぇの」

そこにあったはずの赤色のグミが消えたところで、誰かがそれを取ったのだとジュードは気づいた。
顔だけ振り返るようにして見上げれば、すぐ背後にアルヴィンが立っている。
個数を数えることに必死だったせいなのか、近づいてきていることにも気づいていなかった。

 「あぁもう、個数忘れちゃったじゃない・・・・・・えっと・・・・・・」

うっかり意識を持っていかれて、途中まで数えた個数が頭から抜けていった。
もう一度仕切りなおして数えていると、後ろから圧し掛かられるようにしてアルヴィンの腕が肩を越えて垂れ下がる。
頭の上にアルヴィンの顎が乗せられたせいで、ジュードの頭ががくりと沈んだ。

今度はそれに構わずどうにか個数を数えきり、道具屋の店員に告げて支払いの準備を進める。
店員には仲がいいな、などと笑われて苦笑して応じた。
代金を渡して袋を受け取ったところで、ジュードは大きく溜め息をつく。

 「背が縮んだらアルヴィンのせいだからね」
 「ジュードくんはこの高さがいいから俺はストッパー役、けど縮むのはちょっと困るな」

伸びるのは嫌だし縮むのも困る、とはどういうことだとジュードが思っているうち、圧し掛かる重さが消えた。
それにしてもてっきり他のメンバーと宿に向かったと思っていたがどうしたのだろうか、とジュードは改めて踵を返す。
荷物は持ったままの様子で、宿に行ってからぶらりと出てきた、というわけではないようだ。

 「アルヴィン、宿に行かなかったの?」
 「ん?あぁ、今日は全然ジュードくんと戯れてねぇなーって思ってさ」
 「戯れてって・・・・・・まぁいいけど」

戦闘中のリンクは彼にしてみれば戯れなのだろうかと一瞬考えてみたが、
何となく自分もアルヴィンとの時間が少なかったとは思っている節はある。
とりあえず荷物を抱えたまま棒立ちではいたくなく、ジュードは宿の方へと歩き出した。
隣を並ぶようにしてアルヴィンも歩き出す。

 「んーやっぱこっちだよなぁ」
 「・・・・・・何が?」

徐に呟かれたアルヴィンの言葉に、ジュードは首を傾げながら隣を見上げた。
その問いかけに対する回答は、数秒の小さな唸りの後に返ってくる。

 「いや、こっちのが何か落ち着くなぁってな、立ち位置的な話」
 「あぁリンク構成の話ね」

うーん、と再び考え込むように唸るアルヴィンが、一体どこにひっかかっているのか分からない。
そう距離も離れていない宿はもう目の前で、丁度扉を開けようと思った頃合、扉が開いて中からローエンとミラが出てきた。

 「あれ、2人ともでかけるの?」
 「気分転換に少しな」
 「波音を聞きながらのんびりと読書をするのも、たまにはいいかと思いましてね」

言われてみれば、2人揃って手には本を持っているようだった。
さすがに背表紙はよく見えなかったが、2人は宿屋前の階段の方へと歩いていく。
そういえば2人とも本をよく読む組み合わせだったなと思うと、ジュードも少し本を読みたくなってきた。

 「そうでした、今日は2部屋ですので」
 「はいよ」

すれ違い様、ローエンが差し出した鍵は荷物で手が塞がっているジュードのかわりにアルヴィンが受け取る。
先に踏み出したアルヴィンが扉を押さえてくれたお陰で、すんなりと宿の中へと入れた。
部屋は一番奥らしく、廊下を進む。

 「ありがとう」

先に進んで扉を開けてくれる様は紳士さながら、思いのほか多い買い物になってしまった袋を
両手で抱えるジュードとしては大助かりだ。
部屋の中には既にローエンの荷物が置かれており、空いているテーブルの上に紙袋をどさり、と置く。
自分の荷物を椅子に降ろしたところで、両手を持ち上げて大きく伸びをした。

 「ふぅ・・・・・・僕も本読もうかな」

どさり、と遠くで荷物が降ろされる音を聞きながら、ジュードは自分の荷物の中から本を取り出す。
音の正体はアルヴィンが荷物を置いた音だろうと別段気にはせず、
最近読んでいる薬草学の本を片手に空いているベッドへと腰掛けた。

エリーゼやレイアもいるため回復の手には困らないが、結局のところいざともなればこれだけ消耗品が消えていく。
薬草学の復習も兼ねて、やはりこれは必要な知識だなと改めて思いながら、ジュードは本を開いた。

 「勉強熱心なことで、さすがは優等生だな」
 「・・・・・・薬草学は、いざという時には役に立つからね」

ぎしり、とベッドが軋む音と合わせて、ジュードの座っているベッドが揺れた。
何かと思い、膝の上の本から顔を上げるとすぐ横でアルヴィンがベッドにあがっている。
そのままジュードの後ろにまわると、アルヴィンの両腕がジュードを抱え込んだ。

 「どうしたの、アルヴィン」
 「んー・・・・・・やっぱこっちだよなぁって」

またそれか、と思わず苦笑してしまう。
これでは先ほどのやりとりをもう一度やり直しているようなものだ。
右肩に落ちてきたアルヴィンの頭がずしりと重い。

 「そうは言うけど、レイアともうまくやってたじゃない」
 「まぁそりゃあな、うまくやらないと動き合わせてる手前、怪我させちまうだろ」

無意識に息を合わせる必要はなく、意識してでもあれだけ動けていれば十分だろうとジュードは思う。
もちろん、自分とのほうがやりやすいと言われることが嬉しくないはずもない。
そうは思いつつも別段口にして言うつもりもなく、ジュードは再び視線を膝の上の本へと戻し、字面をぼんやりと追った。

 「やっぱ気遣うんだよ、何かリンクしててもやもやするわけ。自業自得なのは分かってんだけど」
 「でも、仲良くハイタッチとかしてたし」
 「・・・・・・なんだ、結構こっち見てたのな」

そう言われてはた、とジュードはページを捲る手を止めた。
本に意識が傾いていたせいか、うっかり余計なことを口走っている。
すかさず頭を過ぎったのはローエンにあの場で耳打ちをされた内容で、慌ててジュードは顔をあげた。

 「あ、いや、別にそんな意味で言ったんじゃ」
 「え?俺別に何も言ってないぜ?ただこっち見てたのかーって言っただけだってのに、何慌ててんの」
 「・・・・・・う」

かちあった視線の先、アルヴィンは肩越しににやりと人の悪い笑みを浮かべている。
ふいっと視線を逸らすと、小さく笑う声が耳元で聞こえた。
ローエンの悪ふざけには本当に困ったものだと、ジュードは息をつく。

 「そういやローエンと話してる時にもこんな風にうろたえてたよな」
 「・・・・・・そういうアルヴィンこそ、こっち見てたんじゃない」
 「さーてね。で?何か言われたんだろ?」

ぐいぐい、と腹のあたりに回されている腕に引き寄せられて、自然とジュードはアルヴィンに寄りかかる格好となる。
肩から離れたアルヴィンの顔が見下ろしてくるのをじとり、と見上げた。

 「・・・・・・戦闘中に余所見してたから、子離れできない親みたいだとか・・・・・・あと・・・・・・」
 「あと?」
 「・・・・・・こっ、恋人の浮気・・・・・・心配、してる、みたい・・・・・・って・・・・・・っ」

ぷっ、と噴出す音がジュードの耳に聞こえた。
あぁやっぱり言わなければよかったと、ジュードは膝の上に広がったままの本を両手で持ち、顔を隠す。

 「指揮者様も言ってくれるな。安心しろって、俺の1番はジュードくんだから」
 「もう、そんなこと聞いてないよ!」
 「いやー今日は何か色々しんどかったけど、最後にいい思いできたわ」

上からすっと本を引っ張り取られ、ジュードはそれを取り替えそうと両手を伸ばすも、
アルヴィンの手で高くもちあげられたそれに手が届くはずもなく、
掠め取るようにしてアルヴィンの唇がジュードのこめかみに触れた。




シリアス展開くるー?と見せかけてからの、ただのいちゃこらでした。
アルヴィンのいう立ち位置は別にリンクに限った話ではないのに素で気づかないジュードくんとか。