僂onvallaria keiskei


各地で依頼もこなし、腕も鍛え、そろそろガイアスとミュゼに挑む頃合かと改めて6人で相談をした。
色々と気持ちを整理したり今後について考えるには十分な時間があったはずだ。

彼らに挑むことはつまり、この旅が終わるということにも等しく、それを惜しく思うのは皆同じだった。
それでも、いつまでも先送りにしつづけているわけにもいかない。
色々と皆それぞれに思うところはありながらも、今朝方、明日には向かおうという結論を出した。

 「ジュード」

今夜は世精ノ途との距離を考えて、トリグラフのバランの家に宿泊している。
夕食も終えて、先日見つけた考え事にもってこいなこの家の屋上でぼんやりと街並みを眺めていると、
昇降口から第三者の声が聞こえてきてジュードは振り返った。

 「・・・・・・邪魔、したか?」
 「ううん、ぼんやりしてただけだから大丈夫だよ」

遠慮がちなその物言いに苦笑しながら、声の主であるアルヴィンに手招きをしてみた。
ゆっくりとした歩調で歩み寄ってくる彼がジュードの隣まできたところで、
彼の方に向けていた顔を、フェンスの向こうに広がる街並みへと向け直す。

 「何か変な感じだよね、こんなにずっと一緒に行動してたのに、明日ちゃんと決着がつけられたらばらばらになるなんて」
 「そう・・・・・・だな」

いまいち歯切れの悪いその口ぶりも仕方がないのだろうとはジュードも思う。
薄々ながらも本当は皆、そろそろ旅の終わりが近いことはよくよく理解はしていたはずだが、
いざそれを目の前にするとこれまでのことを思い返して、色々と考えてしまって当然だ。

以前、同じように世精ノ途を目指した前夜も思うところは多くあったものの、
その後、各地をまわっている間にもたくさんのできごとがあったのだから、
そういう意味ではあの時以上に旅の終わりに対する寂しさを感じている節もある。

 「・・・・・・離れることが、不安?」

恐らくアルヴィンが今一番不安に思っているのはそこなのだろうと、なかなか本音を語らない彼に問いかける。
首を傾げるようにして、隣に立つアルヴィンを見上げた。
ぴくり、と肩を揺らしたアルヴィンもまた、少し俯くようにしてジュードの方へと視線を向ける。

 「まぁ、そんなところだな」
 「大丈夫だよ、ばらばらになったって一緒に過ごした今が無くなるわけじゃないんだから」
 「・・・・・・ジュードくんは大人だねぇ」

茶化すような口ぶりながらも、その困ったような少し寂しそうな笑みがすべてを物語っているようだ。
右隣に立つアルヴィンの左手へとジュードは右手を伸ばし、その手をぎゅっと握る。
一瞬驚いたような顔をした後、照れくさそうな笑みを浮かべてアルヴィンも握り返してきた。

 「でも、今のは本当のところただの建前・・・・・・本音を言うと、やっぱり寂しいよ」
 「・・・・・・」
 「だってこうやって、いつでも手を伸ばしたら届く距離には居られなくなるだろうから」

旅の途中であれば、寂しくなったり不安になってもこうして側に居てもらえる、居てあげられる。
しかしこれからは、それぞれ願うところが同じでもそこに至るための過程、
歩いていかなければならない道はきっと並走しながらも交わることはそうそうないだろう。
同じ先を見ているのだから大丈夫だと思いながら、寂しくないと言えばそれは嘘だ。

 「あと、アルヴィンは目を離すとすぐ迷子になりそうだし・・・・・・なんてね」
 「ジュードくんも言うねぇ・・・・・・ま、あながち間違ってないかもしんねぇけど」

肩を竦めるアルヴィンに、ジュードはくすくすと小さく笑った。
子供のようなこの大人は、放っておくと自分の居場所を探してすぐに迷ってしまう。
今いる場所がそうなのだと何度も何度も、それこそアルヴィンが飽きるほどに言い続けなければならない。
こうして手の届く場所に居てなおそうなのだから、これからは余計、だ。

 「平気だよ、アルヴィンが迷子になったら僕が探しにいくから」
 「・・・・・・何だよそれ」
 「前はちょっと見つけられるか不安だったけど、最近は結構自信あるんだよ?」

ちゃんと繋がってるから、とアルヴィンの手を握る右手に少しだけ力をこめる。
そうして優しく微笑みかければ、アルヴィンは少しだけ泣きそうな顔をしていた。
言いたいことが伝わったのだろうと、ジュードは内心胸を撫でおろす。

 「だから、もし僕が迷子になってたら、その時はアルヴィンがちゃんと探してね」

そう言うが早いか、ぐいと手を引かれた。
握っていた手も離れて、すっぽりとアルヴィンの腕の中に納まる。
頭の上に彼の顎が乗っていて少し重たいが、何より彼の体温が温かかった。

 「旅が終わっても俺は・・・・・・ホントにここに居てもいいのか?」
 「当たり前じゃない」

伸ばした両腕をアルヴィンの背にまわし、ぽんぽんと撫でる。
そうしていると、肩のあたりにあったアルヴィンの右手がジュードの後頭部へとまわり、
頭に乗せられていた彼の顔が少し左肩の方にずれて、髪に頬を寄せられる格好になった。

 「僕はね、ここがアルヴィンにとって家みたいな場所になってくれたらいいなって思ってるんだよ」
 「・・・・・・家?」
 「うん、新しい居場所を見つけても、変わらずにそこにあっていつでも戻れる場所、ね」

息を呑む音が聞こえた。
髪に触れていたアルヴィンの顔がゆるりゆるりと降下して、すとんとジュードの左肩に落ちる。
一層に強く抱きこまれると、少し体が前のめりになったため、
倒れないようにと、ジュードは彼の背に回していた手でぎゅっとコートを握った。

 「・・・・・・ごめんね、本当はこうやって僕は、アルヴィンのこと縛りたいだけなのかもしれない」

束縛されるのは嫌だったよね、なんてジュードは苦笑気味に問いかけた。
結局のところ離れることが不安なのはジュード自身もまた同じで、ただ繋がりをより強く持ちたくて、こうして縋っている。
それでもアルヴィンは、ジュードの肩に乗せた頭を小さく横に振った。

 「これぐらいで、丁度いい」

ふっと首筋に触れた温かさがくすぐったくて、ジュードは肩を竦めながら小さく笑った。
アルヴィンの顔が持ち上がり、温もりの正体たる彼の唇が、ジュードのこめかみに、目蓋に触れる。
こつり、と額をつき合わせて笑いあうこの瞬間がとても幸せだ。

 「ホント、感謝してる」

眉尻をさげるアルヴィンに微笑みかけると、彼の唇が掠め取るように一瞬だけジュードのそれと重なる。
すっと体を離したアルヴィンは照れくさそうに笑った。

 「頑張ろうね、明日」
 「あぁ」

アルヴィンが元気になったようでほっとする反面、本当は自分のほうが元気付けられていることにジュードは気づく。
伝えたかったことを伝えて、それを彼が受け止めてくれたことで、ジュードの不安も和らいでいた。

そろそろ部屋に戻ろうか、とジュードはアルヴィンの腕を引いて昇降口へと歩き始める。
きっと明日も、そしてその先もうまくいくと、今ならそう信じられるような気がして、ジュードは決意を新たにした。




ジュアルっぽいけどアルジュと言い張る←
くっついたばっかりで、距離感をはかるのに悩んでいる非がっつきな控えめアルヴィンのイメージ。