このページでは、タイの洪水について書いてます。

2011年のタイでは、乾期のソンクラーン中でも雨が降ったり、例年なら夕方にしか降らないスコールが午前中から降ったりと、かなりの異常気象ぶりを見せ、この結果が洪水という形でタイを襲いました。

タイではほぼ毎年、どこかで洪水が起こっているのですが、今年は南部で大規模な洪水が起こった後に、アユタヤやバンコクなどの中部で50年ぶりの大洪水となりました。

タイの地形

日系企業の工場がたくさんあるアユタヤでの洪水が日本のニュースでも取り上げられると、チェンマイに住んでいる私の所にも安否を気遣う問い合わせがたくさんありました。
ご心配頂けることは大変ありがたいのですが、アユタヤとチェンマイでは東京と盛岡ぐらい離れているので、被害はほとんどありませんでした。

下の地図は Google Map で、タイと日本を等倍表示で並べてみたものです。

タイと日本の比率
バンコクやアユタヤに比べて、チェンマイがずっと北にあるのが分かると思います。 それだけでなく、タイは平野がものすごく広いことが分かります。日本は、国土のかなりの部分が山ですが、タイは平野の方が圧倒的に大きいですね。

タイ北中央部の川 次に、タイ北部から中央部の川を見てみましょう。

チェンマイ市街の東部を流れているピン川がナーン川などと合流して、チャオプラヤー川となり、バンコクまで続いてタイランド湾に流れています。このピン川とチャオプラヤー川の長さの合計は、なんと941キロメートル。日本で一番長い信濃川が367キロですから、いかに長いかが分かると思います。
また当然ながら、川下に向かうにつれて多くの川が合流してきます。アユタヤの前ぐらいで、チャオプラヤー川にパサック川が合流します。今回アユタヤで洪水被害が大きくなったのは、アユタヤが川の合流後にあるためでもあります。

洪水の構図

洪水は概ね、川が氾濫することで起こります。川から溢れた水が周辺に広がりますが、タイのニュースでは、この周辺に溢れた水を「水のかたまり」と表現しています。 2011年10月25日のNASAの衛星写真を見ると、この「水のかたまり」が、とんでもない大きさでバンコク北部に存在しているのが分かります。

 
2008年の写真(左)と、2011年(右)の写真。黒い部分が水です。
タイは平野部が広い割にはほとんど勾配がありません。
チェンマイの海抜は310m、アユタヤは4.8m、バンコクは1.3mです。チェンマイ・バンコク間の勾配は0.022度。実際に車で走ってみると、日本と違って坂道がほとんど無く、すごく真っ平らなのが分かります。

こんな土地に「水のかたまり」が一度出来ると、机にこぼれた水のようになり、なかなか無くなりません。それでも川に沿って徐々に南下していきます。

洪水のイメージ図 左の図は、2011年洪水のイメージ図です。

チェンマイでは、2011年9月29日にピン川で過去最高水位を記録し、川の周辺では60cmほどの浸水がありました。しかしチェンマイは海抜が高いこともあり、この水は3日間で引いてしまいます。

チェンマイで引いた水は下流に流れていき、他の川と合流して10月10日にアユタヤで深刻な洪水被害を出します。

アユタヤの水は引かないままですが水位は徐々に低くなっていき、流れた水は10月30日にバンコク中心部を襲います。バンコクでも、チャオプラヤー川が過去最高の水位を記録しました。
チェンマイでの洪水が、約1ヶ月経過してバンコクに到達したイメージです。
タイの洪水は、じわじわと水嵩が増えていって、じわじわと引いていきます。アユタヤやバンコクで洪水が引くのには、1ヶ月以上かかると予想されてます。
日本の洪水はほとんどが鉄砲水なので破壊力が大きい割にすぐに水が引きます。タイの洪水はこれとは全く逆な感じです。家などが流されることはほとんど無い代わりに、水没生活を長期間強いられます。

洪水が起きている最中の状況

チェンマイ西側に住んでいる私には、洪水の様子はテレビなどでしか分からないのですが、水位によってだいたい以下のような感じであるようです。
・10cm以下
足首が水に浸かるぐらい。 これくらいの水はスコールでも経験するので、水に慣れているタイ人にはほとんど影響ありません。人はサンダル履きのまま浸水した道路を歩いていますし、バイクも普通に走ってます。
・50cmぐらい
タイヤの見えない車が水しぶきを上げ、まるで船のように進む状態です。水が濁っているうえにほとんどの場所が水没しているので、どこが道だったか知っている人でないと危なくて外を歩けません。
こんな状態でも、家具などを高い所に移動して、なんとか生活は維持できています。下半身が水に浸かりながらも、屋台がちゃんと営業しています。大きなタライに物を入れて運ぶ人の姿も見えるようになります。
川から逃げた魚(結構大きい)が道路を泳いでいたりするので、道路に向かって魚釣りをする人もいます。
・1mぐらい
これくらいになると、さすがにまともな生活は出来なくなります。
もはや車は使えないので、モーターの付いた船が道路を進んで救援物資を運ぶようになります。 人々は救命胴衣を付け、タイヤを浮き輪代わりにして水の中を歩いてます。
ほとんどの家や店の前には土のうが積まれ、高台にある駐車場や橋は避難した車で一杯になります。

テレビを見ていると、洪水の時に被害を受けやすいのは弱者であることもはっきり分かります。
10cmぐらいの浸水でも、身体障害者は普通の生活が出来なくなりますし、水位が高くなるにつれて、老人や病人もどうしようもなくなっていきます。
洪水が起きやすい部分は土地代が安いのですが、そういう所に住んでいる人達は低賃金労働者で、家は掘っ立て小屋みたいなもので当然2階などありません。家が浸水すれば屋根の上で食事をするしか無くなります。

10月20日過ぎぐらいから、テレビのコメディ番組が消え、代わりに涙をボロボロ流す大人達の姿が放映されるようになりました。悲惨さを伝える映像は、人口が多いバンコクに水が近づくに従って増えています。
一方、日本人を含む金持ちは商店で買い溜めに走りました。飲料水を大きなカート一杯に積む買い物客の姿が放映されたりしてます。当然ながら商店の棚はすぐに空っぽになり、弱者は取り残されて格差が広がるばかりです。

洪水対策

自然の驚異の前では人間の力はまだまだ弱いものです。
このような状況で我々が取れる対策は、短期と長期の2つに大きく分かれます。

短期の対策

家に入れなくなったり財産を失った弱者に対しては緊急支援が必要です。
募金を通じて支援するのが良いのですが、こういう時は信頼できる募金先を選ぶ必要があります。
タイでは銀行が手数料無料の募金を受け付けているので、これを使うと良いでしょう。外国人でも簡単に募金が出来ます。私もやってきました。
日本では現在、タイにも進出しているファミリーマートやセブンイレブンが一生懸命募金活動をやってくれているようです。他の情報はココにまとめられてますので参考にしてください。

余談ですが、東日本大震災のとき、日本を友好国と考えてくれているタイでは多くの人が支援をしてくれました。円高の影響で大した金額に見えないのですが、タイ人にしてみればかなりの高額です。3月11日より円高はさらに進んだので、日本人にとってみれば少ない金額でタイに恩返しが出来ます。洪水の支援について、ぜひご一考ください。

長期の対策

アユタヤでは1995年にも大規模な洪水が起こり、その後治水工事などを進めたのに、大雨のために前回を上回る被害が出ました。
この雨の遠因は、やはり地球温暖化が原因と思います。海水の温度が上がれば台風などが発生しやすくなり、異常気象を起こします。今年のタイの雨量は例年の1.4倍もあり、タイだけでなくカンボジアでも大きな被害になりました。
日本でも、2006年くらいから「ゲリラ豪雨」が頻繁に観測されるようになりましたが、これはタイでのスコールとかなり似ています。今回のタイでの洪水を、日本は対岸の火事とは思わない方が良いでしょう。例えば東京にだって、海抜 2m以下の場所がかなり広くあります。参考URL
対策としては、省エネの促進を十分に考える必要があるでしょう。

今回のタイの洪水は、ダムの貯水量を超えて雨水が浸入したため、やむなくダムで放流をしたのが被害を大きくしています。事前告知しないで放流したので急に洪水が起こり、車などを避難するだけで精一杯だった所もあります。
この件は今後非難されることになるでしょう。おそらくダムの貯水量を増やす工事がおこなわれることになると思います。
他には、植林で樹木を増やすことで自然の貯水量を増やすことも考えられます。洪水がひどくなったのは森林伐採を増やしたからという観測もあり、タイ王室がなんらかの行動を起こすのではないかと想像します。