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展覧会シーン:特別展 いき人形と松本喜三郎 開幕
取材日:2004年8月24日 掲載:8月26日 ストリート・アートナビ
松本喜三郎作/江島栄次郎補修「谷汲【たにぐみ】観音像」
松本喜三郎の一世一代の大作「西国三十三所観音霊験記」三十三番谷汲山華厳寺の場のために作られた観音像。寺院の縁起を語る場面で、厨子【ずし】から出現した観音を巡礼姿の人形に仕立てた。喜三郎会心の作として東京浅草の寺院に預けられ、興行には別に1体が制作された。明治20年(1887)には喜三郎ゆかりの浄国寺に奉納された。国内で唯一の完全な姿をとどめる作品だが、明治31年には大きな損傷のため、喜三郎の弟子である江島栄次郎が全面修理しており、栄次郎の作品ともいえる。熊本県指定重要文化財。
◎松本喜三郎の最高傑作のひとつ。見世物興行は大繁盛で、混み混みになった。人形であるにもかかわらず見ているものが観音様を拝むし、おさい銭が雨あられと投げられたとある。高村光雲は「この観音は人形の観音でなく、又本尊として礼拝するという観音でもない。丁度その中間をいったまことに結構な観音様である。」と称した。時が巡り熊本・浄国寺に観音像に生まれ変わったお姿で安置されていたが、この8月15日迄、先行開催されていた熊本市現代美術館で特別出品され展覧会中に来館者(5万人が訪れ入館記録を作った)が置いていくさい銭が山と積まれた。(週刊新潮8/26日号)巡礼姿の《谷汲観音像》は衣装を多く重ね、襞の多い特徴を活かしながら風の中を巡礼しているかのように生地の端々をはねあげ気味に固定しているのが人形細工であることを思い出させる。右手に杖を持ち、半身に構え二の腕を見せ、切れ長でえん然な眼差しで役者のようにみえを切る。見る人の誰もがその妖艶な魅力の虜となるだろう。
安本亀八初代 絵馬「神功皇后と武内宿禰」
この場面は、第14代仲哀天皇の后、神功皇后が新羅を征討後に出産した応神天皇を抱く武内宿禰と、松のふもとに立つ鎧姿の神功皇后があらわされる。神功皇后は武芸の神、武内宿禰は長寿の神として知られることから、籐堂藩主の武運と長寿の祈願の意味を持つ。
◎神話の中の伝承や口碑も形にする事で理解が深まり、永く伝わる。

「江島栄次郎」
明治31年(1898)の全面修理によって《谷汲観音像》を生き返らせた、肥後熊本の最後にして、唯一の生人形師江島栄次郎。仏師の家に生まれた江島栄次郎は松本喜三郎の弟子としてその技術を極め、大人気を博した昭和10年(1935)の加藤清正公325回忌を記念した会心の作、生人形興行「清正一代記」にて、その継承された技術を満天下に示しました。引退後、拈華流の挿花を極め、華道の世界にも名声を留めました。
◎場面を写した写真を見ていると、大阪天満宮の菅原道真一代記の場面を思い出す。スケールの違いはあっても人を神格化していく過程が見える。
「生人形の展開」
見世物から出発した生人形は、その後、人形芸術、百貨店のマネキン人形、医学用の精巧な模型というように、多様な展開を見せました。
「生人形、アメリカへ」
松本喜三郎「貴族男子像」
明治11年(1878)
アメリカ合衆国・スミソニアン博物館人類学部門蔵
Department of Anthropology, Sumithsonian Institution

 アメリカ合衆国農務局長であったホーレス・ケプロンが、北海道開拓使顧問として日本に在住していた時代に松本喜三郎に注文し、アメリカ本国に持ち帰った「貴族夫婦像」2体のうち1点。右足裏に作者本人の刻銘があり、売買の経緯を示す領収書が存在し、裏付け資料のある数少ない喜三郎の真作のひとつである。スミソニアン自然史博物館の収蔵庫での長き眠りを解かれ、今回の展示は126年ぶりの里帰りで日本初公開。


【いき】人形は、幕末から明治にかけて、大阪の難波新地や千日前、江戸の浅草などで盛んに興業された細工見世物です。まるで生きているかのような迫真の写実性をもって作られ、激動の時代を生きる人々の感情や欲望を反映し人気を博しました。後には、その技術の高さを評価され、生人形は甲冑【かっちゅう】類のマネキン、人類学の標本として海外にも持ち出され、博覧会に出品されるなど、様々な展開をみせています。

 熊本出身の松本喜三郎
【まつもときさぶろう】は、嘉永7年(1854)に大阪で初めて
生人形師としてデビュー、その後、江戸浅草でも人気を博して名声を高めます。その一世一代の大作「西国三十三所観音霊験記
【さいごくさんじゅうさんしょかんのんれいげんき】」は大評判を取り、浅草では4年のロングランを記録、明治12年(1879)には大阪千日前で興行され、3ヵ月間で約60万人もの観衆を集めました。

 本展覧会は、松本喜三郎の作品を中心に、彼と腕を競い合った安本亀八、二人に続いた生人形師たちの国内外に残された作品を通じ、見世物であるが故に近代の歴史のなかに忘れ去られた生人形の諸相を紹介し、改めて近代の意味を問い直そうとするものです。
本展覧会開催にあたり、貴重な作品をご出品くださいました所蔵者の皆様、ご支援いただいた関係機関、各位に深く感謝の意を表します。

平成16年8月
大阪歴史博物館・熊本市現代美術館
※展覧会場の挨拶文より転載

※上記の説明、写真キャプションは記者発表、展覧会報道資料、展覧会図録等を参考にしました。
取材・写真・Webデザイン:ストリート・アートナビ 中田耕志
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