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ラムサール条約と蕪栗沼

ラムサール条約とは


ラムサール条約は正式名を、「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といいます。ハクチョウやツル、シギ・チドリのように季節 によって数千キロの距離を移動し、繁殖や越冬のために生息地を変える渡り鳥は、越冬地や繁殖地、中継地として複数の湿地を利用しています。国境を 越えて行き来する渡り鳥を、各国が連携して保全するため結ばれたのがラムサール条約です。

ラムサール条約がつくられた目的は、乱開発の防止と各国の連携です。ラムサール条約は1971年2月2日にイランのラムサ-ルという町で開催され た「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」でつくられました。当時、海岸や河川流域等に広がる湿地は、平地であるため港湾、工場、農地、都市など をつくるのに利用しやすく、埋め立てや干拓によって多くが消滅していました。過度の開発によって生息地が消滅し、渡り鳥が絶滅することを防ぐた め、重要な生息地を開発から守る必要があったのです。

 また国境を越えて各国の生息地を移動する渡り鳥を保全するためには、各国共通の取り決めが必要になります。

 1975年12月21日に発行され、172カ国2435箇所(2022年1月現在)の湿地が登録されています。日本では1980年に釧路湿原が 第1号の登録地となり、2022年1月現在まで53箇所の湿地が登録されました。

 登録された湿地は、国が責任をもって保全する必要があり、3年に1度開かれる締約国会議で保全状況を報告する義務が生じます。

湿地をどのように保全すればよいかを、ラムサール条約では「賢明な利用(ワイズユース)」という理念で示しています。自然保護や開発防止という と、なるべく人の手を排除し、手つかずの自然を残すことだと誤解されますが、ラムサール条約では、人も自然の一部と考え、野生生物と人が共に生き るための賢明な方法を見つけることが求められているのです。

 人は農林水産業を通じて、野生生物を利用しながら共存し、里山や水田など独自の景観や生態系をつくりだしてきました。ヨシ刈りや水路の泥あげの ように、湿地を利用しつつ湿地を維持するのに貢献してきたのです。

 湿地の消滅を伴うような大規模な開発を抑制する一方で、湿地を維持し、人が野生生物と共に生きる開発を推奨するのがラムサール条約の理念です。

ラムサール条約は世界各国にある湿地を開発の危機から救いました。また紛争が多発するなか、渡り鳥の保全を通じて国際的な協調ムードをつくり、世 界の平和に貢献したことは間違いありません。

 一方でラムサール条約は、条約違反をした国に対する罰則や制裁がない紳士協定であるため、本来なら登録の基準にあてはまる湿地を開発したり、悪 化した環境の復元を行わないなどの問題点も指摘されています。また国際的な湿地保全の枠組みがない中で、「渡り鳥だけを基準に湿地保全の枠組みを 決めてもいいのか?」という問題もあります。

 こうした問題に対し、ラムサール条約の最高機関である締約国会議では、登録の基準を大幅に変更し、渡り鳥だけでなく固有の生態系や貴重な動植物 の生息する湿地も登録できるようになりました。

 また決議文という方法で各国に湿地保全のための環境改善や国内法整備を求めています。しかしあくまで勧告であって、湿地保全の取り組みは各国の 自主的な判断に任されています。

日本では、ラムサール条約条約だけに対応した法律はなく、鳥獣保護法の「国指定鳥獣保護区特別保護地区」もしくは自然公園法の国立公園等に指定す ることで対応しています。しかし同条約では「登録湿地の保全及び湿地の適正な利用(賢明な利用)を促進するため、計画を作成、実施すること(同条 約第3条)」が求められています。

 1999年に開かれた第7回締約国会議では「決議 VII.7:湿地の保全と賢明な利用を促進するための法制度の見直しに関するガイドライン」が議決されました。また1998年には韓国がラムサール条約の国内法である「湿 地保全法」を制定しました。日本でも国内法の制定を求める声が高まることを期待します。

蕪栗沼とラムサール条約


平成17年11月8日、アフリカのウガンダ共和国で開催された第9回ラムサール条約締約国会議にあわせ、蕪栗沼・周辺水田が新たに登録地となりま した。天然記念物マガンが最大で6万羽飛来する越冬地で、ねぐらである沼と、採食地(餌場)である水田の両方をあわせて登録したのが最大の特徴で す。面積は沼164haと水田259haで、田尻町・登米市・栗原市にまたがる計423haが国指定鳥獣保護区の特別保護地区に指定されました。

田尻町ラムサールフェスティバル(2006.2.5)

蕪栗沼・周辺水田の正式登録名は"Kabukuri-numa and the surrounding rice paddies"といい、世界に1588箇所ある登録地の中で初めて、かつ当時唯一「水田」という名称で登録された湿地です。蕪栗沼をねぐらとする天然記念物マガンが、水 田を採食地(餌場)として利用している実態が認められました。登録地の中に水田を含むケースは伊豆沼・内沼や片野鴨池、スペインのエブロデルタな ど多くあります。「水田」という名称が認められたことで、水田が渡り鳥をはじめ多種多様な生物の生息地となっていることが世界的にも評価されたの です。

 これまで農地は農作物をつくるだけの場所と思われてきました。しかし最近では湿地の維持や地球温暖化の防止などの環境保全機能(これを農業の多 面的機能と言う)があらためて評価されてます。蕪栗沼・周辺水田の登録で、稲作農業が渡り鳥の生活を支えていることが世界中の人々に認められたの です。環境省は「農業と自然保護の両立を目指す、世界のモデルになり得る画期的な試み」(朝日新聞H17.11.9)と評価しています。

蕪栗沼をねぐらとするマガンは、朝沼を飛び立つと周囲10〜20km(半径)の水田で採食したり休息したりして日中を過ごします。水田では収穫の 際にこぼれたお米(落ち穂)や雑草などを食べています。夕方、太陽が沈むと再び沼に戻ってきます。

 農家は、水田で稲作をすることで「湿地」を維持し、渡り鳥の食料を提供することで、渡り鳥の生活を支えています。一方で渡り鳥は、水田の雑草を 食べたり、環境に配慮した農業の象徴としてブランド化されることで農業に貢献しています。水田は渡り鳥と農業の共生の場であり、自然と調和した人 間社会の象徴でもあるのです。

 渡り鳥の保全を考えれば、水田と沼を一体として登録することは、ごく自然のなりゆきです。しかし今回の登録は、世界の人々に大きなインパクトを 与えました。「水田を渡り鳥(野生生物)の生息地として保全していく」とは、農家を「環境の担い手」として支援することを意味します。

渡り鳥による食害のようす

蕪栗沼は、ラムサール条約に登録される以前から、ワイズユースの理念を実践する見本的な事例として高く評価されてきました。2001年に完成した 蕪栗沼遊水地(国土交通省・宮城県)では、自然環境に配慮しつつ遊水地機能を維持するための「蕪栗沼環境管理基本計画」を農業者や地域住民、民間 団体などが協力して策定し、自然と調和しつつ洪水調整機能を果たす、まさに「賢明な利用」が実践されました。また周辺水田では、渡り鳥に配慮した 農法を行う農業者もあらわれ、渡り鳥と農業の共生を図ってきました。一方で、日干しの稲が食べられる食害や、糞による牧草の被害、あぜに穴が開く など、渡り鳥から被害を受けつつ、渡り鳥が飛来する自然環境を支えている農業者には国からの支援がありません。
食害対策委員会(旧田尻町)

 1998年12月20日、旧田尻町の議会で蕪栗沼の渡り鳥による食害を補償する条例が制定されました。災害等で農作物に被害があると、農業共済 によって補償金が得られます。補償金でカバーしきれない部分を町が負担するという条例です。また冬に田んぼに水を貯めることで、ハクチョウやマガ ンの休み場を提供する「ふゆみずたんぼ」など、豊かな自然環境と安全な農作物の象徴として渡り鳥を活用するとともに、渡り鳥の生息に配慮した米作 りを行っています。このようにこの地域では、渡り鳥と農業の共生を図る取り組みが行われています。