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天然記念物マガンの保全について

天然記念物に指定

マガンはカモ目カモ科の中型の水鳥で、国の天然記念物に指定されています。1970年代、日本に飛来するマガンは絶滅の危機にありました。明 治以降に狩猟が解禁されたことと、開発によって生息地となる湿地帯が減少したことが原因と考えられています。

日本雁を保護する会調べ

マガンが天然記念物に指定された1971年頃は、日本に飛来するマガンの数は約2000~3000羽だったと推定されています。日本雁を保護 する会などの保護運動によって狩猟鳥から除外された以降は、少しずつ数が回復しました。

日本のマガンの飛来地(2005年)
日本におけるマガンの飛来数は回復傾向にありますが、飛来地が回復しないのが大きな問題となっています。原因のひとつは、開発によってねぐら となる湿地が消滅してしまったことと考えられています。
 2022年現在、日本に飛来するマガンの数は20-30万羽と推定されていますが、その9割以上が宮城県北部に集中しています。これはマガンが 必要とする、ねぐらと水田がセットになった環境がないことが理由と考えられます。

 また、マガンと同時に、ヒシクイとコクガンも国の天然記念物に指定されました。シジュウカラガンとハクガン、サカツラガンは、すでに姿を消して いたようです。1965年7月には宮城県の県の鳥に指定されました。

マガンの渡り

蕪栗沼には9月20日前後に第一陣が渡ってきます。その後10月中には数万羽となり、11月に最盛期を迎えます。1月の下旬から北へ帰り始 め、2月中にはほぼ全ていなくなります。

渡ってきたばかりのマガン(2012.9.24)

日本に飛来するマガンは、極東ロシアのツンドラ地帯で繁殖していると考えられています。1995年に伊豆沼の北の水田でマガンを捕獲し、発信器の 電波を衛星で追跡する調査が、日本雁を保護する会を中心に行われ、シベリアの北極圏に近い場所まで追跡されました。
首輪標識をつけてマガン

 この調査では、宮城を出発したマガンは、まず秋田の八郎潟に行き、北海道の宮島沼まで行きました。予想では、サハリンに渡り、大陸の海岸沿いに 北へ向かうと考えられていました。ところが、カムチャッカ半島のハルチンスコエ湖まで、オホーツク海をこえて1000kmもの距離をいちどに渡っ たのです。約10時間も飛び続けました。そして数日休んだ後、ハティルカのメイニビルギノ地区付近で、電波が途絶えました。

1995年に日本雁を保護する会が調査した結果

 同じシベリアでも、アフタットクール川河口で発信器をつけられたマガンは、中国に渡った例があります。日本に秋に渡ってくるルートは謎のままで す(ただしオオヒシクイは択捉島で渡りの途中に捕獲されたことがあり、千島列島沿いに渡ってくるのではないかと考えられています)。また日本に飛 来するマガンでも、宍道湖にいる群れはどこから来るのか分かっていません。

宮城県におけるマガンの生息地

マガンが宮城県に集中している理由は、かつて狩猟がさかんに行われていた頃、最後に残ったマガンが宮城にいたためではないかと考えられていま す。1971年に天然記念物に指定されたとき、日本に残るマガンは、仙台の福田町にいた約2000羽のみでした。この群れは、国道4号線のバイパ ス工事の開始とともに伊豆沼にねぐらを移動しました。それ以後マガンは伊豆沼・内沼周辺の湖沼をねぐらにしてにいます。蕪栗沼は1978年に数百 羽がいたのが最初に確認され、1996年に1万羽を超え、宮城県猟友会の好意によって狩猟が自粛されるきっかけとなりました。その後飛来数の増加 とともに、大崎市古川の化女沼、登米市豊里町の平筒沼、旧迫川河道、長沼などねぐらとなり、少しずつ範囲が拡大しています。


宮城県でのマガンの生活サイクル

宮城県に冬に飛来したマガンは、伊豆沼・内沼や蕪栗沼などの湖沼をねぐらとし、日中は周辺水田で採食しています。食べるものは、落ち穂や豆、 雑草などです。落ち穂の割合は3割程度とも言われており、マガンは稲作や水田と密接な関係があります。

水田で採食するマガン(2017.10.8)遠くにホニオが見える

かつては「ニオ」や「ホニオ」と呼ばれている天日干しの稲を食べられる食害が多く発生していました。現在は稲の刈り取り方法がコンバイン主流に なったため、モミの乾燥は機械で行うようになったため、食害は少なくなっています。また水田のあぜの周辺の稲が食べられる食害がマガンによると考 えられていましたが、夜間であることや、マガンが背丈の高い植物の近くを好まないことなどから、現在はカモやタヌキによるものと考えられていま す。
 
水田に落ちている落ち穂(左)と豆(右)

また最近では、転作で豆の栽培が増えています。大豆は収穫する際に5%程度が落下すると言われており、水田に大量に落ちているためマガンの重要な 食糧となっています。

水田で採食するマガン(2008.1.26)

マガンは朝、日の出の直前に沼を飛び立ち水田に向かいます。このとき、沼を一斉に飛び立つ光景は、蕪栗沼の朝の風物詩となっており、多くの観光客 が「マガンの飛び立ち」を見に訪れます。

マガンの飛び立ち(2010.12.6)

また夕方、日没後に水田から沼に戻ってくる「マガンのねぐら入り」もその幻想的風景から多くの人を魅了しています。

マガンのねぐら入り(2006.10.28)

このような迫力のある光景は、東京湾や琵琶湖などかつて日本各地のガン類の越冬地で見ることができました。宮城県に集中している現状から、かつて の状態に戻すことが課題になっています。

飛び立ち前のマガンのようす(2005.11.12)