Guide of
book
『いわさきちひろの本』

−私の生き方の原点−

やさしいまなざしの子どもの絵からは、うかがいしれないほどの 鮮烈な人生のあるいわさきちひろ。彼女は、コミュニストで、8 才年下の夫は元衆院議員で弁護士の松本善明さんです。この 3冊の本は、単にちひろの絵だけでなく、その人生や生き方を うかがい知れる本です。実は、私は、子どもの頃は、ちひろの 絵があまり好きではありませんでした。目がなんだかさびしそう な感じがして…。大人になって再会したちひろの絵は、愛情に あふれていて、とても優しかったのです。3冊の中でも特に好き だったのが「ちひろのことば」(講談社文庫)でした。その中に収 録している「わたしのえほん」というのは、松本善明さんが衆院 議員に立候補するときに二人の出会いや想いを描いているの です。私が好きだった一節


★年下の青年と出会い、いい靴を履いていない彼にお姉さん気分で「靴を買ってあげましょうか」というと、彼が
「靴なら海軍からもらってきたのが6足あるからいらない」と。「ではどうしてそれを履かないの?」とちひろが聞
くと、「僕は一生お金のたくさん入るような仕事にはつかないつもりなんです。だから、あの6足の靴を一生はこ
うと思ってたいせつにしているんです」。そこでちひろは「お金をたくさんもうけようとしている男の人はたくさん知
っているけれども、儲けまいと思っている人ははじめてでした」「この言葉をどうしても忘れることができませんで
した」と語っているのです。

★結婚式は、四面楚歌の中での、6畳間で、二人だけの結婚式。お互いがお互いの仕事を、やっていることを
尊敬しあえる。アンデルセンの童話に「おじいさんのやることにはまちがいはない」と損をしても心からほめる…
そんな童話のような関係。
−私が読んだのは学生時代。こんな生き方にあこがれました。お金をもうける仕事ではなく、ひとのためになる
生き方をとおしたい。世間がどう思っても、自分のこころに素直に生きたい。大切な人たちと心から信頼し合え
る関係をつくりたい…。こんなふうに影響を受けて生きてきて、今があります。この文章を書いていると、なんだ
かあの頃の想いが、今も心のまんなかにあることに、気づかされます。
 
 この文章を書くために読み返してみて今だから実感できることばがありました。それは「大人になること」という
文章です。簡単に紹介すると、
「『よく若いころは良かった。幸せだった』というけれど、私はそうは思わない。20年経って、今だから人の苦労
がわかるようになった。失敗を重ね、冷や汗をかいて、すこしずつものがわかりかけてきたのです。なんで昔に
もどれましょう。」
「大人というものは、どんなに苦労が多くても、自分のほうから人を愛していける人間になれることなんだと思い
ます」
過去があるから、そして積み重ねがあるから、今がある。今の自分をもっともっと輝かせたい。自分のほうから
愛していける人間に。いわさきちひろに、久しぶりにふれて、心が洗われるような気持ちです。明日からの元気
と勇気がわいてきます。ぜひ、ご一読ください。