Guide of
book
『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 』 堤 未果


  この本は、知人が「アメリカのイメージが変わった!ショックを受けた」と教えてくれました。アメリカに生活し、9・
11を体験した堤さんだからこそ書けたんですね。この本を感動をもって紹介・語ってくれた知人と、これらの事実
を教えてくれた『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 』 著者の堤未果さんに「ありがとう」とお礼を言いたいと
思います。

  世界一豊かと報道されているアメリカは、世界一の格差社会、こんな国です。
●世界の富の四分の一以上を収めながら、3100万人の国民が飢え、4500万人が医療保険に入っていない(国民
皆保険制度がない)。
● 国民の8人に1人が貧困レベル以下(2人家族で年収140万円以下)の暮らし振り。 貧困児童数は先進国でも
っとも多い1300万人。 
●乳児死亡数は1日あたり77人でキューバよりひどい。 
●国内に350万人のホームレスがいる(そのうち50万人が退役軍人)。 
●9・11のテロ以来、みんあ恐怖にとりつかれて銃を買いあさり、いまでは国内には約2億3000万丁の銃がある。 
その銃によって死ぬ子どもは1日平均13人。 
●選挙では不正が横行(黒人投票者を露骨に排除など)。

  著者の堤未果(つつみ・みか)さんは東京生まれ。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科卒業後、国
連、アムネスティインターナショナルニューヨーク支局局員を経て、2001年、米国野村證券に勤務中世界金融セン
タービルで「9・11同時テロ」に遭遇。現在は著作家・ジャーナリスト・講演通訳として活動されています。
  『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 』 で報告されているアメリカの現実。
米軍のリクルート(新兵募集)活動。「大学に進学できる」「劣悪な環境から脱出できる」「Be What You Want to     
Be!(なりたいものになれ!」等々、軍のリクルーターは貧困層の若者を狙い撃ちにします。
  貧しい家庭、劣悪な環境に育った若者は大学に進学するのも容易ではありません。そして学歴社会のアメリカ
では大学に行けなかった者は一生のあいだ時給5ドル(あるいはそれ以下)の仕事に甘んじるしかないため、リク
ルーターからいいことづくめの誘いを受けて軍隊に入る若者は少なくない・・・。
  けれども現実は大きく異なります。兵役を勤め上げても実際に大学に進学できる者は全体のうち35パーセント、
そして卒業できるのは15パーセントにすぎません。大学に入る最初の年に前金として1200ドルを払わなければな
らず、また近年大学の学費が急騰しているため、中途で諦めてしまう者が多いからです。
命がけで戦う一般兵士の給料は安くて、年間1万7000ドルから多くて2万ドル。そこから学資の積立金、生命保険
を天引きされる。命を守るための防弾チョッキさえローンで個人購入しなければならず、除隊した後に月賦を払っ
ている退役兵士もいます。
  高校卒業(中退)したばかりの子どもたちを殺人マシンに作りかえる軍事訓練キャンプ。いきなりアフガニスタン
やイラクの戦場に送られ、精神と肉体をすり減らす毎日。運が悪ければ死亡、または一生残る障害を負う。運良く
生き残れても多くの者がPTSDに苦しみます。アルコール依存症・精神病・麻薬・犯罪・・・。なのにVA(Veterans 
Association = 退役軍人協会)の予算は削られるいっぽう。
  結局のところ軍隊とは社会の縮図、貧しい若者たちを食い尽くす巨大なマシンなのです。アメリカの「新自由主
義」すなわち行き過ぎた資本主義、原理主義的資本主義の下では貧しい者・持たざる者はどこまでも食い物にさ
れる存在でしかありません。
そんなアメリカに、希望があるのか?
 アメリカ社会に深く組み込まれた不正と戦う「弱者」たちが存在するからです。インターネットを武器に軍のリクル
ート活動に反対するザック・ロンドン、タミカ・ジョンソンといった高校生たち。除隊後反戦活動を開始したマイノリテ
ィの若者イヴァン・メディナ。ブッシュ大統領に面会を要求した戦死軍人の母親シンディ・シーハン・・・。彼ら彼女ら
こそがアメリカに残された「希望」です。
  アメリカ市民の中にも権力者によって踏みつけにされている「弱者」が存在し、その弱者たちが最後まで決して
希望を捨てずに戦っている・・・。
この本は、アメリカの「弱者」。すなわち未成年者・女性・マイノリティ・貧困者にこそ希望はあるのだと力強く伝えて
います。 
(『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命 』 堤未果、海鳴社、2006)