『オシムの言葉―フィールドの向こうに人生が見えるー』 (木村元彦)
この本はイビチャ・オシム監督が、日本代表のサッカ
ー監督に就任したころに、出されました。
オシムが残したサッカー選手へのエールとしてだけでな
く、人生・生き方につながる言葉として読みました。
深い人生を歩んできたからこそ、その言葉に深みがあ
るのですね。
彼の祖国ユーゴスラビアは多民族国家であり、その統
治の 難しさは7つの隣国6つの共和国5つの民族4つの
言語3つの 宗教2つの文字1つの国というような多民族
国家の中 サッカー選手として順風満帆な前半でしたが
W杯時の監督時代 内戦によって国家は分断され家族
は別れ別れになり苦難の末 数年後に再会します。
その温和な顔とは裏腹に目には強さがあります。
それは苦難を乗り越え、静かに戦ってきた者の優しい
眼差し。それは身体で覚えている記憶と時に重なり合う
のでしょうか。
隣国が民族意識を高め、互いに殺し合った。その傷
跡は今なお深い亀裂を残しています。
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その最も難しい時期にユーゴスラビア最後の監督となったのがオシムでした。ユーゴは当時世界屈指
のチームであり、最強の呼び声が高かった。W杯優勝するだけの力はあったが、民族意識の高まりで
徐々に亀裂が走った。チームとしての体をなさなくなっていった。監督としてのオシムは徹底していた。チ
ームバランスを重んじた。だからどんなに巧い選手だろうと外した。流れの中から攻撃できるチームを目
指した。創造的な組み立てのあるサッカーを模索した。自ら学び、理解し、そして柔軟に対処する。そう、
彼のサッカーは言わば哲学に近い。常に動き、走る哲学。オシムもまた勉強することを惜しまない。
母国ユーゴ内戦のさなか、代表チームを率いて欧州選手権を戦う姿が描かれています。
内戦時代のエピソード
「悲惨な内戦を乗り越えてきたことが、試合中の強靭な精神力や他文化に対する許容力を養ったので
はないか」 との著者の質問に、
「そういうものから学べたとするなら、
それが必要なものになってしまう、そういう戦争が」
と応えます。
これが本書でいちばん心に残った言葉でした。
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