高校3年生の美術の授業で黄金背景テンペラの制作にチャレンジします。
そもそも、動機は。3年生にもなれば、生徒もお手軽なお絵かきには、はっきり言って、物足りないと感じているところです。学校で学ぶ美術の授業はこれで終わり。最後に「これだ!」というインパクトのあるもの。まがい物ではない本物にチャレンジさせてみたい。(ま、本物と言うよりは本格的なまがいものでしょうか。西洋の中世を真似るのだから、まがい物もに違いないのですが・・・。)それでも、いつか彼らが美術館や中世の教会で本物に出会ったら、自分のこの体験が生きるはず。ジョットやアンジェリコがぐっと身近になるはず。古典を理解する一番の近道は実際にやってみるのがイチバン。理屈じゃないよ、眼と手で感じることだ。てなわけで、さっそく、先週からスタートさせました。

事前(材料用具の準備)
生徒は全部で11人。参考書は、田口安男著「黄金背景テンペラの技法」美術出版社1978年

 下地作成に準備するもの

シナベニヤ
厚さ20mm。材木店でF3サイズにカットしてもらう。1枚の半分の大きさで12枚取れる。

寒冷沙
90cm幅を2m

ウサギ膠(1kg5000円ぐらい)

刷毛
人数分

容器
湯煎鍋、ビーカー、電熱器、温度計、画鋲

削り鉄パネル

導 入
まず、インターネットでイタリアへ行き、ウッフィツ美術館を見学しました。(ジョットの作品は意外と生徒にウケが良いことが判明。)
黄金背景がどんなものかイメージを掴みます。

展 開
下地作りは時間がかかるので、素描の課題と平行して進めることにします。


下膠塗り・布着せ 第1回目(5月14日)

(1)膠の準備

膠液は70°にならないよう注意します。

(2)板にヤスリをかけます。
(3)下膠を塗ります。 (4)布は板よりも大きめに、裏側まで回します。
(5)布の角の処理は板の厚さ分、
耳を作り縁に回し込むときれいに処理できます。 (6)布を畳むとこんな具合。
(6)布が濡れないうちにハサミで切ります。 (7)畳みます。
(9)膠で布をとめます。このとき、膠の温度はお風
(8)また、畳みます。 呂ぐらい。湯煎鍋で保温しながら作業を進めます。
(10)裏側も膠で留めたら画鋲で下駄を履かせます。
(11)表にして乾燥させ次週を待ちます。


今日やったこと。
○前膠塗り (膠1000cc用意して、凡そ200cc使いました。残りは冷蔵庫に保管して次週使います。)
○パネルに前膠を塗る。
○布着せ  (寒冷沙を板に巻き、膠で接着する。布の角の処理の方法。)


 下地塗り 第2回目(5月21日
(1)
第1層はとのこと地の粉を同量づつ混ぜ合わせたものを使います。布の目を潰し、塗料を食い込ませるためです。田口先生は、石垣を作るように粒の粗いものから、細かなものへと積み上げると、仰っています。ですから、何層かに分けて、徐々に地の粉の分量を減らしながら、塗るのでしょう。
(2)
200ccのビーカーに半分膠を入れ、(1)で作った地の粉をへらで、まぶすように振り込みます。
(3)
ゆっくりかき混ぜ、気泡を作らないように注意します。
筆ですくい、布に擦り込むように塗ります。このときだけ、膠はかなり暖かなものを使います。布目の中にしっかり地塗りが食い込むように塗るのがポイントです。
(4)同じ方向に筆跡をつけて塗ります。 ヨコならヨコ、タテならタテです。
膠水と石膏を準備します。 へらで掬い、サラサラと振り入れます。
頭が出るぐらいまでゆっくり振り入れます。 棒でゆっくりかき混ぜます。
氷水で冷やします。 刷毛目を付けるように1回目を強く塗ります。

こんな感じでやってます。
今日やったこと。
地塗り第1層目(膠は先週の残りを200cc使いました。残りは廃棄。とのこは200g、地の粉は約500g使用)



第3回目(5月28日)
石膏塗り 2回目.3回目

2回目の塗りを行います。前回と同じ石膏液を使います。2回目以降はかなり堅くして使います。流水や氷水で冷却するときは、冷えすぎて、固まらないように温度管理に注意します。
この位のだまになると、一度の塗りで厚さを稼げて好都合です。
筆の方向は縦の次にヨコ、交合に塗ります。8の字を描くように。
1時間目の始めに2回目を塗り、風通しの良いところで乾燥させます。2時間目の中頃には塗れ色が取れて、3回目が塗れます。

今日やったこと。
膠水は500cc用意しましたが、300cc残りました。ラップをかけて冷蔵庫に次週まで保管します。
石膏は2袋目。500gを使い終わりました。

第4回目(6月4日)
石膏塗り4回、5回目。前回と同様に、刷毛目を直行させて塗り重ねます。先週の膠液300ccを使い切りました。


第5回目(6月18日)
石膏液塗り6回目、7回目。膠水は500cc新たに準備し、凡そ250cc使いました。石膏は3袋目を使い終わりました。
第6回目(6月25日)
石膏塗り7回目、8回目。膠液は前回の残りを使い切り、石膏は4袋目。

第7回目(7月2日)

最後の石膏塗りはへらで行います。古くなった定規を利用してヘラの変わりとします。この段階ではかなり凹凸がありますから、凹んだ部分に石膏を埋める感じで塗り込めます。
ヘラを立てて、平面を出します。
最終的にここまで来ました。

最後の石膏塗りにします。厚さが少々足りなかったかも知れませんが、強い刻印を打つ予定はないので、これで充分と判断します。最終は定規で刷毛目の窪みを埋めるように平滑に石膏をならします。今学期はこれで終わりです。夏休み期間中、充分乾燥させ2学期からは、いよいよ下地作りの最後の仕上げに入ります。

 削り 9月3日(第8回目)

まず、木炭の粉を全面にまぶします。

凹部に木炭の粉が入ったところで、鉄板で凸部を削ります。鉄板は平で、石膏よりも硬さがあれば何でも構いません。今回使った板は出入りの教材屋さんが、自動車工場から貰ってきた物を、ベルトサンダーで平にしたものを使いました。

鉄板は画面に水平に当て、平面に削り出します。
だいぶ平になってきました。
最後の仕上げに、大きな鉄板で画面全体を平滑に削り出します。
木工ヤスリを使って、4辺の角を45°に削ります。角が当たって、石膏が崩れないようにするためです。木工ヤスリは目が粗いので、仕上げに紙ヤスリを使うと良いでしょう。

削り終えました。

純白の平滑な画面の出来上がりです。このあと、手の油や埃が付かないよう、注意します。特に、油分は水を撥き致命傷になります。

遊び粉を取ります。削りで残った、細かな削りかすを湿らせた布で拭き取ります。

戻る