●ミクリッツ病とは※1
ミクリッツ病は、左右の唾液腺、涙腺が痛みなく、腫れる病気です。国内にどのくらいの患者さんがいるのかは分かっていませんが、50~60歳代の女性に多いとされています。
●ミクリッツ病の歴史
ミクリッツ病は、1888年にオーストリアの医師ヨハン・フォン・ミクリッツ・ラデッキー(Johann von Mikulicz-Radecki)が報告したことに始まります。
1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが発表した研究論文によってシェーグレン症候群の概念が確立されると、一時は2つの病気が共存していたものの、1953年に当時の病理組織解析により、ミックリッツ病はシェーグレン症候群と同じ病気とされました。
一度は消滅した病気となったミクリッツ病ですが、近年になり再び取り上げられるようになりました。
2000年に東京歯科大学の研究者が、シェーグレン症候群とミクリッツ病の患者さんでは涙腺の状態が違うことを発見。2004年には、札幌医科大学の研究者がシェーグレン症候群の患者さんの中に、ステロイド薬が効き、免疫タンパク「IgG4(アイジージーフォー)」の値が高い患者さんが、ミクリッツ病の特徴をもつことを発見しました。
これらの日本人研究者の成果をもとに、2008年に日本シェーグレン症候群学会は、その特徴から「IgG4関連ミクリッツ病」と定義し、診断基準が作成され、診療に役立てられるようになりました。
2010年には厚生労働省は一連の症状や病的な変化を「IgG4関連疾患」と命名することを提唱し、2011年にはアメリカで開催された国際会議でIgG4関連疾患が認められ、医師や研究者の間で日本が提唱した概念が世界に広まりました。今日では、ミクリッツ病はIgG4関連疾患の一つとされています。
1888年 | 医師・ミクリッツにより命名。 |
1933年 | 眼科医・シェーグレンがシェーグレン症候群の概念を発表。 |
1953年 | ミクリッツ病は、シェーグレン症候群の一つとされる。病気の消滅。 |
2004年 | ミクリッツ病はシェーグレン症候群とは違うことが明らかにされる。 |
2008年 | ミクリッツ病の診断基準が作成される。 |
2011年 | IgG4関連疾患の概念が世界に広まる。IgG4関連疾患の一つとされる。 |
1)涙腺、耳下腺、顎下腺の持続性(3ヶ月以上)、対称性に2対以上の腫脹を認める。 2)血清学的に高IgG4血症(135ml/dL以上)を認める。 3)涙腺、唾液腺組織に著名なIgG4陽性形質細胞浸潤(強拡大5視野でIgG4陽性/IgG陽性細胞が50%以上)を認める。 |
ミクリッツ病 | シェーグレン症候群 | |
発症年齢 | 50~60歳代 | 40~50歳代 |
性別 | 女性がやや多い (1:1.3) |
圧倒的に女性が多い (1:20) |
唾液腺の腫れ | 持続性 | 反復性、自然消退 |
ドライマウス | なし~軽症 | 中等症~重症 |
ステロイド薬の効果 | 良好 | なし、ときに効果あり |
血清IgG | 正常~著名高値 | 正常~高値 |
抗SS-A、B抗体 | 陰性 | 陽性(A:7割、B:3割) |