僊nemone coronaria - phase 6 -


その後も数回の戦闘をこなすことにはなり、かなり時間もかかってしまったがどうにかラコルム海停まで到着した。
しかしローエンの予想通りで、既に今日の船便は終了してしまっている。

 「やっぱり今日はここまでみたいだね」
 「さすがに定期船が終わっちゃってるんじゃあ、どうしようもないね・・・・・・」

定期船のチケット販売所にぶら下げられている「本日終了」のプレートに溜め息が零れた。
レイアの言うとおり、終わってしまっているものはどうしようもない。
今日はラコルム海停で一晩過ごす他ないだろう。

 「うーん・・・・・・」
 「もうねむーい、つかれたーっ」

すぐ横ではエリーゼが目をこすってうとうととしている。
どのみち一晩滞在するのであれば必然的に宿をとらなければならない。
このままでは立ったまま眠ってしまいそうなエリーゼもかわいそうで、
明日の朝一の出港時間だけ控えてラコルム海停内にある宿へと向かった。

 「すみません、今夜2部屋取りたいんですが大丈夫ですか」
 「はい、空き部屋はありますので大丈夫ですよ」

かなり遅い時間の到着となったため部屋が空いているか不安ではあったが、
2部屋とることができたので、今夜は男女別々ということになりそうだ。
一足先にと、鍵を片方レイアに託し、彼女は今にも寝そうなエリーゼの手を引いて部屋へと向かう。

 「ジュード、明日はどうする」
 「朝一で出たいけど、まだ何処行きの定期船に乗ったのか分からないんだよね・・・・・・」

エリーゼと彼女を寝かしつけにいったレイアを除き、
今エントランス脇の待合席にいるミラとローエンとの3人で明日のスケジュールを確認する。
早いに越したことは当然ないわけだが、如何せん彼らの情報はここの海停で途切れている状況だ。

 「僕たちがあの荷馬車を目撃した時間から計算すると、彼らがここについたときにはル・ロンド行きは終了していたみたい」
 「イラート海停、サマンガン海停、あるいはイル・ファンということですか・・・・・・中々絞れませんな」

ここからはもうある程度の予測から判断していくしかない。
ジュードは右の人差し指で頭をとんと突きながら考えた。

残りの行き先から消去法をするとすれば、恐らく最初に消えるのがイラート海停だ。
何故かといえば、あの辺りはかなり閉鎖的であったという点につきる。
ハ・ミルは自分たちが初めて訪れた折、外からの来訪者は珍しいと村長が言っていた。
そのような地域で頻繁に出入りをしていたら足がついてもおかしくはない。

 「・・・・・・イラート海停はないと思う、あそこでアルクノアが活動してたら目立つはずだし」
 「確かにあの辺りはのどかな農耕地でしたから、外からの人間は目立ちます。とすると、ラ・シュガル側ですか」

ア・ジュールにおける彼らの一大拠点が実質リーベリー岩孔ということになるとすれば、
もうひとつ、ラ・シュガル側にも大きな拠点があるはずだ。
サマンガン海停とイル・ファンとの二択は、少し難しい。

今の話で言えば、イラート海停は拠点にするには頻繁な出入りによる悪目立ちの他にも物資供給がしづらいという点もある。
リーベリー岩孔の場合、王の狩り場を通過することになるとはいえ、近場にシャン・ドゥという大きな街があるわけだ。
サマンガン海停方面であれば交易拠点のカラハ・シャールがあり、イル・ファンはリーゼ・マクシア随一の大都市。
どちらも物資の供給と出入りという問題は難なくクリアできる。

 「サマンガン海停経由で出て、カラハ・シャールでお嬢様に最近の動向を聞くという手もありますが、
  はずれの場合、かなりのタイムロスになります」
 「今日ここで足止めをされているというのに、これ以上のタイムロスは避けたいところだな」

確かにローエンの提案の通りで、もしカラハ・シャール近郊で不穏な集団の動きを察知しているといったことがあったとすれば、
そこを狙えばたどり着く可能性もあるが、そもそもそんなに目立って行動していたら過去に話を聞いていそうなものではある。
何より彼らはミュゼの驚異から逃れるために息を潜めていた、ここしばらくの間では表立った行動は起こしていないはずだ。
そうなると、もしもカラハ・シャール近郊に潜んでいたとして、ドロッセルの耳に情報が入っていないことも考えられる。

 「ラ・シュガルでアルクノア関係のこと・・・・・・そうだよ、イル・ファンじゃないかな?何で気づかなかったんだろう」
 「ふむ・・・・・・そうか、槍があったのもイル・ファンだな」

当たり前すぎて盲点になっていたとは、灯台下暗しにも程がある。
イル・ファンにはジランドがいたのだから、当然アルクノアの人間が出入りしていておかしくはない。
とはいえ、イル・ファンのどこなのかといえばそこまではまだ断言できないが、今回のように一歩ずつでも進む他ないだろう。

 「どちらも拠点を近くに作るとしたら利点があるけど、イル・ファンのほうが多分可能性は高そうだね」
 「そうですね・・・・・・ジランドの掌握していた土地に存在する可能性のほうが高い。その可能性に賭けてみますか」

もしかしたらジランドがイル・ファンにいることもあって、あえてカラハ・シャール近郊にあった可能性もあるが、
もともとシャール家はナハティガルとの間に溝があったため、
カラハ・シャール近郊はナハティガル側という立ち位置にあったジランドの手は及びにくい。
つまり、アルクノアの動向をもしシャール家に察せられた場合、ジランドのフォローが届きにくいということになる。

一方イル・ファン近郊であれば彼の息が届く範囲であるため、参謀副官という立場を利用して融通をきかせやすい。
そもそもクルスニクの槍の開発にあたって、あの研究所にアルクノアの人間が混ざっていたと考える方が明らかに普通だ。
ともすれば、結局のところアルクノアが出入りする頻度が高かったであろう街は必然的にイル・ファンということになる。

 「では明日はイル・ファンに朝一で向かうということで」
 「うん、じゃあミラは2人にも伝えておいて・・・・・・ってもうエリーゼは寝てるだろうし、起こしてあげてね」
 「あぁ心得た、ではまた明日な」

ミラの後ろ姿を見送りつつ、椅子から立ち上がる。
必死で思考をめぐらせていたせいか、どうにも目が冴えてしまっていた。
眠らないと明日に響くと分かってはいるものの、これは困ったものだ。

 「ジュードさん、私たちも部屋へ参りましょうか」
 「うん、そうだね」

横になって目を瞑るだけでも多少は違うとも言うし、とローエンと共に部屋へと向かう。
考えてみるとローエンと2人部屋というのはかなり珍しい。
2人部屋の場合でも大概同室はアルヴィンだ。
つくづく、自分の行動範囲に対する彼の侵食率の高さを思い知らされる。

 「顔色が悪いですよ、しっかり睡眠をとって休んでください」
 「あーうん・・・・・・」
 「アルヴィンさんを助ける前に倒れては本末転倒です」

部屋につくなりそう言われてしまうと返す言葉も見つからず、少し本でも読んで落ち着こうかとも思ったが、
早く寝ろという意味合いの篭もったローエンの言葉に反してまでそうする理由もない。
大人しくベッドに入ってしまおうと、ジュードは手早く眠る準備を済ませてベッドへと横になった。

目を瞑ると、目蓋の裏側にリーベリー岩孔で見つけた血痕が浮かび上がる。
そこまで多い出血量というわけではなかったが、彼の銃が落ちていた状況からもかなり厳しい状況だったのだろう。
考えれば考えるほど不安だ、程度はさておいても怪我をしていることは間違いない。

そして、あの時突き放すようなことをしなければ、彼はこんな状況にならずに済んだに違いない。
これは自分の責任だ、彼を信じようと一緒に行こうと決めたのに、その決意は思いのほか脆いもので。

ここまで来る間、どうにか押さえ込んでいた自責の念が溢れ出て、ジュードはなかなか眠りにはつけなかった。


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アルヴィンが出てこないけど、アルジュなんです・・・・・・orz