僊nemone coronaria - phase 8 -
イル・ファンの海停に入港したあとは、まずは医学校前を通過して中央広場のホテルへと向かった。
この街のホテルは大部屋がないため、部屋割りがどうしても細かくなってしまう。
そして今日は1人部屋が埋まってしまっているということで、2人部屋を3つとることになった。
「アルヴィン君連れ出したら6人になるんだし、それでいいと思うよー?」
「うん、荷物置くだけならほんとは部屋1個でもいいのかなって、ちょっと思ったんだけどね」
仮に脱出時に追っ手がきたところで、相手がアルクノアと分かればラ・シュガル兵とア・ジュール兵が対応してくれるだろう。
そう考えると、イル・ファン付近でアルヴィンの救出ができた場合、そのままこのホテルに泊まればいい。
6人の時に2人部屋3つとなる時は部屋割りが自然と決まってしまう。
結論から言ってしまえばいつものリンクの構成で分かれているが、色々な理由がそこにはある。
一番問題となるのは男女で1部屋になる組み合わせだが、ジュードは恥ずかしいという分かりやすい理由で避けており、
アルヴィンを女性と同室にするのはどうなのかという点は満場一致、そうなると年長者であるローエンが妥当だ。
とはいえ、ミラを同室にしてしまうのは皆どうなのかという話になり、レイアも年頃なのでジュードと同様恥ずかしさはある。
その流れで結果的に最年少のエリーゼがローエンと同室ということで落ち着き、
あとは男女それぞれと分かれれば結局リンクの構成通りの部屋割りになるというわけだ。
「では、荷物を置いたらすぐに出発しよう・・・・・・ジュード、ここからはどうするつもりだ」
「色々考えてみたんだけど、ラフォート研究所とオルダ宮を繋いでいる地下通路を見に行ってみるのはどうかな」
「なるほど・・・・・・あの地下通路は崩落で通行できなくなっていますが、何か隠し通路が残っている可能性はあるでしょう」
ローエンの言葉に頷いて応える。
現状アルクノアが関わっていたものといえばそのあたりしか目星がつかない以上、そこから調べていくしかない。
提案への賛同を受けたところで、それぞれ部屋に荷物を置きに向かうため、一旦別れた。
ジュードは2部屋3個の場合にいつも同室のアルヴィンがいないため、今のところ1人で部屋を使うということになる。
大きな荷物をソファに置いて、探索用の小さめの荷物を取り出した。
道具類と旅の資金を入れて、忘れ物はもうないかと大きな荷物へ手をいれた時、かつんと硬質なものに手があたる。
「あ、これは持っていかないと」
取り出したのはリーベリー岩孔で回収したアルヴィンの銃だ。
あの時ついていた血痕は既にふき取っているため、その痕跡はもう残っていない。
そっとその銃を胸元で抱え込み、俯き気味になりながら目蓋を閉じた。
どうか無事であるようにと、見つけられるようにと、ジュードは祈った。
オルダ宮の前にはラ・シュガル兵とア・ジュール兵が共に立つという、かつてなら考えられない光景が広がっている。
現在は開放されているオルダ宮の内部に入ることは容易く、ラ・シュガル兵に関してはローエンがいれば顔パス同然だ。
ひとまずはあの玉座の先にある、最上層の望見の間へと向かうことにした。
「でも、前にあそこへ行った時にそれらしい通路ってなかったよね?わたしが覚えてないだけかなぁ」
「いや見た覚えは私もない・・・・・・だが、あそこに通路がなければ、クルスニクの槍の運搬という目的に利用できないからな」
「正確な通路の場所を把握している兵士は極僅かのようです、心当たりのある場所を自力で探す他ないでしょう」
行き当たりばったりではあるものの、ミラの言うとおりでそもそもあの部屋に地下通路が繋がっていなければ、
ラフォート研究所からの移動、そしてファイザバード沼野への持ち出しも叶わないはずだ。
オルダ宮の中を進み、望見の間へと到着した。
ここからは手探りで探す他ないため、以前クルスニクの槍を探しにきたこの広間をくまなく調査する。
壁や柱に何かスイッチのようなものはないかと探してまわると、エリーゼが何かを見つけたように声をあげた。
「あのっ、ここ・・・・・・ここに何かあります」
「あったー!あったぞー!」
エリーゼのもとに駆け寄ってみると、何かスイッチのようなものがあるようだった。
それは窓際の台座部分に近い柱の根元部分にあり、エリーゼの目線でなければ気づかなかったかもしれない。
屈みこんで覗いてみなければ、ジュードの目線では影になっていて分からない場所だ。
「よし、では押すぞ」
思い切りよくミラがボタンを押した。
途端、台座部分にここまで来る折に使った蓮華陣よりも大きい陣が浮かび上がる。
恐らくこの蓮華陣が地下通路まで繋がっているのだろう。
「参りましょうか」
「うん、行こう」
全員蓮華陣に乗ったことを確認し、早速陣を起動した。
次の瞬間視界に映る景色は一転して、巨大な空洞と言ったほうがいいのではないかという程に天上も高い通路へと出る。
直線状に伸びている通路の途中、崩落の現場らしい場所には瓦礫が積みあがっていた。
「・・・・・・僅かにですが、人の気配を感じます」
「まだ少し離れているようだが、ジュードの読みはあたりかもしれないな」
褒められたことを素直に喜びたいところではあったが、その気配がアルクノアのものとこの目で確認するまでは安堵できない。
予想通りであれば、恐らくこの通路の何処かに、アルクノアの拠点となっている場所へ繋がる入り口があるはずだ。
ひとまず直線状に続いている通路を歩き始めて周囲を窺う。
「あれ・・・・・・何か、風が通るような音しない?」
レイアがきょろきょろとしながらそう問い掛けてくる。
耳を澄ませて意識を集中してみると、確かに薄っすらではあるが隙間風が抜けるような音が聞こえた。
それが聞き取れたのはどうやら他も同じようで、口々に聞こえたと頷く。
前方は完全に瓦礫で埋まっているため、風が通る状況ではない点からも、恐らくどこかに横道があるはずだ。
「風が通るってことは外に繋がってるってことだから、バルナウル街道かアルカンド湿原に繋がってる道があるのかもー?」
「方角的にはこの直線通路の先がアルカンド湿原、あの瓦礫の向こうで分岐があればそこがラフォート研究所、
とすると、恐らくはバルナウル街道方面の道があるのでしょう」
バルナウル街道方面とすれば恐らく進行方向右側の壁だろう。
横幅も広い通路の中央から右にそれて、よくよく壁を観察してみると不自然な隙間があり、そこから風を感じた。
更にその近くの壁を注視すると、薄い蓋らしきものがあり、その蓋の下に先ほど望見の間にあったものと似たボタンがある。
「これだね」
そのボタンを押すと、先ほどの不自然な隙間があった部分が上部へとスライドして持ち上がり、細い通路が姿を現した。
薄暗いこの大きな通路では、余程気をつけてこの壁を観察しなければあの隙間も蓋も気づくことはなかっただろう。
早速と踏み込んでいったミラのあとを皆で続き、少し歩いたところで彼女が立ち止まったため、揃って足を止めた。
「ミラ、どうしたんですか」
「道が分岐している、風が抜けてくるのは右からのようだが」
「・・・・・・ということは、左に進んでみたほうがよさそうだね」
頷き、左方向へとミラが再び歩き始める。
この先が正解であることを祈りながら、ジュードは荷物の紐をぎゅっと握り締めた。
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それっぽい感じになるようには努力しているんですが、地下通路の設定とかむにゃむにゃ・・・・・・ぽちっとな。