僊nemone coronaria - phase 9 -


一本道になった細い通路を歩いていくと、まもなくして行き止まりにあたった。
そこには扉がひとつあるが、どうにもセキュリティカードのようなものが必要なようで、押しても引いてもびくともしない。
さすがにこれからセキュリティカードを探すというのも骨が折れる。

 「ふむ・・・・・・これは面倒だな、強行突破でも構わないか?」

ぽつり、とミラが物騒なことを言い出して少し焦ったが、ここで立ち往生している場合でもない。
いつもなら止めるところだが、誰も止めようとしないあたりはさすが皆分かっている、ということだろうか。
異論はないものと判断したようで、ミラが四大精霊を呼び出し、扉を大破させた。

 「急ぎましょう」

中へ侵入するとさすがは厳重にしていただけのことはあるようで、先ほどの扉大破の煽りでサイレンが鳴っている。
途中遭遇した人物の姿はまさしくアルクノアのそれで、やはりここが彼らの拠点であることは間違いないようだ。
戦闘も避けられるはずもなく、幾度かの戦闘が発生する。

 「なっ、なかなか進めないねー・・・・・・やっぱり本拠地ってことかなぁ」
 「入り口を派手に吹き飛ばしたから侵入したのばれちゃってるし、仕方ないよ」

俄かに息を切らせているレイアに、苦笑しながら応じる。
さすがに強引な侵入方法を取った手前、相手も対応しに来るのは当然だ。
しかしその数は確かに多く、以前のリーベリー岩孔よりも人が集まっているのだと実感する。
つまるところは、レイアの言うとおりでここが現状のアルクノアにとっての本拠地なのだろう。

 「本拠地だというのなら、丁度良かったではないか」
 「アルヴィンもいそうですね・・・・・・っ」

とにかく前方を塞ぐアルクノアをなぎ倒しながら奥へと進むしかない。
ここまで必死に抵抗してくるのだから、自分たちに見られては困るもの、来られては困るものが奥にあるはずだ。
しかし何度目の戦闘が終わった頃合だったか、突如その人影が見当たらなくなった。

 「様子がおかしいですね」
 「ジュード、避けろ!」
 「えっ?」

ミラの声にはっとして後方へとステップをすると、突然左右の壁から飛び出した扉に通路を遮断された。
運が悪いことに、直前の戦闘で前方に突出していたジュードは先頭に立っている状態だ。
その立ち位置で言葉を交わすのにミラたちの方を振り返っていたため、ステップをした後方は進行方向だった。

丁度先ほどまでジュードが立っていた位置で扉がしまったせいで、
結果として扉を挟んでジュードだけ孤立した状態ということになってしまった。

 「セキュリティが動いたのかな・・・・・・あぁ、荷物挟まってる」

手には荷物の紐が巻かれているものの、荷物本体はどうやら扉の向こう側らしい。
仕方がないと手から紐を解いて離すと向こう側で袋が床に落ちる音が聞こえた。

 「ごめん、僕の荷物預かっておいてくれないかな」
 「あ、じゃあわたし持っておくね・・・・・・ジュードひとりで大丈夫?」
 「うーんどうかな・・・・・・でもこの扉かなり頑丈そうだから、別行動するしかなさそう」

こつこつ、と通路を遮断する扉を拳の裏で軽く叩いてみるが、とても硬質な音が響く。
さすがにあの入り口のようにここを大破させるというのは手間がかかりそうだ。

 「僕はこのままこっち進んでみるよ」
 「仕方がないな・・・・・・こちらは反対方向の通路へ向かってみるとしよう」

先ほどT字路を曲がったばかりだったため、丁度反対方向にもまだ通路が続いている。
さすがにここで単独行動はかなり不安があるが、かといって逃げ場もない以上、進むしかないだろう。

 「そうだレイア、その荷物にアルヴィンの銃が入ってるから、僕より先に見つけたら渡しておいて」
 「うん、りょーかい・・・・・・気をつけてね、怪我しないでよ?!」

心配そうな声で言うレイアの言葉の後、走っていく足音が響いて段々と音は遠のいていった。
改めて、通路を遮断する扉に背を向けて進行方向へと向き直る。
荷物が手元にないせいで薬品類の予備は限りなく少ない。

 「・・・・・・行くかな」

あまり音をたてないように駆け出した。
ひとまず今のところは視界に敵の姿はなく、周囲の様子を窺いながら進んでいく。
あの壁の奥にまさか抜けた人間がいるとは思いもせず、
恐らくはミラたちがいる方にアルクノアは集中して集まっているのだろう。

 「っと」

T字路の突き当たりを曲がろうとしたところ、集団で走る靴音が聞こえてきたため、曲がる手前で壁に背を着く。
4人か5人はいそうな音で、できればこのまま自分に気づかずに直進してくれないかと願えば
幸運にも彼らはジュードの存在に気づくことなくそのまま駆け抜けていった。

 「ふぅ・・・・・・となると、こっちが奥かな」

彼らが走ってきたのは左方面からだ。
T字路を左折して再び駆け出すと、さすがに運は続かず一本道で2人組の敵と遭遇する。
これは交戦するほかないと、ジュードは構えた。

火炎放射の武器は避けてしまえば後ろの隙が大きい。
集中回避で後方へ回って三散華、連牙弾と連続で拳を叩き込んだ後に2人纏めて転泡で転ばせる。
一旦後方へステップして距離を置いて、立ち上がったところに飛天翔駆で一気に距離を詰めて、と
できるだけ攻撃を受けないように間合いを意識しながら交戦する。

どうにか2人とも床に沈めたところで息が切れそうになり、大きく息を吐いた。
1人は完全に意識を失っていたが、もう1人はまだ呻いている。
意識のあるアルクノアの男に歩みより、屈みこんだ。

 「アルヴィンは今どこにいるんですか」
 「・・・・・・アル、ヴィン?」
 「アルフレド・ヴィント・スヴェント、ここにいますよね」

アルヴィンの名に聞き覚えがない様子の男にフルネームを言えば、思い当たることがあるようだった。
あまりこういうことはしたくはないと思いながらも、今は時間が惜しい。
小さく溜め息を零した後、ナックルの爪部分を男の首筋へと宛がった。

 「あまり手荒なことはしたくないんですけど、知っていることを答えてもらえませんか」
 「・・・・・・階下の、牢に」

現在の居場所を聞く限り、やはりあまり良い予感はしない。
どこから階下に降りれるのかを尋ねれば、この通路を真っ直ぐ進んだ突き当りだと男は答えた。
この期に及んで嘘を言っているとも分からないが、どちらにしても進行方向ではある。
手短に礼を述べたところで、申し訳ないと思いながらも一発打ち込んで気絶させた。

 「はぁ・・・・・・いいのかな、こんなことで」

医者を目指している人間のすることではないなと苦笑しながらも、ジュードは通路を駆け出す。
先ほどの男が言った通りで、この一本道になっている通路の突き当たりには階下へと繋がる階段があった。
乱れた呼吸を深呼吸で整えながら、階下の気配を窺う。
数人の気配があり、何か物音が聞こえてきた。

 「ひとりでも行くしかないかな」

手を守っているグローブとその上に装着しているナックルを整え、手をぐっと握る。
迷っている暇はない、とジュードは階段をなるべく音をたてないようにそっと降りはじめた。


≪Back || Next ≫


さらりとアルヴィンのフルネームを噛まずに言えるジュードくんがいいと思う。
ようやく話が佳境に入ってまいりました。