僊nemone coronaria - phase 15 -


エリーゼが自分たちの隠れていた倉庫の隣でアルヴィンの荷物と大剣、
そして没収されていたナックルを見つけておいてくれたため、ひとまず動ける状態となった。
ミラたちの通ってきたであろう通路の方を見ると、通路の壁自体がでこぼこになっており、凄まじい状況だ。

 「あ、そうだ・・・・・・アルヴィンこれ」
 「ん?あぁ、サンキュ」

レイアから預けていた荷物を受け取った後、その中からアルヴィンの銃を取り出して彼に手渡した。
これで彼も準備万端だ。

 「セキュリティが作動して閉じられた扉は、先ほど制御室ですべて開放してあります。急いで外へ出ましょう」

ローエンの言葉に促されて通路を駆け出した。
牢から逃げた折に追っ手が現れたのも、恐らくはあの扉が開放されたためだったのだろう。
あの出入り口までの道も既に確認済みだったようで、先頭を進むミラが迷うことなく進んでいった。

ミラたちがおよそ制圧したこともあってか、結局出入り口まで戦闘が発生することはなかった。
しかしそれも、単純に出入り口で皆待ち構えていただけということで、別段逃げたというわけではなかったようだ。
当初破壊した出入り口まで来たところで、前方にアルクノアの集団が待ち構えている。

 「む、待ち伏せか」

先頭を進んでいたミラがその足を止め、剣をゆるりと抜いて構える。
相手側の先頭に立っている男は、あのがたいのいい男だった。

 「ここは通さないぞ、お前から向こうへ帰る方法を聞くまではな」
 「・・・・・・おたくもホントしつこいね、異界炉計画を急進させようとしてる奴に教える気はねぇって言ってるだろ」

げんなりとした声色でアルヴィンが応じた。
言葉を投げあいながら、こちらもむこうも間合いを計る。
しかし今この場で応じあったところで話を聞き出せないと判断したようで、先に動いたのは相手のほうだった。

 「ウンディーネ!」

ミラの呼びかけに応じて現れたウンディーネの槍が敵を貫く。
それに続くようにして前方へと駆け出し、距離を詰めたところで三散華を叩き込んだ。
後方からはローエンとエリーゼが詠唱を始めた声が聞こえてくる。

すぐ隣に踏み出したアルヴィンのタイドバレットを受けて手前に立っていた数人の敵が転倒し、
そこにレイアの翔舞煌爆破が決まって、そこから生まれた衝撃波が彼らを襲った。
詠唱を終えたローエンのソリッドコントラクションが発動し、煌く鎖が敵を取り囲む。
そして少し遅れて詠唱を終えたエリーゼのブラッターズ・ディムが固まった敵を一網打尽にした。

 「アルヴィン、いくよ」
 「りょーかいっ」

魔神拳とアルヴィンの魔神剣を合わせ、魔神連牙斬を打ち込む。
間合いが広がったところを更に叩き込むように、アルヴィンの放ったワイドショットへ掌底破をのせる。
タイミングは完璧で、敵集団は出入り口の外まで吹き飛んだ。

そこへ直線通路という地形を利用してミラのディバインストリーク、ローエンのフリーズランサー、
エリーゼのリベールイグニッションが真っ直ぐと放たれて、通路が眩しい光で溢れ返った。

 「ふう、こんなものか」

おびただしいほどの光が収まったところでミラが一息つくと、出入り口の外から多数の足音が聞こえてきた。
まさかまだ戦闘が続くのかと揃って僅かに身構えたものの姿を現したのはラ・シュガル兵だった。
最初は地面に伏しているアルクノアの人員へと意識が向いていた彼らも、こちらに気づいたようだ。

 「お前たちここで何を・・・・・・ん?これは、イルベルト殿」

ラ・シュガル兵が手に持つ槍を構えるが、ローエンの存在に気づくなりその切っ先を天上へ向け、
かつん、と音をたてて柄を地面に突いて小さく礼をした。
これは丁度いいタイミングだと思ったのは皆同じだったことだろう。

 「ここの施設がアルクノアの拠点となっていたので、軍の方で引き続き対応をお願いできますか」
 「はっ、了解いたしました」

ローエンの言葉に敬礼で応じ、ラ・シュガル兵は早速と通路へと足を踏み込み後続の兵士もそれに続いた。
数名は前方に横たわっているアルクノアを捕らえる対応にまわっている。
ひとまずこの場は軍に任せて、自分たちはイル・ファンに戻ろうと揃って歩き始めた。



地下通路を抜け、オルダ宮を経由してイル・ファンに戻る頃には既に時刻が午後となっていた。
早い時間に出たお陰で、数時間かかったとはいえど、まだ夕暮れ時には至っていない。
しかし疲労の度合いを言えば、もうベッドへ倒れたら眠ってしまいそうな程で、
ひとまずはホテルへと向かった。

道中の会話といえば、疲れた、心配した、戻ったら説教だ、といった内容が占めていたが、
なかなかの疲労具合に普段と比べればかなり口数に乏しい状況ではあった。

 「それで、どういう理由で単独行動を取ったんだ」

ホテルについて、一旦全員でミラとレイアの部屋に集まった。
全員が部屋の中に入り、扉が閉まると同時に発せられたのはミラの声だ。
最後に部屋へと入ったアルヴィンは扉の前に立ち尽くしている。
ミラは彼の正面で腕を組んで立っており、自分は部屋の奥にあるテーブルへと向かった。

 「あー・・・・・・えーとだな・・・・・・」
 「アルヴィン、ちゃんと話しなよ?」

笑いながらそう釘を刺すと、小さく唸る声が聞こえてくる。
仁王立ちをしてアルヴィンを見下ろすミラの右手側にはティポを抱えたエリーゼが立っていた。
後姿なので分からないが、きっとじとりとアルヴィンを見遣っていることだろう。
レイアは自分のベッドの縁に腰掛けて彼らの方を眺めており、自分の前の席にはローエンが腰掛けた。

釘を刺したことが功を奏したのかは定かでないにせよ、
2人の時と同じように事の経緯について順を追ってアルヴィンは説明した。
ところどころ、たどたどしく、口篭りながらも説明する声をぼんやりと聞く。
あぁ彼なりに一生懸命説明しているんだな、なんて思うのは少し上目線すぎるのだろうか。

 「アルヴィン君は、ほんとバカだねー」
 「そうです、本当に馬鹿です」

今はアルヴィンが彼らに同行した理由と逃げそこなったくだりを話し終えたところだ。
いい大人が、ティポとエリーゼに馬鹿と連発される様は何ともいえない光景ではあるが、
しかし彼にとってはこれぐらいの方がきっと丁度いいのだろう。

 「確かに今回は悪い方に転んでしまいましたが、過去と向き合う努力は大切なことです」
 「そうだな。だが、今後はこういうことのないようにな」

ローエンの援護もあってか、どうにか穏便にことを終えたようでほっとする。
ただそれはきっと、アルヴィンが彼なりに考えて過去の自分と向き合って、
けじめをつけようと決めたという部分に、きっと皆が理解を示したからなのだろう。

 「本当だよージュードなんか顔真っ青にして大変だったんだから」
 「ちょ、レイア何言ってるの?!」

いきなり話題が飛び火してきたことにはっとして勢いよく椅子から立ち上がった。
そうしてから気づいたが、この反応は明らかに動揺しすぎだ。
レイアがにやにやといたずらを思いついた子供のような笑みでこちらを見ている。

 「まったくだな、お前がいなくなった時にジュードは部屋まで戻ってこないで1人で落ち込んでいた」
 「戦闘中もジュードだけリンクがなくて、沢山怪我してたんですよ」
 「って、ミラとエリーゼまで・・・・・・っ」

慌てて扉の前に立っているアルヴィンを見ると、ぽかんとした顔でこちらを見ている。
これ以上はもう勘弁してほしい、そう願ったが無理な話だった。

 「ジュードさんは、終始顔色も優れなかったですし、定期船でもぼんやりされていましたからね」
 「あぁもう・・・・・・」

人のいい笑顔で語るローエンに、定期船でぼんやりと海を眺めている姿を見られていたとは気づかなかった。
そんな暴露をここにきてされるとは思いもよらず、とんだ流れ弾だと溜め息を零した。


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15話で終わる、はずだったのですが次で終わります。