僵niphofia - phase 2 -


どうにか迂回したりしながら進むことで魔物の群れを回避して進み続ける。
もう何回あのもやに突入したのか、既に回数も分からなくなってきた。

一向に誰とも遭遇できないままで足を踏み入れた場所はサマンガン樹海で、ざくり、ざくりと乾いた葉を踏む音の中を進む。
ふと周りを見回してみると、ここには魔物の姿がないようだった。

 「・・・・・・ん?」

近くの大木の幹をよくよくと観察してみると、そこには小さなくぼみがあった。
その小さなくぼみの周りには魔物のものらしき血痕も残っている。
改めて足元を見てみると、既に誰かが踏み荒らしたかのように、乾いた葉が粉砕している様子が目に留まった。

 「これは・・・・・・アルヴィンが通ったのかな」

小さなくぼみは恐らく、アルヴィンの銃撃の痕跡だ。
例えばここをエリーゼが通ったとして、ここまで地面の葉が粉砕することはないだろう。
それなりの重量と、そして魔物との交戦で動き回った様子がそこからは窺い知れた。

その後このサマンガン樹海の一角を見て回ってみたが、やはり魔物の姿はひとつもない。
先ほど見つけた銃撃のものらしい痕跡以外に人が通った様子は見られず、恐らくアルヴィンも単独行動だ。
術が使える人間が一緒にいれば、恐らく術で焦げた跡だったり、何か残っていてもおかしくはない。

 「この上かな?」

見上げた断崖には蔦が下りている。
登ってみればそこには例のもやがあり、もしかしたらこの先にアルヴィンがいるかもしれないと、
ジュードは深呼吸をひとつおいてからそのもやへと足を踏み入れた。

再び空気が変わって、ジュードはゆっくりと瞑った目を開いた。
今度はガリー間道だ。
そこにアルヴィンの姿はなかったが、今度は地面に何かが打ち付けられたような跡があった。

 「・・・・・・今度はローエンかな」

綺麗な三角形を形成するその小さな穴は、恐らくローエンの放ったナイフが突き刺さった跡だ。
流石にすべての魔物が居なくなっているわけではなかったが、次のもやまでの間にその姿はない。
ここを通過したであろうローエンは、必要最小限の範囲で魔物を処理して、先に進んだのだろう。

 「けど、ローエン以外は誰も通ってないみたいだし・・・・・・もう、どうなってるのここ」

足跡はある、しかしそれは1人分だけだった。
先ほどのサマンガン樹海からもやに入ったアルヴィンは、きっと別の場所に出たのだろう。
ローエンも、別の場所からこのガリー間道へ来ているように思える。
そしてローエンもまた単独行動だ。



また何度か場所を移り変わり、しかしその後は誰かが通ったといった様子も見当たらず、
ミラは四大精霊もいるため恐らく大丈夫だろうとして、レイアとエリーゼの2人は心配だ。

魔物を避けてもやにはいることを繰り返し、たどり着いた場所はヘリオボーグ基地の屋上、
元の世界ではヴォルトと戦った場所だった。

 「ジュード!」
 「会いたかったよおおおお」

途端、視界が暗転した。
直前聞こえた声でその原因を把握しており、ジュードは顔にひっついているそれを両手で引っ張る。
相変わらずの伸縮力は、間違いなくティポだった。

 「エリーゼもティポも無事だったみたいでよかったよ」
 「本当にびっくりしました・・・・・・イル・ファンからもやに入ったらガンダラ要塞に出たんですけど、誰もいなくて」

ジュードも無事でよかったです、とエリーゼが安堵した声で発したところで、顔からティポがはがれた。
改めてエリーゼとティポの様子を見れば、特に目立った外傷もないようで、ジュードも安堵の息をつく。

 「途中で、アルヴィンとローエンが通った形跡のある場所があったけど、ここまで会えなかったんだよね」
 「あっ、私も・・・・・・ミラとレイアがきっと通ったと思う場所がありました・・・・・・2人とも無事だといいんですけど」
 「もーばらばらなんてやめてほしいよねー」

しかしここでようやくエリーゼと合流できたといっても、目の前にあるもやへ進入した際に
再びばらばらになってしまう可能性もなくはない。
かといって、ここで他のメンバーを待っていたとしても、ここに来ない可能性がある。
そして来たとしても結局あのもやに足を踏み入れなければならないのであれば、分散の可能性に変わりはない。

 「困ったね・・・・・・進まないことには、とも思うんだけど」
 「はい・・・・・・」

ここからどうしたものかと考えている折、ふっと何かの気配が現れた。
一瞬誰か来たのだろうかと思ったが、そこに人の影はない。
改めて周囲を窺うと、魔物の気配がそれとなく漂ってくることに気づいた。

 「何かいる」

きょろきょろ、と辺りを見回していると地面に陰が現れた。
それに気づいて顔を上げると、横の建物から飛び降りてくる魔物の姿があった。
まだ辺りを見ていて気づいていないエリーゼの腕を引き、抱きかかえて後方へと飛びさがる。

 「とりあえず、あれを倒さないとだめそうかな・・・・・・」

抱えたエリーゼを降ろしながら、前方に着地した魔物の姿を捉えていると、
ジュードはもうひとつの気配が迫っていることに気がつけなかった。

 「ジュ、ジュードうしろから・・・・・・きゃっ!」

エリーゼの声にはっとして振り返ると、どこからともなく現れた鳥の形をした魔物が急降下してきていた。
凄まじい風圧が発生し、エリーゼはその場に座り込んでしまっている。
ジュードは両腕で顔を覆うようにしながら魔物の様子を窺うも、反応が遅れたせいで身動きが取れなかった。

まずい、と思った時には既に遅い。
押し寄せた風圧に耐え切れずにジュードの体が吹き飛ばされ、宙に投げ出された体がフェンスを乗り越えて外へと飛び出す。
急速に降下していく中、エリーゼが呼ぶ声が風圧に掻き消された。


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ショップ的な歪み系はノータッチです。