僵niphofia - phase 7 -


座り込んでいたアルヴィンが立ち上がり、その目の前に屈みこんでいたエリーゼもすくりと立った。
ちらりと見上げたアルヴィンの表情は冴えないが、憔悴しきった様子ではない。
心境のほどは分からないが、それでも今は先に進むことに意識を向けている様子だった。

ひとまずは進めそうだと判断してジュードが周囲を眺めてみるも、次の場所へ繋がるもやが見当たらなかった。
恐らくは山頂方面に進まないといけないのだろう。
そんなことを考えていた折、大きな爆破音らしきものが山頂方面から聞こえてきた。

 「今の音、山頂からかな」
 「・・・・・・急ぐぞ」

また嫌な予感がする。
今ここでプレザが現れたのなら、もう1人が現れても何らおかしくはないうえに今の爆発音だ。
彼女と、誰かが交戦していても不思議ではないともなれば、先を急がねばならない。

岩肌の露出した道ならざる道を駆け上って山頂に到着するまでの間にも激しい爆音が鳴り響いていた。
ようやく視界に捉えた姿は3つ、後姿はミラとレイア、その前方にアグリアの姿がある。
しかしアグリアの姿は先ほどのプレザと同様に、すうっと宙に消えていった。

 「む?・・・・・・あぁ、お前たちか」

こちらの気配に気づいたミラの髪が揺れ、こちらへと振り返った。
そのまますぐ側まで駆け寄るが、レイアは振り返らない。
ここまでのアルヴィンのことを見ていれば、何となく彼女にふりかかったできごとは予想がついた。

 「レイア」
 「・・・・・・本物なわけないって分かってたんだけど、さ」

ジュードが声をかけると、ぽつりぽつりとこちらへ背を向けて俯いたままレイアが呟く。
ふよふよと宙に浮いているティポが俯くレイアの右頬へと擦り寄った。
すぐ横にいたエリーゼがその後を追うようにしてレイアの元へと駆け寄り、抱きつく。

 「あはは、大丈夫だよエリーゼ・・・・・・ありがとね」

ミラの手がレイアの頭をぽんぽんと、撫でている。
何か言葉をかけたいとジュードも思うものの、自分の中でも色々な感情がぐるぐるとしていて何もいえなかった。
恐らくそれは隣に立ったまま、小さく息をついたアルヴィンも同じなのだろう。

右隣を見上げると、アルヴィンの視線ジュードが居る方とは反対の右の方、
今駆け上がってきた場所の縁を凝視している。
プレザがここから落下した時のことを思い出してしまっているのだろう。

 「わたしもう平気だから・・・・・・ごめんね、心配かけて」
 「・・・・・・そうか、行けそうか?」

視線を戻してレイアの方を見遣れば、ミラの問いかけに頷いて応えるレイアがいた。
全然大丈夫じゃないだろうに、そんなレイアを見ているだけで、ジュードは胸が痛む。

 「ジュード、左肩を怪我したのか」
 「えっ」

ミラの問いかけに応じようとしたタイミング、はっとした様子でレイアがこちらへと振り返った。
エリーゼが抱きついていた手を離したところで、レイアがジュードのもとへと歩み寄る。
左肩を見て顔を顰める彼女に、今はもう大丈夫だと伝えたが相変わらず心配そうな顔でこちらを見ていた。

 「エリーゼに傷口は塞いで貰ってるし、もうそんなに痛まないから大丈夫だよ」
 「でもこれ、かなり出血したみたいだし・・・・・・」

言われて改めて服を見ると、左肩のあたりから袖と、左胸あたりまでがすっかり黒ずんでしまっている。
これは染み抜きが大変そうだ、なんて少しずれたことを考え始めている自分に気づいて、ジュードは苦笑した。

 「ふむ・・・・・・ローエンと合流したら、どうにかここから出る方法を探す必要がありそうだな」
 「そうだね、さすがにちょっとあの黄金魔剣士と戦うには、色々と厳しいかもしれないし」

ジュード自身快調ではないように体力的な問題と、何より精神的な問題が深刻と言っていい。
アルヴィンにしろ、レイアにしろ、そしてジュードもまた、精神的に不安定になっている。
このままでは徘徊する魔物との戦闘すら危ういだろう。

 「あのもやは、行き先がランダムな場合と固定の場合があるみたいだから、次も固定だといいんだけど・・・・・・」
 「何処に出るか分からないのは今更だからな、ひとまず進むことにしよう」

最後の1人となったローエンと合流し次第、帰る方法を模索したいところではあるものの、
今のところそれらしい場所を見かけた覚えもなく、下手をすれば黄金魔剣士のもとに辿りついてしまうかもしれない。
不安は多いものの、丁度元の世界では次元の狭間が生まれていた場所に生じているもやへと
先導するミラ、続いてレイアとエリーゼが入っていった。

 「アルヴィン」
 「ん?あぁ・・・・・・悪い、ぼうっとしてた」

動く気配のない隣を見上げて名前を呼ぶと、困ったような笑みを浮かべてアルヴィンが応じる。
もやの方へと踏み出すアルヴィンの背中をぼんやり見遣りつつも、
数歩分離れてしまった彼の後を追うようにしてジュードも歩きはじめた。


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肝心なところで何か言わないとって思うのに言えないもどかしさ。