●歯周病と関節リウマチ※1-4etc.
関節リウマチと歯周病には共通点が多くあります。ともにインターロイキン(IL-1
β、IL-6)や腫瘍壊死因子(TNF-
α)といった物質が関与して慢性的な炎症が続き、骨が破壊されていきます。
2つの病気は互いに関与しあっています。関節リウマチによる手指関節の障害による不十分な歯みがき、ステロイド薬や免疫抑制剤の使用、シェーグレン症候群の合併によるドライマウス(口腔乾燥症)は歯周病を進行させます。
また、歩行困難による行動制限は歯科受診(定期検診)の低下につながり、歯を失うことにもつながります。
歯周病と関節リウマチの関係
2つの病気の関連については100年以上前から研究報告がされており、シカゴ大学(アメリカ)教授のフランク・ビリングは1917年に発行した著書の中で、
関節リウマチ発症の原因は歯周病菌による感染と報告しています。
これまでに多くの研究報告がされ、
関節リウマチの患者さんは重症の歯周病の人が多い、
歯周病が関節リウマチの発症や進行に影響を及ぼしているとされています。
歯周病と関節リウマチに関する主な研究報告
発表年 |
研究者 |
対象者 |
結果 |
2006 |
サン テティエンヌ大学
(フランス) |
147人 |
手首の関節骨破壊と歯槽骨破壊との間で強い関連がみられた。ドライマウスの患者さんは骨破壊のリスクがさらに高かった。 |
2007 |
新潟大学
(日本) |
300人 |
関節リウマチの患者さんの86%が歯周病が進行しているなど、関節リウマチと歯周病との間に強い関連があった。 |
2008 |
ベルリン医科大学
(ドイツ) |
109人 |
関節リウマチの患者さんは歯周ポケットが深い、出血しやすいなど、歯周病が進行していた。 |
2011 |
ミネソタ大学
(アメリカ) |
9702人 |
歯周病(歯周炎)は、関節リウマチの発症リスクを1.85倍に高める。 |
2012 |
バーミンガム大学
(イギリス) |
1009人 |
関節リウマチの患者さんは、歯が少ない人ほど炎症が強く、朝のこわばりが強かった。 |
2012 |
ジェノバ大学
(イタリア) |
366人 |
歯の本数が少ないほど、関節腫脹の発症リスクが高かった。歯周病による慢性的な炎症は、関節腫脹につながる。 |
2013 |
ネブラスカ大学
(アメリカ) |
617人 |
歯周病は関節リウマチの発症リスクを1.59倍に高める。 |
2015 |
京都大学
(日本) |
9553人 |
関節リウマチに特異度の高い抗体の産生に、歯周病が関係していた。 |
72人 |
歯周病をもつ関節痛患者は、歯周病のない患者に比べて、その後に関節リウマチと診断されるリスクが2.7倍高い。 |
関連するページ 関節リウマチと歯科 関節リウマチと歯科治療 Q&A ステロイド療法
ジェノバ大学(イタリア)の研究グループが、関節リウマチの患者さんの関節が腫れるリスクについて調査したところ(オッズ比)、歯を全く失っていない人(32本)を1とすると、28~31本の人は3.6倍、21~27本の人は4.1倍、20本以下の人は8.1倍となり、
歯の本数が少ない人ほど関節が腫れるリスが高いという結果となりました。
また、歯が20本以下の人は歯が全てある人(32本)に比べて、5.3倍(オッズ比)も「朝のこわばり」がおきるリスクが高いという結果となりました。
歯周病が進行して歯肉に炎症がおこったり、歯を失う本数が多いほど、関節リウマチの症状も悪化するといえます。
関節腫脹のリスク(オッズ比)
関節リウマチになると、歯科医院への受診が低下する傾向にあります
関連するページ 歯周病と全身とのかかわりについて 歯周病と骨粗鬆症
●関節リウマチに対する歯周病治療の効果※5-7etc.
2000年代になって、
歯周病の治療をおこなうと関節リウマチの症状が改善するという研究報告がされてきています。
歯周病の外科手術といった大がかりな治療ではなく、歯科医師や歯科衛生士による歯のクリーニングや歯みがき指導といった、負担の少ない歯科治療で関節リウマチの高い効果をあげています。
関節リウマチに対する歯周病治療の効果に関する主な研究報告
発表年 |
研究者 |
結果 |
2009 |
ケース・ウェスタン・リザーブ大学
(アメリカ) |
中等度から重度の関節リウマチの患者さんを2つのグループに分けて調査した。
歯のクリーニング、歯みがき指導をおこなったグループは、リウマチ活動性(DAS28)が低下した。何もしなかったグループのリウマチ活動性は変わらなかった。 |
2009 |
サンパウロ・カトリック
大学(ブラジル) |
外科手術を伴わない歯周病治療によって、関節リウマチの患者さんのリウマチ活動性(DAS28)は低下した。 |
2013 |
新潟大学
(日本) |
歯周病治療によって歯周病菌を減少させることで、血液中のシトルリン(関節リウマチの病因に関係しているタンパク質)の濃度が低下。その結果、関節リウマチの患者さんのリウマチ活動性(DAS28)は低下した。 |
2013 |
エーゲ大学
(トルコ) |
歯周病治療により、関節リウマチの患者さんのリウマチ活動性(DAS28)は大幅に低下した。歯周ポケット内のインターロイキン(IL-1β)も大幅に減少した。 |
DAS(ダス)とは
高血圧では血圧、糖尿病では血糖値が症状の目安となるように、関節リウマチではDAS(Disease Activity Score)が使われます。DASは症状の強さを数値として表し、44関節を調べるDAS44と28関節を調べるDAS28の2種類があり、一般的にはDAS28がよく使われます。
関連するページ 歯のクリーニング(PMTC) 歯のクリーニング(PMTC)の効果
●関節リウマチの患者さんにとって大切なこと
関節リウマチの患者さんは歯周病が進行しやすく、重症化しやすい傾向にあります。
歯周病予防のためには、毎日しっかり歯をみがくことが大切ですが、関節リウマチの症状により歯をしっかりみがけないときは、電動歯ブラシを使用したり、洗口液を使用するのも方法です。また、歯科医院で定期的(年2~4回)に歯のクリーニング(PMTC)などをおこない、歯周病の予防処置や治療を受けることも大切です。
歯周病の予防処置や治療をおこなうことで、関節リウマチの症状が改善することもあります。
歯のクリーニング
関連するページ 電動歯ブラシの選び方、使い方 電動歯ブラシ Q&A 洗口液
※当クリニックは、日本歯周病学会に所属する歯科医師が在籍しています。
※1 Marotte H、Farge P、Gaudin P、Alexandre C、Mougin B、Miossec P. The association
between periodontal disease and joint destruction in rheumatoid arthritis
extends the link between the HLA-DR shared epitope and severity of bone
destruction. Ann Rheum Dis. 65(7):905-9 2006 ※2 Kobayashi T、Ito S、Kuroda
T、Yamamoto K、Sugita N、Narita I、Sumida T、Gejyo F、Yoshie H The interleukin-1
and Fcγ receptor gene polymorphisms in Japanese patients with rheumatoid
arthritis and periodontitis. J.Periodontol. 78(12):2311-2318 2007. ※3 Pischon
N、Pischon T、Kröger J、Gülmez E、Kleber BM、Bernimoulin JP、Landau H、Brinkmann
PG Association among rheumatoid arthritis, oral hygiene, and periodontitis. J
Periodontol. 79(6):979-86 2008 ※4 Demmer RT、Molitor JA、Jacobs DR Jr、Michalowicz
BS Periodontal disease, tooth loss and incident rheumatoid arthritis: results
from the First National Health and Nutrition Examination Survey and its
epidemiological follow-up study. J Clin Periodontol. 38(11)998-1006 2011 ※5 Pinho
Mde、Oliveira RD、Novaes AB Jr、Voltarelli JC. Relationship between periodontitis
and rheumatoid arthritis and the effect of non-surgical periodontal treatment.
Braz Dent J.20(5):355-64. 2009 ※6 Okada M、Kobayashi T、 Ito S、Yokoyama
T、Abe A、Murasawa A、Yoshie H Periodontal treatment decreases levels of antibodies
to Porphyromonas gingivalis and citrulline in patients with rheumatoid
arthritis and periodontitis. J Periodontol. 84(12):74-84 2013 ※7 Bıyıkoglu
B、Buduneli N、Aksu K、Nalbantsoy A、Lappin DF、Evrenosoglu E、Kinane DF. Periodontal
therapy in chronic periodontitis lowers gingival crevicular fluid interleukin-1beta
and DAS28 in rheumatoid arthritis patients. matol Int. 33(10):2607-16.
2013
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