●虫歯菌(ミュータンス菌)が感染する時期
代表的な虫歯の原因菌であるミュータンス菌は、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中にはいません。虫歯菌は歯のような硬いところにしか住めないので、歯が生えていなければ生きていけないのです。
ところが、歯が生え始める生後6ヶ月頃から感染が始まります。特に
生後19ヵ月(1歳7ヶ月)から31ヵ月(2歳7ヶ月)までの時期に最も感染し、定着します。この時期は「感染の窓」と呼ばれ、注意が必要とされています。
感染の窓
乳歯の奥歯が生え始めると虫歯菌の感染率が高まります。奥歯が生え始めると感染率が高まるのは、(1)歯の本数の増加により虫歯菌の住み家が増えたこと、(2)砂糖の摂取する機会が増えること、(3)他の菌がまだ少ないことが原因と考えられています。
乳歯の本数と虫歯菌(ミュータンス菌)の累積感染率
虫歯菌の感染の時期が早いほど、その後に虫歯ができやすい傾向にあります。2歳前に感染した子供のほうが、2歳以降に感染した子供よりも虫歯が多い傾向にあります。
スウェーデン・イエテボリ大学(世界で最も有名な歯科大学の一つ)での研究では、2歳までに虫歯菌の感染がなかった子供が4歳になったときの虫歯の本数はわずか0.3本でした。一方で、2歳までに虫歯菌の感染があった子供が4歳になったときには、虫歯の本数は5本もありました。虫歯の本数に16倍もの差ができました。
2歳での虫歯菌(ミュータンス菌)の感染の有無によるその後の虫歯の本数
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●虫歯菌(ミュータンス菌)の感染源
虫歯菌(ミュータンス菌)は親子のスキンシップなどによって、知らず知らずのうちに母親などの唾液に触れることで子供に感染します。
母親からの感染が多いため「母子感染」といいます。
母親の口内の虫歯菌が多いほど子供は虫歯菌に感染しやすい傾向があります。
アメリカ・ロチェスター大学(ノーベル賞受賞者・小柴昌俊博士の出身大学)での研究では、口の中の虫歯菌が少ない母親(10
3CFU/ml以下)の母子感染率が6%だったのに対し、口の中の虫歯菌が多い母親(10
5CFU/ml以上)の母子感染率は58%となりました。感染率は9.6倍もの差となりました。
虫歯菌(ミュータンス菌)の母親から子供への感染
※CFU/ml(シーエフユー・パー・ミリリットル)
1mlあたりの細菌数。1mlから1000個の細菌集落(CFU、Colony Forming Unit、集落形成単位)がみられたときは「103CFU/ml」と表示します。
主に母親から感染しますが、近年のDNA解析技術の進歩によって感染経路がより明らかになってきました。母親以外にも父親、保育所内での感染も報告されており、子供の育つ環境によって左右されることも明らかにされています。
●虫歯菌(ミュータンス菌)の感染予防
乳歯が生えてくる時期で特に感染の危険が高まるのが、生後19ヵ月(1歳7ヶ月)から31ヵ月(2歳7ヶ月)までの「感染の窓」と呼ばれる時期です。この時期は最も注意が必要とされています。この時期に家庭や歯科医院でしっかり感染予防ができれば、その後は虫歯になりにくい傾向があります。
スウェーデン・イエテボリ大学での研究では、口の中に虫歯菌が大量にある母親(10
5CFU/ml以上)でも、歯科医院での虫歯治療、歯のクリーニング、フッ素塗布などの適切な処置をおこなうと、子供の虫歯菌の感染率が大幅に下がり、虫歯の有病者率も大幅に下がりました。予防処置も重要となります。
母親の予防処置の有無による子供の虫歯菌感染率、虫歯の保有率
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●主な感染予防方法
子供への虫歯菌(ミュータンス菌)の感染を防ぐには以下の方法があります。多くの研究報告で示されている予防方法をまとめたものです。
1)子供が生まれる前
母親はもちろんのこと、父親や同居する家族の虫歯や歯周病の治療、歯のクリーニンなどの予防処置をおこない口の中の細菌を減らします。
2)生後1歳前の離乳期
虫歯菌は唾液を介して感染するため、食べ物の口移しやかみ与えをしないようにします。哺乳瓶は虫歯菌が好きな砂糖の入った飲み物(ジュース、スポーツドリンク、乳酸菌飲料など)を入れて飲ませないようにします。
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3)1〜3歳
食事や間食に砂糖の多く含んだ食品は摂取しない生活を送ります。また毎日の歯みがき、歯科医院でのフッ素塗布などの予防処置をおこなうようにします。
それでも心配でしたら…
4)キシリトールガム
フィンランドでは出産3ヶ月後から2年まで、母親が1日2〜3回キシリトールガムをかむことにより、2歳児時点での母子感染率の低下に効果をあげています。日本でも岡山大学の研究者が同様の研究報告をおこなっています。キシリトールガムをかむ習慣をつけるのも一つの方法です。
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5)3DS
3DS(スリーディーエス)は、虫歯菌の母子感染を予防する治療です。
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食器の共有について
これまで虫歯菌(ミュータンス菌)の親から子への感染を防ぐために箸、スプーン、コップなどの食器の共有は避けることとされてきました。しかしながら食器の共有に気を付けていても子供の虫歯に差がないことがら、現在では食器の共有は問題ないとされています。
最近の研究では、生後4ヶ月には母親の口の中の細菌が子供に感染していることが確認されています。食器の共有は離乳食が始まる生後5〜6ヶ月頃から始まりますが、それ以前から日々の親子のスキンシップなどで親の唾液に触れることで親の口の中の細菌は子供にうつっているのです。
そのため、
食器の共有を避けるなどの方法で親から子供への虫歯菌の感染を防ぐことを気にしすぎる必要はありません。
※ご注意していただきたいこと
虫歯菌の母子感染は子供の虫歯のなりやすさを決める一つの要素ではありますが、虫歯のなりやすさは糖質(砂糖など)の摂取頻度、歯みがき、フッ素の利用、歯科医院での予防処置の頻度によっても左右されます。
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