●抗血栓薬(血液サラサラの薬)とは
抗血栓薬(こうけっせんやく)は、血液が固まりにくくする薬です。血液が固まり(血栓)、血管がつまると、その先の組織は栄養や酸素が届かず死んでしまいます。これが、心臓や脳でおきると、死につながります。
抗血栓薬は、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞の治療や予防などで使用されます。抗血栓薬を服用している人は700万人
※1と推定されており、バイアスピリン、ワーファリンなど様々な薬が使用されています。
抗血栓薬の種類
治療 |
対象となる病気 |
主な抗血栓薬 |
動脈血栓の予防
(抗血小板療法) |
狭心症/心筋梗塞/脳梗塞(心原性を除く)/末梢動脈血栓症 |
バイアスピリン/バファリン81/パナルジン/チクロピン/プレタール/プラビックス/ロコルナール/ドルナー |
静脈血栓の予防
(抗凝固療法) |
深部静脈血栓症/心房細動/心原性脳梗塞栓症/肺血栓塞栓症 |
ワーファリン/プラザキサ/イグザレルト/エリキュース/リクシアナ |
血栓の早期溶解
(線溶療法) |
一部の急性心筋梗塞/脳梗塞 |
t-PA剤/ウロキナーゼ |
関連するページ 抗血栓薬(血液サラサラの薬) Q&A 脳卒中と歯科
●抗血栓薬を服用しているときの歯科治療
一般的な虫歯や歯周病の治療では、出血は少なく問題になることはありません。ただし、かかりつけの医師、歯科医師に相談しながら治療をすすめていく必要はあります。
医師や歯科医師と相談しながら治療をすすめます
●
抗血栓薬と抜歯
日本口腔外科学会、日本有病者歯科学会などの学会が合同でまとめた「抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2020年版」によると、ごく一部の例外を除いて、
抗血栓薬を服用したまま抜歯をおこなうべきとしています。
これは、
抗血栓薬を中断して抜歯をおこなうと、血栓・塞栓症を発症したり、死亡することがあるためです。また、抗血栓薬を服用していると抜歯後に血が止まりにくいものの、出血による合併症をおこす危険性は少ないとされています。
1990年代までは抗血栓薬の服用を中止してから抜歯するのが一般的でしたが、1998年にアメリカの歯科医師が「ワーファリンを中断して抜歯した人の0.9%が重篤な血栓・塞栓症を発症し、そのうちの80%が死亡した」という研究発表をしてから方針が変わりました。
現在では、日本だけでなく世界でも、
抗血栓薬を服用したまま抜歯するのが一般的となりました。
インプラント手術や歯周病の手術も同様の対応が求められます。
抗血栓薬を中断したときの影響(主な研究報告)
※2−6
研究者 |
対象者 |
結果 |
クリスティアナ ケア
ヘルス システム
(アメリカ) |
493人 |
542症例の抜歯(ワーファリンを中断)により、重篤な血栓・塞栓症を発症したのは5人(0.9%)、そのうちの4人が死亡した。 |
ニューメキシコ大学
(アメリカ) |
1024人 |
ワーファリンを30日間中断したところ、7人(0.7%)に血栓・塞栓症を発症した。 |
東京歯科大学 |
128人 |
ワーファリンを中断もしくは減量して抜歯したところ、1人が脳梗塞により死亡した。 |
サルペトリエール病院
(フランス) |
1358人 |
急性冠症候群で入院した患者さんの5%が抗血小板療法を3週間以内に中断しており、死亡あるいは心筋梗塞の発症率が高い。 |
パストゥール病院
(フランス) |
1236人 |
急性冠症候群の患者さんの4%は、1ヶ月以内にアスピリンを中断しており、歯科治療時に中断していた人も多かった。 |
※狭心症、心筋梗塞、これらに合併する心臓突然死までの一連の病態をまとめて「急性冠症候群」といいます。
抗血栓薬を中止しての抜歯は、心筋梗塞の原因になることがあります
関連するページ 心臓外科手術前、手術後の歯科治療 インプラント
●
INR値と抜歯
ワーファリンを服用している患者さんは定期的にINR(International Normalized Ratio)という血液検査を受けています。
この検査は血液の固まりやすさをみる検査で、通常はINR1.0(値が高いほど血液が固まりにくい、出血しやすい)で、抗血栓薬を服用している患者さんはINR2.0〜3.0の範囲で管理していくのがよいとされています。
日本口腔外科学会、日本有病者歯科学会などの学会が合同でまとめた「科学的根拠に基づく抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン 2015年改訂版」によると、
INR1.6〜3.0の範囲であれば,通常の抜歯で重篤な抜歯後の出血はみられず、合併症もみられないとしています。
抜歯をおこなう際は、24時間以内、少なくとも72時間以内のINR値を参考に抜歯をおこなうのがよいとされています。
INR測定装置
●
ワーファリンと食事
ワーファリン(ワルファリン)は、肝臓でビタミンKが関与する血液を固める作用を抑える作用があります。
納豆、クロレラ、モロヘイヤ、青汁などのビタミンKを多く含む食品は摂取には注意が必要となります。
納豆に含まれている納豆菌は少量でもビタミンKをつくる作用があり、血液をサラサラにするワーファリンの効果を弱めてしまうため、摂取は避けるようにします。ただし、納豆と同じく大豆使った豆腐、味噌汁といった食品の摂取は問題はありません。
他にも緑黄野菜や海藻類にもビタミンKが多く含まれていますが、過度な摂取を控えれば問題はありません。
当クリニックでは管理栄養士が在籍し、抗血栓薬を服用している方の栄養相談、食事相談をおこなっています。お気軽にご相談ください。
関連するページ 食育・栄養 心臓病の食事療法
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抗血栓薬と歯科治療で処方される薬
口内、唇にカビが繁殖する病気である「口腔カンジダ症」の治療では、フロリードゲル経口用、オラビ錠口腔用が使用されます。この薬とワーファリン、イグザレルトなどを併用すると作用が強くなり、血が止まりにくくなるため、併用は禁止されています。
また、歯科で処方される
鎮痛薬(ロキソニン、ボルタレン、カロナールほか)は、ワーファリンなどの抗血栓薬の作用を強くして血が止まりにくくなるため、必要最少量の服用にします。
関連するページ 口腔カンジダ症 口腔カンジダ症の治療
※1 抗血栓療法患者の 抜歯に関するガイドライン2020年版(日本有病者歯科医療学会ほか) ※2 Wahl MJ Dental surgery
in anticoagulated patients. Arch Intern Med. 1998 158 1610-6. ※3 Garcia
DA Risk of thromboembolism with short-term interruption of warfarin therapy. Arch
Intern Med. 2008 168 63-9 ※4 Ogiuchi H Clinical reports on dental extraction
from patients undergoing oral anticoagulant therapy. Bull Tokyo Dent Coll.
1985 26 205-12. ※5 Collet JP Impact of prior use or recent withdrawal
of oral antiplatelet agents on acute coronary syndromes. Circulation. 2004
110 2361-7 ※6 Ferrari E Coronary syndromes following aspirin withdrawal:
a special risk for late stent thrombosis. J Am Coll Cardiol. 2005 45(3):456-9.
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