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アトピー性皮膚炎(診療科目)
アトピー性皮膚炎について
【病因】
 遺伝的な過敏アレルギー体質と粗造・乾燥肌.(ただし,過敏アレルギーは現代日本社会の生活環境において過敏であるということで,本質的には,必ずしも悪い体質ではありません.)よって,アレルギーさえ抑えればよいという疾患ではありません.

【アトピー性皮膚炎におけるアレルギー機序について】
 この分野が最近最も研究が進んでいる分野です.アレルギーは一般的に4型に分けられますが,アトピー性皮膚炎に関係するのはこのうち1型と4型です.とりあえずかゆくなる反応は1型に基づくものであり,よって特に1型についての研究が進められています.その結果,1型の中に即時反応以外に遅発相が存在することが解明され,この相が典型的な細胞免疫相である4型への橋渡しをするのではないかと推測されています.またCD4陽性リンパ球には,Th1型およびTh2型があり,アトピー性皮膚炎はTh2型優位のパターンをとる疾患であると目されています.同時に,これらの反応系に関係するリンパ球産生物質も続々と発見され,IL4産生抑制剤については臨床応用されています.また,今後これら反応系に関係する細胞や物質を個別に抑制する薬剤の開発が企図されており,これらの薬剤が市場に出るようになれば,全般的免疫抑制作用を併せ持つ,ステロイド剤を多用することなく加療できる日がやってまいります.

【角層セラミドの不足について】
 アトピー性皮膚炎はアレルギーの側面で語られることが多かったのですが,ここに来て,乾燥肌の成因として,先天的に酵素の異常がある為に,セラミドという角質細胞間脂質が減少してしまっている患者さんが多く認められることがわかってきました.

【増悪因子】
 水道源水の汚染とこれを消毒するための消毒薬の増量や,食品中の化学薬品の増加等に増悪因子を求める方もいらっしゃいますが,多くの患者さんは,生活環境中の微細ダニに対するアレルギーが主体であり,わたくしは,高温多湿型の気候を持つ日本で,鉄骨およびコンクリートを中心とした建造物を建て,密閉度の高いアルミサッシを閉め切りにした状態で冷暖房を行い,ダニにとって最も生育しやすい環境を提供してしまっていることが最大の因子だと考えています.食事アレルゲンについては,食生活の西欧化,離乳の早期化が災いしているものと考えます.スキンコンディションの面では,入浴時に用いる垢擦りやボディブラシの流行や固形石鹸からボディシャンプーへのメーカーサイドの販売戦略の移行が災いしているものと考えます.

【日常的対応】
 詳細は別頁(アトピー性皮膚炎の患者さんへ・順天堂外来篇および私見篇)を参照して頂きますが,大まかに言うならば,スキンケアーおよびアレルゲンの除去にあります.

【健康保険上の医療】
・消炎作用のある外用剤(この一環として,免疫抑制剤の外用剤が開発されました.)および保水作用のある外用剤の使用.
・ヒスタミンを始めとするかゆみ誘発物質の拮抗剤の内服.
・かゆみ誘発物質の細胞よりの排出機構を抑制する薬の内服.
・IL4産生抑制剤の内服.
・消毒薬や抗生剤含有軟膏の外用(主に夏期増悪型の湿潤タイプの患者さんに有効).
・漢方薬内服
・増悪時にはグリチルリチン製剤の注射.
・カビアレルギー獲得者には抗真菌剤の内服.
・紫外線療法(当院ではnarrow band UVB)

【健康保険外の医療】
・低刺激性石鹸等の推薦.
・ダニアレルゲン等の皮内注射による減感作療法.

【いわゆる民間療法について】
 詳しくは別紙「アトピー性皮膚炎のいわゆる民間療法について」を参照してください.基本的には,正直に運営されており,副作用がなく,経済的に許すならば,施行いただいてよろしいかと存じます.また始める前にご相談いただければ幸いです.

【ステロイドについて】
 外用で使用する場合と内用で使用する場合では意味合いが異なってくるものと考えます.ステロイドに否定的な立場をとられる方の多くは,「ステロイドの使用により患者さん自身が産生する天然ステロイドが減少し,そのため産生器官である副腎皮質が萎縮し,その結果,ステロイドをoffとした時の抵抗力が低下し,最終的には余計に悪くなってしまう.結局一時しのぎに過ぎないのなら,元々ステロイドは使用しない方が良い.」という主張をなさっています.また,現在これらの意見を主張なさる年齢に達していらっしゃる患者さんは,歴史的にみて旧世代のステロイド外用剤を用いられてきており,そのために副作用が強く出現なさっているという背景もあります.よって,この世代の患者さんが上記の機序を危惧なさることや,歴史的にステロイド外用剤が乱用された感のある時代が存在したことは事実であり,彼らの意見には一面合理性があるのは確かです.しかし,現状においては作用と副作用が乖離した,つまり効果が高い割には副作用が少ない薬剤に移行してきている.また使用するステロイドの強さを以前に比較してより弱いものを選択する傾向になってきているという理由において,よほど広範囲に長期間用いない限りにおいては,上記のようなシナリオは成立しないものと考えます.加えてステロイドはアレルゲンへの反応性を低下させる作用があり,上手に使用すれば理論的にもたいへん有効な薬剤なのです.
 ここまでに述べてきたように,アトピー性皮膚炎を根治させることは実に困難であります.時間とお金が無尽蔵にあるならば,ステロイドを全く用いることなく,ある程度の状態に保つことは可能かとは存じます.しかし社会人として学生として生活してゆくには支障を伴います.加えてご家族の負担も大きなものになります.よってわたくしは,節度ある使用に関しては致し方ないものと考えます.
 アトピー性皮膚炎は症状に波があり,季節によっても影響されることが多いです.ですから増悪時にただただ堪え忍ぶのではなく,一時的にステロイドを使用することも合理性があるように考えます.
 内用によるステロイドの使用は,原則として行われなくなってきています.こちらは外用よりもリバウンドが著明に出現するからです.ただし顔面皮疹の増悪時には,外用を強いランクへ移行させるよりも有利であると考えます.
 皮膚局所の副作用については,元々,皮膚の薄い顔においては出現し易いです.よって顔への使用に関しては医師と良く話し合って,必要最小限の使用に止める必要があります.例えば白内障や網膜剥離を合併しそうな患者さんには是非とも必要になりますが,弱い紅斑のみであまり痒みを伴わない症例では必須ではありません.

【最後に】
 以上慢性疾患としてのアトピー性皮膚炎はやっかいな存在ではありますが,これへの治療行為はかなり多数あり,これらを全て試みられた患者さんは少ないのではないかと存じます.よってあきらめる前に(もちろんあきらめるという選択も患者さんの正当な裁量権であるが)これらの治療を受けてみられてください.
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