●がん治療とビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤
乳がん、前立腺がん、肺がん、腎臓がんなど、骨に転移しやすいがんの治療では、ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤が使用されます。厚生労働省の推計では、年間6~9万人が骨の転移に苦しんでいるとされています。
骨に転移したがんは、強い痛みが生じるだけでなく、骨をもろくして、骨折を引きおすことがあります。また、脊椎(せきつい)に転移したがんは、神経を圧迫して麻痺がおきることもあります。これらを防ぐために、ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤が使用されます。
乳がんなどの治療に使用されます
当クリニックは、国立がん研究センター連携歯科医院、横浜市周術期連携歯科医院に認定されています。
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●ビスホスホネート系薬剤の作用
肺がんや腎臓がんなどからの転移は、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きが活発になり、骨が溶け出してスカスカになります。前立腺がんは、骨をつくる細胞(骨芽細胞)の働きが活発になり、骨が異常につくられ、折れやすくなります。乳がんは両者がみられます。
ビスホスホネート系薬剤は、骨を壊す細胞の働きを抑えて、骨が溶け出すのを止めます。また、骨をつくる細胞の働きも正常に戻していくとされています。がん治療では主に注射液として使用され、投与された50%以上が骨に取り込まれます。
日本での顎骨壊死の発症率は0.1~0.2%となっており、ゾメタは他のビスホスホネート系薬剤よりも顎骨壊死を発症するリスクが高い傾向にあります。
主なビスホスホネート系薬剤
ゾメタ/リクラスト/パミドロン酸二Na/フォサマック/ボナロン/ボンビバ/ボノテオ/リカルボン/アクトネル/ベネット/ダイドロネル
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●デノスマブ(ヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤)
ビスホスホネート系薬剤と同様に、骨を破壊する細胞(破骨細胞)の働きを抑える作用がある薬です。デノスマブ製剤を投与されたがん患者さんの1.7~1.8%に顎骨壊死が発症するとされ、日本では年に10万人あたり3084人の割合(3%)で発症するとされています。
ランマークはプラリア、ビスホスホネート系薬剤よりも顎骨壊死を発症するリスクが高いため注意が必要となります。
主なデノスマブ製剤
ランマーク/プラリア
●歯科治療時の問題点
ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤を投与されている患者さんは、抜歯、インプラント手術、歯周外科手術(歯周病の手術)など、歯科医院で外科治療をおこなう際に問題となります。
外科治療によって顎骨壊死(がっこつえし、あごの骨が腐り、失ってしまうこと)をおこすことがあるためです。あごの骨だけに発生する理由としては、下記の特殊性が原因と考えられています。
あごの骨の特殊性
歯は上皮を破って骨まで達しているため、口の中の感染があごの骨に達しやすい/口の中には数百種類、1cm²あたり1000億~1兆もの細菌がいる/下あごの骨は骨が緻密でビスホスホネートが蓄積しやすい/虫歯、歯周病などを介してあごの骨に炎症が波及しやすい/抜歯によりあごの骨は直接外部にさらされ、感染しやすい
顎骨壊死の症状
痛み/腫れ/骨が腐ってしまう(骨壊死)/骨が口の中に出てしまう(骨露出)/膿(うみ)が出る/歯がグラグラする/潰瘍ができる/知覚麻痺(ビンセント症状)
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●日本国内における顎骨壊死の状況
日本口腔外科学会の調査では、ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤も含めた薬による顎骨壊死は2017年4950例、2018年5960例、2019年6909例が報告されており、2年で1.4倍に増加しています。報告されていないものも含めると、さらに発症数は多いとされています。
歯科治療をしていなくても口腔衛生不良(口の中が汚れている)、入れ歯の不適合、根尖性歯周炎(歯の根の膿)により発症した症例も多く報告されています。
口内の汚れが顎骨壊死を引きおこします
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●歯科治療を受ける時の注意事項
がん治療を受ける患者さん、受けた患者さんは、歯科治療を受ける際は必ず歯科医師に相談するようにします。
以前はビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤の投与を中止してから外科治療(抜歯、インプラント手術、歯周外科手術)をおこなっていましたが、1)薬の服用中止が顎骨壊死の発症率増加となる十分な科学的根拠がないこと、2)薬の服用中止により骨折のリスクが高まること、3)口の中を清潔にするなどの予防方法があることから、現在は原則として薬の服用を中止せずに外科治療をおこないます。
ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤を投与しているときは、口の中を清潔にすることが顎骨壊死の発生を防ぐ最善の方法とされています。歯みがきが不十分であったり、歯垢や歯石が多いなど、口の中が汚れている人は顎骨壊死を発症しやすい傾向があります。
顎骨壊死を防ぐためには、毎日の歯みがきをしっかりするのはもちろんのこと、歯科医院で虫歯、歯周病の治療や歯のクリーニング(PMTC)などの予防処置を受けるようにします。
がん治療前後は歯のクリーニングをおこないます
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