●薬剤関連顎骨壊死とは
薬剤関連顎骨壊死(やくざいかんれんがっこつえし)は、骨粗鬆症やがん治療時に使用される薬によって、あごの骨が細菌感染して壊死(腐ってしまう)する病気です。
2003年に世界で初めて報告され、日本では骨吸収薬関連顎骨壊死(ARONJ)との名称が長い間使われていましたが、最近では薬剤関連顎骨壊死(MARONJ)との名称が一般的になり、2023年に示された顎骨壊死の指針ではこの名称が用いられています。
関連するページ 骨粗鬆症と歯科治療 Q&A 薬剤関連顎骨壊死 Q&A
●薬剤関連顎骨壊死の発症数
日本口腔外科学会の調査では、薬剤関連顎骨壊死は2017年に4950例、2018年は5960例、2019年は6909例が報告されており、2年で1.4倍に増加しています。報告されていないものも含めると、さらに発症数は多いとされています。
●顎骨壊死をおこすことのある薬
薬剤関連顎骨壊死は、ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤等の投与によって発症することがあります。
1)ビスホスホネート系薬剤
ビスホスホネート系薬剤は、骨を破壊する細胞(破骨細胞)の働きを抑えることで骨密度の低下を防ぎ骨折を防ぎます。フォサマック、ボナロン、ベネットなどの名称で使用されています。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)や関節リウマチの予防、治療、乳がん、肺がん、前立腺がんなどで骨転移した際に骨がもろくなるのを防ぐための治療として使用されます。
日本での顎骨壊死の発症率は0.1~0.2%となっており、ゾメタは他のビスホスホネート系薬剤よりも顎骨壊死を発症するリスクが高い傾向にあります。
主なビスホスホネート系薬剤
ゾメタ/リクラスト/パミドロン酸二Na/フォサマック/ボナロン/ボンビバ/ボノテオ/リカルボン/アクトネル/ベネット/ダイドロネル
ビスホスホネート系薬剤の使用目的
骨粗鬆症/乳がんの骨転移/がんによる高カルシウム血症/がん転移による骨病変/骨形成不全/多発性骨髄腫/骨ベージェット病
関連するページ がん治療薬の副作用 骨粗鬆症と抜歯、インプラント治療
2)デノスマブ(ヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤)
ビスホスホネート系薬剤と同様に、骨を破壊する細胞(破骨細胞)の働きを抑える作用がある薬です。デノスマブ製剤を投与されたがん患者さんの1.7~1.8%に顎骨壊死が発症するとされ、日本では年に10万人あたり3084人の割合(3%)で発症するとされています。
ランマークはプラリア、ビスホスホネート系薬剤よりも顎骨壊死を発症するリスクが高いため注意が必要となります。
主なデノスマブ製剤
ランマーク/プラリア
デノスマブ製剤の使用目的
骨粗鬆症/骨巨細胞腫/関節リウマチ/多発性骨髄腫/がん転移による骨病変
関連するページ 医科歯科連携診療(医療従事者の方へ)
3)そのほかの薬
骨を作り骨粗鬆症の治療に使用されるイベニティ、がん細胞の増殖に必要な物質の働きを抑えるアバスチン、加齢黄斑変性、緑内障など眼の病気に投与されるアイリーア、肺線維症、強皮症の治療薬として投与されるオフェブカプセルなどの薬が顎骨壊死を発症させることがあることが報告されています。
●顎骨壊死の原因
2003年にアメリカ・マイアミ大学の研究者により、ビスホスホネート系薬剤の副作用として、顎骨壊死があることが世界で初めて報告されました。当初は発症の仕組み、適切な対応や治療方法が分からなかったものの、2010年代になって多くの症例が蓄積、解析され、顎骨壊死の発症は予防できるようになってきました。
抜歯、インプラント手術、歯周病の手術のほか、口内の汚れ、歯周病、歯の根の膿(根尖病巣)、合わない入れ歯を原因として、薬剤関連顎骨壊死を発症することがあります。
合わない入れ歯によっても発症することもあるため、入れ歯の調整もおこなっていきます。喫煙、飲酒、肥満は、薬剤関連顎骨壊死の発症リスクを高めるとされています。
薬剤関連顎骨壊死のリスク因子
口内の汚れ/歯周病や歯の根の膿(根尖病巣)などの炎症/抜歯/インプラント手術/インプラント周囲炎/歯周病の手術/歯の根の手術/合わない入れ歯/過大なかむ力
糖尿病、/がん/ステロイド薬の服用/自己免疫疾患(全身性エリトマトーデス、関節リウマチ、シェーグレン症候群ほか)/人工透析/貧血/生活習慣(喫煙、飲酒、肥満)
関連するページ 歯のクリーニング(PMTC) 歯のクリーニング(PMTC)の効果
●顎骨壊死と歯科治療
1)投与前
ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤の投与前に抜歯、歯周病やインプラントの手術、歯の根の治療など、あごの骨の感染に影響する歯科治療を終えることは、顎骨壊死の発症予防に有効です。投与前に可能な限りこれらの治療を終えていることが望ましいといえます。
2)投与中
2023年に日本口腔外科学会など6つの学会がまとめた「薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023」では、ビスホスホネート系薬剤、デノスマブ製剤の投与を中止せずに抜歯することが望ましいとしています。薬の投与を中止せずに抜歯をおこないますが、抜歯前後は口内を清潔にするなど十分な感染予防が必要となります。
インプラント手術においては2010年代までは薬の投与中は避けた方がよいとされていましたが、現在では低用量の投与であればインプラント手術を避ける必要はないとされています。
ただし、糖尿病、シェーグレン症候群などの自己免疫疾患、人工透析などの感染リスクを考慮して手術をおこなう必要があり、高容量の薬の投与の場合はインプラント手術はおこなわないほうがよいとされています。
●薬剤関連顎骨壊死の治療
薬剤関連顎骨壊死は難治性の病気と考えられてきたため、2010年代までは治すことではなく、症状を悪化させないことを目標として治療がおこなわれてきましたが、現在では治すことを目標とすることが多くなりました。
治療では、顎骨壊死を起こした部位の清掃、壊死した骨と周囲の骨の切除がおこなわれます。外科手術のほうが治る割合が高いため、全身の状態に問題がなければ外科手術が優先しておこなわれます。
1)保存的治療
外科手術に比べると治療の効果は低いものの、骨粗鬆症の患者さんで軽症の顎骨壊死であれば保存的治療のみで治ることもあります。がん患者さんにおいては治ることはまれであるものの、痛みなどの症状を緩和させることができます。
治療としては、口内の清掃、抗菌性のうがい薬の使用、抗生物質の服用、壊死した骨と周囲の組織の洗浄、壊死した骨の一部除去などをおこないます。
2)外科的治療
外科手術としては1)壊死した骨のみを除去する(壊死骨除去)、2)壊死した骨と周囲の骨を除去する(壊死骨+周囲骨除去)、3)さらに広い範囲の骨も除去する(区域切除)方法があります。
広い範囲の骨を除去したほうが顎骨壊死が治る割合が高い傾向があり、3)の広範囲に骨を切除方法が推奨されています。1回の外科手術で治ることが多いものの、原因となっている病気が続いている限りは同じ部位、あるいはほかの部位に顎骨壊死が再発することもあります。
切除をおこなったあとは、足や腰の骨を移植する方法のほか、高齢や全身の健康状態が優れない場合は小さな金属板を使用してあごの骨を再建していきます。
※当クリニックへのアクセスについては、下記のページをご覧ください。
交通アクセス・駐車場案内図(横浜市都筑区、港北区など近隣よりご来院の方)
青葉区・宮前区からのご来院(横浜市青葉区、川崎市宮前区からご来院の方)
小田急線沿線からのご来院(東京都町田市、川崎市麻生区、多摩区などからご来院の方)
横浜線沿線からのご来院(横浜市緑区、相模原市などからご来院の方)
南武線沿線からのご来院(川崎市中原区、高津区などからご来院の方)
広域路線図 広域道路地図(神奈川県、東京都からご来院の方)
新幹線・飛行機でのご来院(神奈川県、東京都以外からご来院の方)
関連するページ 全身のご病気、障害、こころの病気をおもちの方の歯科治療