がん治療に伴う口腔合併症 横浜・中川駅前歯科クリニック

口の中には300種類以上、1mgの歯垢(耳かき1杯)には数億個もの細菌が棲みついています。がん治療に伴う免疫力の低下により、細菌は増殖して様々な病気を併発します。

がん治療に伴って引きおこされる口の中の合併症としては、口内炎、虫歯、口腔乾燥、肺炎、味覚障害、感染症などがあります。がん治療前、治療後には、これらの予防処置や治療は欠かせません。

一般的な抗がん剤治療(化学療法)をおこなう人の40%、大量に強い抗がん剤投与をおこなう骨髄移植治療の80%、顔や首周囲のがんの放射線治療の100%に、口の中の合併症が発症します。



●口腔粘膜炎(口内炎)
抗がん剤治療、放射線治療後1〜2週間で口の中の粘膜に炎症がおきます。口内の合併症として最も発症頻度が高く、唇、頬、舌などの軟らかい粘膜にできます。

痛みが強いと食事ができなくなり、点滴を使って栄養を補給することもあります。あまりにも痛みが強いときは、治療を中断、中止する原因にもなります。

<対処方法>
対処方法としては、口の中を清潔に保つ、口の中を乾燥させない、痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬、医療用麻薬)の使用があります。抗がん剤治療治療前に歯科医院で虫歯や歯周病の治療をおこなったり、歯の清掃(クリーニング)をおこないます。

抗がん剤治療による口腔粘膜炎(口唇)1   放射線治療による口腔粘膜炎(舌)

1.抗がん剤治療による口腔粘膜炎(口唇)  2.放射線治療による口腔粘膜炎(舌)


当クリニックは、国立がん研究センター連携歯科医院、横浜市周術期連携歯科医院に認定されています。

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●口唇ヘルペス
口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型を主な原因とする感染症で、唇やその周辺に水ぶくれができる病気です。子どもの頃に感染し、がん治療により抵抗力が落ちるとウイルスが活性化して発症します。

<対処方法>
抗ウイルス薬(アラセナ‐A軟膏ほか)の使用により症状を緩和していきます。

関連するページ  口唇ヘルペス  がん治療における口腔の緩和ケア



虫歯、歯周病
虫歯や歯周病の治療が終えていない状態でがん治療を始めると、がん治療に伴う体力の低下により、歯や歯肉に痛みがでたり、炎症がおきたりします。

<対処方法>
虫歯や歯周病の悪化を防ぐためには、がん治療前に歯科医院で治療を済ませておきます。

抗がん剤治療後、1週間ほどで腫れてきた歯肉 抗がん剤治療後、1週間ほどで腫れてきた歯肉

関連するページ  虫歯  歯周病



●ドライマウス(口腔乾燥症)
抗がん剤治療によって唾液腺の細胞が障害を受けると、唾液が出なくなります。また、顔から首にかけては脳、目、耳、鼻などの重要臓器が集まっているため、放射線治療をおこなうことが多く、この部位の放射線治療では高い確率で唾液は減少します。

唾液が減少してドライマウスにかかると、夜中に口の中が渇いて何度も目を覚ます、食事がしづらい、食べ物の味がしない、口の中がヒリヒリする等の症状がみられます。また、虫歯、歯周病、口臭の原因にもなります。

<対処方法>
口の中が渇かないように保湿剤を使用して保湿を保つほか、唾液の分泌を促す薬(サラジェン、サリグレン、漢方薬)を服用することで症状を緩和していきます。また、虫歯や歯周病の予防のために、歯の清掃(クリーニング)をおこないます。

放射線治療に伴うドライマウスにより発症した虫歯 放射線治療に伴うドライマウスにより発症した虫歯

関連するページ  ドライマウス  放射線障害性ドライマウス



●味覚障害
抗がん剤や放射線により味を感じ取る細胞(味蕾)や神経が障害を受けること、唾液の減少(ドライマウス)による味覚物質の運搬能力の低下、亜鉛の消耗により味覚障害がおきます。塩味や甘味が感じなくなります。

また、多くの抗がん剤は苦みがあり、血液中に入った抗がん剤は唾液の中にも分泌されるため、不快な味をきたすことがあります。抗がん剤の一つであるシスプラチン(ブリプラチン、ランダ)は、プラチナを成分とするため金属味がすることがあります。

抗がん剤治療を受ける人の5〜6割に発症するとされ、口腔粘膜炎よりも早く、抗がん剤服用後1週間以内に症状があらわれ、2〜3週間後に味覚は回復します。放射線治療では、照射後2〜3ヶ月で回復するとされています。高い頻度であらわれ、食欲の低下、栄養不良をもたらします

<対処方法>
味付けなど調理方法の工夫、歯の清掃(口腔ケア、クリーニング)をおこなうことにより、味覚障害を緩和していきます。亜鉛の内服により、症状が早く回復するという報告もあります。

関連するページ  味覚障害



●知覚過敏
抗がん剤治療中は、すべての歯がしみるように感じることがあります。抗がん剤による神経障害の一つで、抗がん剤治療が終了すると、症状は自然と改善されます。

<対処方法>
知覚過敏の治療をおこなっても治らないため、様子をみていきます。極端に熱いものや冷たいものは避けるようにします。

関連するページ  知覚過敏症



●顎骨壊死(がっこつえし)
放射線治療により、あごの骨が腐ってしまうことがあります。骨が弱くなっているところに、口の中の細菌が入り込み、炎症をおこすのが原因と考えられています。

乳がんなどの治療で使用される「ビスホスホネート系薬剤」を使用した場合は、抜歯等の歯科治療によって、あごの骨が腐ってしまうことがあるので注意を要します。

<対処方法>
虫歯や歯周病の治療を終えてから、がん治療を受けます。歯の清掃(クリーニング)をおこなうことにより、口の中を清潔に保ちます。歯科治療前に必ず歯科医師に申告します。

歯の清掃 歯科医院での歯の清掃(クリーニング)

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肺炎※1
がん治療中は口の中が汚れて細菌が繁殖しやすく、また治療に伴い免疫力(抵抗力)が低下するため、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を発症しやすくなります。

30万件の手術報告では、手術後に1%の患者さんに誤嚥性肺炎が発生し、約4分の1が死亡したと報告されています。

<対処方法>
がん治療前に歯の清掃(クリーニング)をおこなうなどして、口の中を清潔に保ちます。

関連するページ  誤嚥性肺炎  誤嚥性肺炎の予防



口腔カンジダ症
口腔カンジダ症は、カビの一種である「カンジダ」によって口の中に引きおこされる感染症です。がん治療に伴う全身状態の悪化、ドライマウスにより、高い頻度で発症します。

口の中がヒリヒリ痛む、食べ物を口にしたときに痛む(接触痛)、食べ物の味を感じにくい(味覚障害)などの症状があります。

<対処方法>
口の中が汚れているとカンジダが繁殖しやすくなるため、歯の清掃(クリーニング)をおこなうなどして、口の中を清潔に保ちます。また、「カンジダは入れ歯が好き」といわれるほど入れ歯に付着、繁殖するため、入れ歯の清掃も欠かせません。自覚症状が強い場合は、薬を使用します。

入れ歯の清掃 入れ歯の清掃

関連するページ  口腔カンジダ症  口腔カンジダ症の原因  口腔カンジダ症の治療



●その他
嚥下障害(食べ物が飲み込みにくい症状)、発音障害、口臭、入れ歯の適合不良等の合併症がおきます。

関連するページ  食道がん  胃がん、大腸がん、甲状腺がん



※1 村田克介、太竹一栄 周術期における誤嚥性肺炎をどう管理するか −ステロイド投与は是か非か− ICUとCCU33(3):215-220 2009


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