がん治療とビスホスホネート系薬剤

乳がん前立腺がん肺がん腎臓がんなど、骨に転移しやすいがんの治療では、ビスホスホネート系薬剤が使用されます。厚生労働省の推計では、年間6~9万人が骨の転移に苦しんでいるとされています。

骨に転移したがんは、強い痛みが生じるだけでなく、骨をもろくして、骨折を引きおすことがあります。また、脊椎(せきつい)に転移したがんは、神経を圧迫して麻痺がおきることもあります。これらを防ぐために、ビスホスホネート系薬剤が使用されます。

ビスホスホネート系薬剤は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療にも使用されます。

乳がん ビスホスホネート系薬剤は乳がんなどの治療に使用されます

当クリニックは、国立がん研究センター連携歯科医院、横浜市周術期連携歯科医院に認定されています。

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ビスホスホネート系薬剤の作用

肺がんや腎臓がんからの転移は、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きが活発になり、骨が溶け出してスカスカになります。前立腺がんは、骨をつくる細胞(骨芽細胞)の働きが活発になり、骨が異常につくられ、折れやすくなります。乳がんは両者がみられます。

ビスホスホネート系薬剤は、骨を壊す細胞の働きを抑えて、骨が溶け出すのを止めます。また、骨をつくる細胞の働きも正常に戻していくとされています。がん治療では主に注射液として使用され、投与された50%以上が骨に取り込まれます。


がん治療で使用するビスホスホネート系薬剤(商品名と製造販売会社)
アレディア(ノバルティスファーマ)/ビスフォナール(アステラス製薬)/オンクラスト、ティロック(万有製薬、帝人ファーマ)/ゾメタ(ノバルティスファーマ)

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歯科治療時の問題点

ビスホスホネート系薬剤を服用している患者さんは、抜歯インプラント手術歯周外科手術(歯周病の手術)など、歯科医院で外科治療をおこなう際に問題となります。

外科治療によって顎骨壊死(がっこつえし、あごの骨が腐り、失ってしまうこと)をおこすことがあるためです。あごの骨だけに発生する理由としては、下記の特殊性が原因と考えられています。


あごの骨の特殊性


歯は上皮を破って骨まで達しているため、口の中の感染があごの骨に達しやすい。

口の中には数百種類、1cm²あたり1000億~1兆もの細菌がいる。

下あごの骨は骨が緻密でビスホスホネートが蓄積しやすい。

虫歯、歯周病などを介してあごの骨に炎症が波及しやすい。

抜歯によりあごの骨は直接外部にさらされ、感染しやすい。


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ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死の発生率と症状※1

2003年にアメリカ・マイアミ大学の研究者により、ビスホスホネート系薬剤の副作用として、顎骨壊死があることが初めて報告されました。当初は発症の仕組み、適切な対応や治療方法が分からなかったものの、10年以上にわたる多くの症例蓄積、解析により、顎骨壊死の発生は予防できるようになってきました。

「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016」(日本口腔外科学会ほか)によると、がん患者の顎骨壊死の発生率は1.5%とされています。

顎骨壊死の症状としては、あごの痛みや腫れのほか、あごの骨が腐ってしまったり、あごの骨が口の中に出てしまったりします。


ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死の症状
痛み/腫れ/骨が腐ってしまう(骨壊死)/骨が口の中に出てしまう(骨露出)/膿(うみ)が出る/歯がグラグラする/潰瘍ができる/知覚麻痺(ビンセント症状)



日本国内におけるビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死の状況※1

日本口腔外科学会の全国調査では、2006年~2008年に263例、2011~2013年に4797例(ゾメタ2261例、アレディア54例、ティロック9例、ビスフォナール6例ほか)が報告されています。

報告例が大幅に増加したのは、ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死が医療関係者の間で知られるようになったこと、薬の使用が増えていることなどが原因と考えられています。

2011~2013年の調査では、発症部位では下あごが65%、上あごが28%、両あごが7%でした。原因となった病気の47%ががん(乳がん50%、前立腺がん34%、肺がん6%、その他10%)でした。

歯科治療をしていなくても口腔衛生不良(口の中が汚れている)、入れ歯の不適合、根尖性歯周炎(歯の根の膿)により発症した症例も多く報告されています。

ブラッシング 口内の汚れが顎骨壊死を引きおこします



歯科治療を受ける時の注意事項

がん治療を受ける患者さん、受けた患者さんは、歯科治療を受ける際は必ず歯科医師に相談するようにします。

以前はビスホスホネート系薬剤の服用を中止してから外科治療(抜歯、インプラント手術、歯周外科手術)をおこなっていましたが、1)顎骨壊死の発生率は低いこと、2)薬の服用中止により骨折のリスクが高まること、3)口の中を清潔にするなどの予防方法があることから、現在は薬の服用を中止せずに外科治療をおこなうことが多い傾向にあります。

骨折のリスクも含めた全身状態に問題がなければ、外科治療(抜歯、インプラント手術、歯周外科手術)の前に2ヶ月程度のビスホスホネート系薬剤の服用を中止することがあります。

ビスホスホネート系薬剤を服用している場合は、口の中を清潔にすることが顎骨壊死の発生を防ぐ最善の方法とされています。歯みがきが不十分であったり、歯垢や歯石が多いなど、口の中が汚れている人は顎骨壊死を発症しやすい傾向があります。

顎骨壊死を防ぐためには、毎日の歯みがきをしっかりするのはもちろんのこと、歯科医院で虫歯、歯周病の治療や歯のクリーニング(PMTC)などの予防処置を受けるようにします。

歯のクリーニング がん治療前後は歯のクリーニングをおこないます

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顎骨壊死の治療※2

2010年頃までは、できる限り骨を残す治療(保存療法)が主におこなわれていましたが、その後に外科手術(顎骨切除など)を早い時期におこなったほうが、治る割合が高いとの報告が多くされました。そのため、現在では骨を残す治療よりも、外科手術が多くおこなわれています。



※1 顎骨壊死検討委員会(日本口腔外科学会、日本歯周病学会、日本歯科放射線学会ほか) 骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2016 ほか


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