●線維筋痛症とは※1
線維筋痛症(せんいきんつうしょう)は、身体の広範囲な部位に原因不明の慢性的な痛み、こわばりが生じる病気です。激しい疲労感や倦怠感、手指のふるえ、耳鳴り、めまい、頭痛、うつ、不眠などの症状を伴うこともあります。
日本では人口の1.7%(都市部では2.2%)、約200万人の患者さんがいるとされます。女性が多く(男女比1:4.8)、平均発症年齢は43歳、平均年齢は51歳となっています。患者数が多いにも関わらず、病気の存在が知られていないため、治療を受けている人は1万人以下とされています。
また、全身性エリトマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、慢性関節リウマチ、ベーチェット病、過敏性腸症候群(IBS)を合併することも多く、初期にはこれらの病気との区別がつかないこともあります。
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●線維筋痛症の原因
原因は不明ですが、痛みの原因は痛覚変調性疼痛(神経障害性疼痛)の一つとされています。最初の痛みが引き金となり、次の痛みを招き、全身に広がり、痛みは次第に強くなります。
幼少期の生活環境(虐待、いじめ、過干渉、母子分離)、精神的ストレス(家庭、職場)、環境の変化、更年期障害、出産、外傷、歯の病気、歯科治療、手術などが発症に関わっているとされています。
関連するページ 神経障害性疼痛 歯科治療後の神経障害性疼痛
●線維筋痛症の治療※1
神経障害性疼痛の治療で使用される薬(リリカ、サインバルタほか)による薬物療法のほか、認知行動療法、運動療法(段階的有酸素運動)が有効な方法としておこなわれています。
抗うつ薬、睡眠薬、麻薬性鎮痛薬(オピオイド)といった薬の服用、ブロック注射、鍼治療がおこなわれることもあります。
関連するページ 痛みの改善のための運動療法
●線維筋痛症と歯科疾患
線維筋痛症の患者さんはドライマウス(口腔乾燥症)、舌痛症、味覚障害、顎関節症(がくかんせつしょう)、嚥下障害(えんげしょうがい、飲み込み障害)、口内炎、SAPHO症候群、シェーグレン症候群など、歯科に関係する病気を発症しやすいとされています。
線維筋痛症の患者さんの70%がドライマウスを発症、67%が顎関節症(あごの痛み)、32%が舌痛症を発症するなど、線維筋痛症でない人に比べて明らかに高い発症率となっています(下図)。
歯科疾患の発症率※2
関連するページ 舌痛症 味覚障害 摂食嚥下障害 シェーグレン症候群
●ドライマウス(口腔乾燥症)
線維筋痛症の患者さんの多くに、口内の乾燥症状があらわれます。これは口内環境に過敏になっているために、乾燥症状にも過敏になっていること、治療薬である抗うつ薬などの副作用による唾液の減少(薬剤性ドライマウス)が原因とされています。
また、口内に乾燥症状があらわれる病気「シェーグレン症候群」と線維筋痛症は、合併しやすいことが知られています。
関連するページ ドライマウス(口腔乾燥症) 薬剤性ドライマウス シェーグレン症候群
●顎関節症
線維筋痛症の患者さんはあごの痛みが生じやすく、線維筋痛症と顎関節症には密接な関わりがあります。
顎関節症と診断されて治療を受けたものの、75%の線維筋痛症の患者さんは全く効果が得られなかったとの研究報告もあります。あごの痛みが顎関節症、線維筋痛症のどちらを原因としているかを明らかにし、結果に基づいた治療をおこなう必要があります。
線維筋痛症は顎関節症よりもあごの痛みが強く、痛みを感じやすく、日常生活に困難が生じやすい傾向にあります。
関連するページ 顎関節症(がくかんせつしょう)
●SAPHO症候群
胸の痛み(前胸部痛)、皮膚症状、関節症状があらわれる病気「SAPHO(サホー)症候群」と線維筋痛症は併発することがあり、SAPHO症候群の治療をおこなうことにより、線維筋痛症の症状が改善することがあります。
関連するページ SAPHO症候群
●線維筋痛症と歯科治療
歯科治療は痛み、音、におい、不自然な体位など、ストレスがかかるため、歯科治療が線維筋痛症の症状悪化の原因となることがあります。
また、日本線維筋痛症学会の調査では、8%の患者さんが歯の根の膿(根尖病巣)、抜歯後、矯正治療後など、歯の病気あるいは歯科治療が線維筋痛症の発症要因だったと報告しています。歯科治療時は、できる限りストレスがかからないように治療をおこなっていく必要があります。
一方で必要な歯科治療は避けるべきではなく、一例として歯の根の膿が原因で線維筋痛症の症状が悪化し、歯科治療によって症状が改善したとの報告もあります。
当クリニックでは線維筋痛症の方の歯科治療をおこなっておりますが、線維筋痛症の治療はおこなっていません。
※1 線維筋痛症診療ガイドライン2017(線維筋痛症学会) ※2 Nelson L, Rhodudus J Oral symptoms associated
with fibromyalgia syndrome. J Rheumatol,30:1841−1845
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