睡眠時無呼吸症候群の治療にはCPAPやスリープスプリントによる治療のほか、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)などの外科手術がありますが、下記の治療もおこなわれています。
●骨延長術(仮骨延長術) 口腔外科(入院が必要)
骨延長は1950年代にロシアの整形外科医によって確立された治療方法です。骨延長器という器具を足、腕などの部位に使用して、1日1mmほどを延ばしていきます。骨を延ばすのと同時に皮膚、筋肉、血管、神経も延びていきます。
1994年にアメリカの整形外科医によってあごの骨にも応用され、その後日本でもおこなわれるようになりました。睡眠時無呼吸症候群の治療のほか、あごの骨の成長が悪いときや小さいとき(小下顎、上顎劣成長)、インプラント治療、癌により失われた骨の再生治療などでもおこなわれます。
睡眠時無呼吸症候群の治療でおこなわれる骨延長術
睡眠時無呼吸症候群の原因の一つとして、あごの骨が小さいことが挙げられます。あごの骨が小さいと気道が狭められ、睡眠中の呼吸の停止を引きおこすためです。
特に日本人はあごの骨が小さいために、いびきや睡眠時無呼吸症候群を発症するケースが多くみられます。骨延長術では、下あごや上あごの骨を延ばすことにより気道を広げ、症状を改善させます。
顔面形態を原因として重度の睡眠時無呼吸症候群を発症し、CPAPによる治療が合わなかった人に対しておこなわれます。
関連するページ 睡眠時無呼吸症候群と顔の形、歯並びとの関係 CPAPについて
骨延長術の治療方法
1.骨切り
骨を切断して分離させます。
2.待機
骨延長器を装着するまでの間、分離した組織がある程度治るのを待ちます。
3.骨延長
骨延長器を使用して、1日0.5〜2mmの範囲で骨を延ばしていきます。
4.待機
骨延長終了後、骨が硬くなるまで、2〜3ヶ月待ちます。
骨延長術
●上下顎骨前方移動術(MMA) 口腔外科、耳鼻咽喉科(入院が必要)
上下顎骨前方移動術は、上あごと下あごの骨を切断して前に出すことで気道を広げ、呼吸を確保する治療方法です。1990年に始められました。
一般的な睡眠時無呼吸症候群の外科手術である口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)よりも効果は高く、100%近くの症例において成功したという研究報告もあるなど、非常に効果の高い治療方法です。
上あごだけ、下あごだけ単独でおこなうよりも、上下のあごを前に出す方が効果が高い傾向にあります。しかしながら、手術が必要で手術後は顔の形が変化する欠点があります。
顔面形態を原因として重度の睡眠時無呼吸症候群を発症し、CPAPによる治療が合わなかった人に対して主におこなわれます。肥満がある場合は、手術前の減量が必須となります。
上下顎骨前方移動術
関連するページ 睡眠時無呼吸症候群の外科手術(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)など)
●舌下神経電気刺激療法
インスパイア(Inspire)はアメリカの企業が開発した、中等度以上の睡眠時無呼吸症候群に使用される装置です。2010年にヨーロッパ、2014年にアメリカで使用が始まりました。
日本では2018年に医療機器として認可され、2021年に健康保険適応になり、大学病院を中心に全国8施設の病院で治療をおこなっています。(2023年現在)
睡眠時無呼吸症候群の多くは舌によって気道が塞がることによっておきます。無呼吸がおきそうなときに電気刺激を与えることで、舌によって気道が塞がれるのを防ぎます。電気刺激は、自分自身は気付くことはありません。胸に小さな装置を埋め込み、電極を舌まで伸ばします。
手術が必要となり11年ほどで交換が必要となりますが、CPAPやスリープスプリントのような違和感がなく、快適に睡眠時無呼吸症候群の症状を改善することができます。
治療が適応になる条件
中等度から重度の睡眠時無呼吸症候群/CPAPの使用が難しい/CPAPで効果を得ることが難しい/過度の肥満ではない、BMI30未満/扁桃肥大等の解剖学的異常がない/18歳以上/中枢性無呼吸の割合が25%以下 ほか
胸に装置を埋め込みます
関連するページ AHIとは 肥満といびき
●軟口蓋インプラント(Soft plate implant) 耳鼻咽喉科
いびきをかく人は軟口蓋(口の天井)の筋肉が弱い人が多く、軟口蓋に2cmほどのプラスチック製のインプラントを3本入れることにより筋肉が硬くなり、睡眠時無呼吸症候群の症状が軽減されます。
2008年にアメリカで治療が始まりました。アメリカの大学がおこなった調査では、AHI(1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数)は、手術前に比べると37%減少(23.2回/時→14.5回/時)、47.5%の患者さんが治ったとのことでした。
適応症は限定されるものの、日帰りで10分ほどで終わる手術です。
手術(左)と埋め込まれたインプラント(右)
●鼻腔挿入デバイス(ナステント クラシック) 医科医療機関
鼻からシリコン製のチューブを自分で入れて、気道を確保する器具です。医療機関、家電量販店、ドラッグストアなどで、2014年から販売されています。CPAPが合わない人、CPAPを使用している人の出張、旅行時での使用がお勧めです。
種類がいくつかあり選択が必要なこと、適応にならない人、効果が得られない人もいますので、最初は医療機関、調剤薬局で処方してもらう必要があります。健康保険適応外で、1週間分3000〜4000円となっています。
使い捨てのチューブを鼻に入れます
関連するページ ナステント クラシック
●コンプライアンス記録付スリープスプリント 日本では研究用として使用
スリープスプリント(ソムノデント)に記録装置を埋め込むことにより、CPAPと同様に使用時間などが記録されます。この記録をもとに、スリープスプリントの修正、生活習慣の改善をおこない、より高い治療効果が得られるようにしていきます。
2012年に使用が始まり、日本では研究用として使用されています(2023年現在)。
ソムノデント
関連するページ スリープスプリント スリープスプリント Q&A
●矯正治療(床矯正) 当クリニックで実施
睡眠時無呼吸症候群を定義、命名したクリスチャン・ギルミノー教授(アメリカ・スタンフォード大学)は、大切なのは睡眠時無呼吸症を未然に防ぐことで、子供の頃に矯正治療おこなうことによってあごを大きくして、気道を広げることの大切さを生前に盛んに訴えていました。
子供の頃の矯正治療によって睡眠時無呼吸症候群の発症を予防できれば、大人になってからの脳卒中や心臓病といった睡眠時無呼吸症候群が関与する致命的な合併症を減らすことができるほか、大人になってからのCPAP、上下顎骨前方移動術などの大がかりな治療をおこなわずに済む可能性もあります。
矯正治療による睡眠時無呼吸症候群の予防は主に子供を対象としていますが、大人に対してもあごを大きくして睡眠時無呼吸症候群を防ぐ取り組みも始まっています。
治療前(顎が小さく歯並びが凸凹) 治療後(顎が拡大)
関連するページ 矯正歯科・歯並び 床矯正(しょうきょうせい)
睡眠時無呼吸症候群の外科手術は耳鼻咽喉科、口腔外科などでおこなっています。当クリニックではおこなっていません。受診する医療機関がお分かりにならない場合は、症状を診させていただいた後に、医療機関をご紹介させていただくことも可能です。
※いびき治療の受診をご希望の方は、お手数ですが事前にご予約ください。
※当クリニックへのアクセスについては、下記のページをご覧ください。
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関連するページ いびき・睡眠時無呼吸症候群