●頭頸部がん(とうけいぶがん)とは
鼻、口、あご、耳、のどなど、鎖骨より上、脳より下の部分を頭頸部といい、この部分にできるがんを総称して頭頸部がんといいます。頭頸部がんには、歯肉がん、口唇がん、舌がん、鼻腔がん、副鼻腔がん、咽頭がんなどがあります。がん患者さんの5%を占めます。
当クリニックは、国立がん研究センター連携歯科医院、横浜市周術期連携歯科医院に認定されています。
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●頭頸部がん治療と口腔ケア
口の中には300種類以上、1mgの歯垢(耳かき1杯)には数億もの細菌が存在します。
がん治療では、免疫力の低下により細菌が繁殖しやすく、繁殖した細菌は口内炎、口腔粘膜炎、肺炎(誤嚥性肺炎)、感染症など、様々な合併症を引きおこします。特に頭頸部は、口の中の細菌の影響を最も受けやすい部位です。
こうしたことから、がん治療前に虫歯や歯周病の治療を済ませ、治療前後は歯のクリーニング(PMTC)を中心とした口腔ケアをおこなうことにより、口の中の細菌を増やさないことが大切です。
口腔ケアの必要性
歯のクリーニング(PMTC)前と後
関連するページ 誤嚥性肺炎 歯垢と歯石 歯のクリーニング 歯のクリーニングの効果
●頭頸部がん治療における口腔粘膜炎の発症率※10
頭頸部がんの治療においては、口腔粘膜炎の発症率が高い傾向にあります。
アメリカ・ハーバード大学の研究によると、6181人の頭頸部がんの患者さんを対象におこなった調査では、治療に伴う口腔粘膜炎の発症率は80%、重症の口腔粘膜炎(グレード3以上)の発症率は39%でした。
放射線治療では97〜100%、抗がん剤と放射線との併用療法では89%の発症率でした。抗がん剤のみの治療は全体のわずか5%でしたが、発症率は22%と低いものでした。
頭頸部がんにおける口腔粘膜炎の発症率※10
国立がん研究センターと宮城県、静岡県、愛知県、兵庫県、愛媛県のがんセンターなどが101人の頭頸部がんの患者さんを対象におこなった調査では、治療に伴う重症の口腔粘膜炎(グレード3以上)の発症率は53%でした。
治療中に強い痛みを和らげるためにモルヒネ(痛み止め、医療用麻薬)を使用した人は83%、口腔粘膜炎の症状悪化などにより、放射線治療を一時休止した人は13%でした。
頭頸部がんにおけるモルヒネ使用率、口腔粘膜炎発症率、放射線照射休止率※11
※シスプラチンを中心とした抗がん剤と放射線治療をおこなった頭頸部がん治療
関連するページ 抗がん剤による口内炎(口腔粘膜炎) 口腔粘膜炎の分類
●放射線治療の中断、中止の影響※3−6
頭頸部がんの治療では、放射線治療が多くおこなわれます。放射線治療は大きな効果をあげていますが、口腔粘膜炎など口の中の合併症の症状が強いために、一時治療を中断したり、治療を中止せざるを得ないこともあります。
放射線治療を中断、中止すると、治療期間が延びるだけでなく、治療成績も低下することも明らかにされています。治療の中断、中止を防ぐためには、口腔ケアが重要となります。
研究者 | 治療 | 結果 |
ドレスデン工科大学 (ドイツ) |
放射線治療 | 放射線治療中止で5年生存率が大幅に低下した(61%→18−25%) |
プリンセス・マーガレット病院(カナダ) | 放射線治療を1日中断すると局所再発率は4.8%上昇した | |
フロリダ大学 (アメリカ) |
手術後放射線治療 | ハイリスク患者は治療期間が100日を超えると局所制御率が大幅に低下した(64%→14%) |
テキサス大学 (アメリカ) |
治療期間が11週未満の患者の生存率は48%だったのに対し、13週以上の患者は25%と大幅に低下した |