●口腔潜在的悪性疾患とは がんになりやすい病気

国連の専門機関であるWHO(世界保健機関)は、「がん」になりやすい病気を1978年に前癌病変(癌化しやすい組織)、前癌状態(癌の危険性が高い状態)と名付け、この名称が長い間使用されてきました。

しかしながら前癌病変の代表的な病気である「白板症」と前癌状態の代表的な病気である「扁平苔癬」の癌になる割合に差がみられないことなどから、2つの名称を統合して2017年にWHOは「口腔潜在的悪性疾患(OPDM)」と命名しました。

これは診断を強化して広く周知することで「がん」になることを防ぎ、「がん」になったときの早期発見を目的としています。

舌癌

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口腔潜在的悪性疾患の対象疾患、病変

口腔潜在的悪性疾患は自分では気付かないことが多いので、定期的に歯科医院に受診して診査や検査をおこなうことが口腔がんの予防につながります。


1)白板症(はくばんしょう) 比較的患者数は多い
白い病変で50〜70歳代、男性に多く、舌、歯肉、口腔底(口の底)などに発症します。がん化率は3〜16%とされています。喫煙者が8割以上で喫煙者は非喫煙者に比べて6倍なりやすいとされています。

喫煙、飲酒、虫歯、年齢、性別、発症からの期間、がんの経験(特に食道がん、頭頸部がん)などを考慮して手術をおこなうかを決めます。

白板症

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2)紅板症(こうばんしょう) 白板症よりは少ないががん化しやすい
紅い病変で50〜60歳代に多く、舌、口蓋(口の天井)、口腔底、頬の粘膜などに発症します。がん化率は10〜50%とされ、白板症に比べてがんを発症しやすい傾向にあります。

飲食時に痛みがあることが多く、白板症に比べてがんを発症しやすい傾向にあり、発見時には既にがん化していることもあります。


3)紅板白板症 まれな病気
紅板症と白板症が混ざったもので、まれな病気です。白板症として経過をみているうちに白い組織が紅に変わってくることがあります。


4)扁平苔癬(へんぺいたいせん) 患者数は多い
白や紅い病変で50〜60歳代、女性に多く、頬の粘膜、歯肉に発症します。原因としては金属アレルギー、薬、遺伝、ストレスなどが考えれており患者数の多い病気です。がん化率は0.5〜2%とされています。

口腔扁平苔癬

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5)口腔粘膜下線維症 日本ではまれ
10〜30歳代に多く、かみタバコの一種が主な発症要因とされ、日本ではまれな病気です。口内の粘膜が広い範囲にわたって白く、弾力性が失われ、舌が平らになるなどの症状があります。口内の違和感、ひきつれ感、味覚異常、口の乾き(ドライマウス)などの症状があり、進行すると舌の動きが悪くなったり、口が開きにくくなります。

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6)無煙タバコ角化症 無煙タバコ愛好者
かみタバコやタバコ成分を口や鼻に入れる嗅ぎタバコによって歯肉などに病変があらわれます。


7)リバーススモーキング関連口蓋病変 日本ではまれ
紙巻きタバコの火がついた側を口内に入れる喫煙方法で、高濃度のニコチンを含む煙と熱のため口蓋(口の天井)の粘膜が白くなり、発がん性リスク高くなります。


8)慢性カンジダ症 患者数は高齢者を中心にかなり多い
口腔カンジダ症はカンジダ(細菌)によって引きおこされる感染症で、高齢者を中心にかなりの人が経験する病気です。カンジダの菌糸が「がん」を引きおこすとされ、白い厚い膜ができる肥厚性カンジダ症患者の15%に組織の異常がみられ、さらにその10%にがんが発症したとの研究報告もあります。

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9)円板性エリトマトーデス まれな病気
全身性エリトマトーデスは20〜40歳代、女性に多く発症する関節、皮膚、内臓に病変が生じる病気ですが、円板状エリトマトーデスは病変が皮膚と粘膜に限られた病気です。2割に口内や口唇に病変があらわれ、1%前後ががんを発症するとされています。

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10)先天性角化不全症 極めてまれ
白板症が8〜9割の患者さんにみられる病気ですが、発症は100万人に1人程度と極めてまれで、がんを発症する割合はわかっていません。


11)日光角化症(光線性口唇炎) 屋外労働者に多い
農業など紫外線に長時間あたる40歳以上の屋外労働者に多く発症する皮膚の病気で、発がん率は20%前後とされています。

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12)梅毒性舌炎 梅毒患者は急増
2010年代になり国内の梅毒患者は急増しており、梅毒性舌炎は梅毒に感染3〜10年後(第3期)にみられます。WHOは口腔潜在的悪性疾患の一つとしていますが否定する意見もあります。

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●口腔がんのリスク要因

口腔がんの多くは口腔潜在的悪性疾患から、がんになることが分かっています。口腔潜在的悪性疾患の5%は5年以内にがんになるとされており、予防するためにはがんのリスクを知り、リスクを軽くしていく必要があります。

WHOの外部組織である国際がん研究機関(IARC)は、口腔がんのリスク要因として下記をあげています。


1)防ぐことができない因子
年齢(年齢が高くなるとがんを発症しやすい)/民族(人種によって発症率に差がある)/社会的階層(収入、学歴などによって発症率に差がある)


2)防ぐことのできる因子
喫煙/かみタバコ/飲酒/HPV感染(ヒトパピローマウイルスの感染)

お酒

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3)その他の可能性のある因子
合わない入れ歯やつめ物による慢性的な刺激/口腔衛生不良(口内が汚れている)/紫外線(口唇がん)/GVHD(移殖片対宿主病、移植後の合併症)/遺伝性症候群

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4)リスクを下げる因子
緑黄色野菜や果物の摂取(1日350g以上)/禁煙(早いほどよい)/規則正しい口腔清掃(十分な歯みがき、定期的な歯のクリーニング)

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口腔がんの予防方法

1)禁煙
口腔がんの原因の8割は喫煙となっており、喫煙により発症リスクは3.4倍に高まり、禁煙をおこない20年が経過すると発症するリスクは非喫煙者と同じになります。

禁煙、分煙対策によって口腔がんは劇的に減少することが知られています。口腔潜在的悪性疾患の患者さんが喫煙をしていると、発症リスクはさらに高くなります。たばこは口腔がんだけでなく、肺がんなど様々ながんの発症リスクを高めます。

口腔がんのなかでも口底がんは、タバコの煙だけでなく、発がん性物質が口の底に長時間とどまるため、喫煙による影響が特に大きい傾向にあります。早期に禁煙をおこなうことが、口腔がんの予防につながります。

禁煙

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2)禁酒、節酒
アルコールの代謝産物であるアセトアルデヒドは強力な発がん性物質のため、過度の飲酒は禁煙に続いて口腔がんの発症リスクを高めます。特に喫煙、飲酒の両方をおこなっていると、相乗効果によって口腔がんの発症リスクはさらに高くなります。

飲酒は口腔がんだけでなく、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、肝臓がん、大腸がん、女性の乳がんの発症リスクを高めます。

現在のところ、禁酒や節酒が口腔がんの予防にどの程度関与しているかは明らかにはされていませんが、口腔がんの予防のために適量以上の飲酒は避けるようにします。

厚生労働省が定めた適量は、顔が赤くならない男性はアルコール20g(1日)、女性と顔が赤くなる男性はより少なくとしています。アルコール20gは、ビール500ml、日本酒180ml(1合)に相当します。

ビール

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3)食事
緑黄野菜や果物の積極的な摂取は、口腔がんだけでなく、食道がん、乳がん、肺がん、大腸がんなどの発症リスクを下げることが明らかにされています。

これらの食物に含まれるビタミンC、ビタミンE、βカロチン、リコピンなどの抗酸化物質が口腔がんの予防に有効とされています。サプリメントのみでの摂取は推奨されておらず、むしろ有害であることもあります。

野菜

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4)外科手術
白板症は、がん化率の高い増殖性疣贅状白板症(ぞうしょくせいゆうぜいじょうはくばんしょう)などで切除がおこなわれます。紅板症はがん化率が高く、既にがんの状態になっていることもあるため、早期の切除が推奨されています。


5)歯のクリーニング(PMTC)
歯科医院でおこなう定期的な歯の清掃は、虫歯や歯周病の予防だけでなく、口腔扁平苔癬の症状改善や予防にもなります。

子宮頸がんの原因として知られているヒトパピローマウイルス(HPV)は、性的接触によって口内に感染することもあります。ヒトパピローマウイルスは口腔がん、咽頭がんの原因の一つとされており、歯科医院での歯の清掃(歯のクリーニング)も有効な予防方法と考えられています。

歯科医院

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6)感染予防
感染はがんの最も大きな要因で胃がん、子宮がん、咽頭がん、肝臓がんなどが細菌、ウイルスの関与によって発症することが知られています。口腔がんについてはHPV(ヒトパピローマウイルス)が舌がん発症に関与しているとされているほか、歯肉、口底のがんを発症するリスクを高める可能性があるとされています。



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