がん治療前の歯科治療 横浜・中川駅前歯科クリニック

●がん治療前の歯科治療の目的
がん治療をおこなうと、口内炎、口腔粘膜炎、ドライマウス(口腔乾燥症)、味覚障害など、口の中に様々な合併症が発症します。あまりの痛さに治療を中断することもあり、治療の中断は生命を脅かすことにもなりかねません。

また、食道がんなど負担の大きな手術では、手術後に口の中の細菌を原因とする肺炎(誤嚥性肺炎)の発症など、重篤な感染症がおきることがあります。

がん治療前に虫歯や歯周病の治療や予防処置を済ませると、痛み、感染症などの合併症が低下することが明らかにされています。入院日数を減らすこともできます。


がん治療と歯科治療の流れ
がん治療と歯科治療の流れ


がん治療前の歯科治療の目的
がん治療成績の向上/治療の中断や延期の回避/口の中の細菌の減少/治療後の合併症(肺炎、感染症、口腔粘膜炎、顎骨壊死)の予防/入院日数の短縮/全身麻酔時の気管内挿管(人工呼吸器など)時に歯が折れたり、抜けるのを防ぐ

当クリニックは、国立がん研究センター連携歯科医院、横浜市周術期連携歯科医院に認定されています。

関連するページ  ドライマウス(口腔乾燥症)  放射線障害性ドライマウス  味覚障害



がん治療前の歯科治療の効果※1
市立池田病院(大阪府)では、がん治療前に歯のクリーニング(PMTC)などの歯科治療をおこなったところ、がん手術後の感染や発熱などの合併症が少なく、回復が早く、入院日数も短くなりました。

この結果を受けて、市立池田病院では2004年に口腔ケアセンターを設置して、がん治療前に歯科医師や歯科衛生士による虫歯や歯周病の治療、歯のクリーニングを実施。がん手術後は看護師による口腔ケアを実施し、高い実績を残しています。


手術後の入院日数(単位:日)
手術後の入院日数


手術後に発熱をおこした患者数(単位:人)
手術後に発熱をおこした患者数

関連するページ  頭頸部がん  食道がん  胃がん、大腸がん、甲状腺がん



●がん治療前に歯科医院でおこなう治療

1)虫歯治療
がん治療に伴い、虫歯が悪化して痛みが生じることがあるため、がん治療前に虫歯の治療は済ませておきます。虫歯の治療をおこなう時間がないときは、痛みを生じにくくする最低限の処置はおこなっておきます。

 重症の虫歯 虫歯が進行して根の一部だけが残っている歯

関連するページ  がん治療に伴う口腔合併症  抗がん剤による口内炎(口腔粘膜炎)


2)歯周病治療
がん治療に伴い、歯周病の症状が悪化して痛みが生じることがあるため、がん治療前に歯周病の治療は済ませておきます。また、歯周病治療は手術後の肺炎の発症率を減らす一因にもなります。

関連するページ  誤嚥性肺炎  誤嚥性肺炎の予防


3)歯の固定
全身麻酔での手術では、人工呼吸器などの器具を口から入れます(気管挿管)。このとき、高い頻度ではないものの、手術器具が当たって歯が抜けたり、銀歯が外れたり、口の中の粘膜の損傷などおきることがあります。

危険を避けるために、手術前にあらかじめ抜けそうな歯を抜いたり、抜けないようにする処置(暫間固定)をおこないます。


4)口腔ケア(歯のクリーニング、PMTC)
がん治療に伴い、口の中の細菌は増加します。増加した細菌は肺炎、感染症など様々な合併症をもたらします。

歯のクリーニングでは、日常の歯みがきでは取りきれない汚れや歯石を除去して、口の中の細菌を減らしていきます。多くは1回の来院で終了するため、入院1〜2週間前には歯のクリーニングをおこないます。

乳がん、頭頸部がん、胃がん、大腸がんなどは入院せず、通院により治すことも多くあります。通院しながら歯科医院で頻繁に歯のクリーニングをおこなうのもよい方法です。

 クリーニング前  クリーニング後 歯のクリーニング(PMTC)前と後

関連するページ  歯垢と歯石  歯のクリーニング(PMTC)  歯のクリーニングの効果


5)抜歯
大きな虫歯、重度の歯周病にかかった歯は、痛みが生じることがあるので、がん治療前に抜歯しておきます。抜歯できないときは、痛みが生じにくくする処置をおこないます。

頭頸部がんで放射線治療をおこなうときは、放射線が当たった後に抜歯をおこなうと、あごの骨が死んでしまうことがあります(顎骨壊死、がっこつえし)。顎骨壊死の発症率は放射線治療前の抜歯では10%以下だったのに対し、放射線治療後の抜歯では30%以上になったとい研究報告もあります。※2残せない歯は抜歯しておきます。

肺がん、腎臓がん、前立腺がん、乳がんなど、骨に転移しやすいがんの治療では、ビスホスホネート系薬剤(ビスフォスフォネート系薬剤)が使用されます。ビスホスホネート系薬剤が投与された後に抜歯をおこなうと、あごの骨が死んでしまうことがあります。残せない歯は抜歯しておきます。

関連するページ  がん治療薬(ビスホスホネート系薬剤)の副作用


6)そのほか
とがった歯があるときは、舌や頬(ほお)が傷つき、口内炎の原因になることがあるので、丸めておきます。口周辺に放射線を照射する時は、銀歯(金属)の除去をおこなうこともあります。



入院までの期間がないときは
がん治療前までに虫歯や歯周病の治療を終え、歯のクリーニングを済ましておくことが理想です。しかしながら、多くは病気が発見されると、すぐに治療が開始されます。

入院までの期間がないときは、歯のクリーニング、歯肉の上にある歯石(歯肉縁上歯石)の除去だけでもおこなうようにします。多くは1回の来院で済み、口の中の細菌を大きく減らすことができ、がん治療後の合併症予防になります。

関連するページ  周術期口腔機能管理(手術前の歯科治療)の効果と流れ



※1 大西徹郎 急性期病院における口腔ケア よくわかる口腔ケア 金芳堂 2006  ※2 浅井昌大、全田貞幹、太田洋二郎、田原信 頭頸部がん化学放射線化学療法をサポートする口腔ケアと嚥下リハビリテーション オーラルケア


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