●SAPHO症候群※1-3
SAPHO(サホー、サフォー)症候群は、1987年にフランスの医師によって原因不明の症候群として報告され、1994年に診断基準が提唱された、比較的新しい病気です。
掌蹠膿胞症(しょうせきのうほうしょう)の関節炎と同じ病気と思われることが多いのですが、特徴的な症状である滑膜炎(
Synovitis、関節の炎症)、ざ瘡(
Acne、重症のにきび)、膿胞(
Pustulosis、掌蹠膿胞症)、骨化症(
Hyperostosis、骨硬化による腫れ)、骨炎(
Osteomyelitis、骨の炎症)の頭文字をとってSAPHOと名付けられました。
日本国内でどのくらいの患者さんがいるのかは分かっていませんが、世界的には0.04%という報告もあり、これを当てはめると国内患者数は5万人ほどとなります。性差はなく、30~50歳代が多いとされています。
原因は不明ですが、HLA-B27(白血球の血液型)陽性の頻度が高く、腸に炎症がおきる病気(クローン病、潰瘍性大腸炎)を合併する割合が高いという意見もあり、脊椎関節症と関連する病気とも考えられています。
確立された治療方法もありませんが、掌蹠膿疱症や関節リウマチに基づいた治療がおこなわれます。
SAPHO症候群の主な研究報告
研究者 |
症例数 |
結果 |
クレルモンフェラン
大学病院センター
(フランス) |
41 |
30人が女性、平均年齢は45歳。19人が掌蹠膿疱症、3人は重症のにきびがあったが、15人は皮膚症状がなかった。骨の症状では、28人が胸(前胸部)、16人が脊椎、12人が仙腸関節(骨盤)に症状があった。
検査をおこなった36人は全てHLA-B27陽性ではなかった。抗リウマチ薬、ビスホスホネート系薬剤による治療をおこなった。
|
ヘブライ大学
(イスラエル) |
10 |
7人が女性、年齢は26~68歳。8人が掌蹠膿疱症、3人が重症のにきびがあり、全ての人に皮膚症状があった。ビスホスホネート系薬剤は治療に有効であった。
|
ビシャ・クロード・
ベルナール病院
(フランス) |
120 |
70人が女性、平均年齢は37歳。6人はクローン病、3人は潰瘍性大腸炎を合併していた。掌蹠膿疱症をもつ人も多かった。治療では、非ステロイド抗炎症薬、抗リウマチ薬などが使用された。 |
※フランスのほか、欧米、日本などで病気の研究が進められています。
SAPHO症候群を合併することのある病気
クローン病/
潰瘍性大腸炎/
線維筋痛症
多くの患者さんに胸の痛みが生じます
関連するページ 掌蹠膿疱症 掌蹠膿疱症 Q&A
●SAPHO症候群の診断
1987年に病気が報告され、1994年に診断基準が提唱されたほか、日本リウマチ学会からも診断基準が提唱されています。診断は専門の皮膚科、整形外科、内科などの医療機関でおこないます。
日本リウマチ学会による脊椎関節炎の診断基準
1)多発性・反復性慢性骨髄炎
(通常は無菌性で、脊椎病変を認めることがある。皮膚症状の有無は問わない)
2)掌蹠膿疱症・膿胞性乾癬・重度の褥瘡のいずれかを伴う関節炎
(急性・亜急性・慢性いずれでもよい)
3)掌蹠膿胞症・膿胞性乾癬・重度のざ瘡のいずれかを伴う無菌性骨変
1)~3)のいずれかに該当すれば、SAPHO症候群と診断される。
|
●SAPHO症候群の症状
胸の痛み(前胸部痛)が最も頻度が高く、皮膚症状、関節症状があります。
皮膚症状は8割以上の人にみられ、掌蹠膿疱症、掌蹠膿胞乾癬(かんせん、赤くなった皮膚がボロボロ剥げ落ちる状態)、ざ瘡(ざそう、重症のにきび)があります。線維筋痛症を併発することもあります。
胸部の病変はSAPHO症候群の特徴的な症状とされています。骨の炎症、骨過剰症をおこし、痛みや腫れがあります。ひざ、足、手指などの関節、脊椎、下顎骨などが障害されます。
SAPHO症候群の患者さんは、最初に歯科症状を訴えて歯科医院を受診することがあります。下あごの後方(耳の前下方)が腫れたり(下顎骨骨髄炎)、あごの関節に痛みが生じたりします(顎関節症)。進行すると、骨の破壊によって口が開かなくなることがあります(開口障害、顎関節強直症)。
SAPHO症候群の歯科症状
下あごが腫れる、痛い/あごが痛い(顎関節症)/口が開きにくい(開口障害)
下あごの腫れ、痛みや口が開きにくくなることがあります
関連するページ 顎関節症(がくかんせつしょう)
●SAPHO症候群の治療※4-6
原因は不明で、確立された治療方法もありませんが、掌蹠膿疱症や関節リウマチに病態が似ていることから、これらの病気の治療法に基づいた治療がおこなわれます。治療は専門の内科、リウマチ科、整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、歯科、口腔外科などでおこないます。
薬物療法
関節、骨、皮膚病変の症状緩和のために、抗リウマチ薬、ステロイド薬、非ステロイド抗炎症薬、ビスホスホネート系薬剤、生物学的製剤が使用されます。
ビスホスホネート系薬剤は主に骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療薬して主に使用されていますが、薬の服用中は、抜歯によってあごの骨が壊死してしまうことがあるため、注意が必要となります。
関連するページ 骨粗鬆症と抜歯、インプラント治療(ビスホスホネート系薬剤)
扁桃摘出
扁桃摘出は掌蹠膿胞症の治療でおこなわれていますが、SAPHO症候群の治療に対してもおこなわれます。
主な研究報告
研究者 |
症例数 |
結果 |
旭川医科大学 |
40 |
扁桃摘出をおこなったところ痛みが消失70%、著効15%、有効10%、やや有効2%であった。掌蹠膿胞症を合併た症例は35人であった。 |
関連するページ 掌蹠膿疱症の治療
歯科治療
扁桃摘出と同様に、病巣感染治療(歯の根の治療、歯周病治療など)、金属アレルギー治療といった掌蹠膿胞症の治療がSAPHO症候群の治療に対してもおこなわれます。
主な研究報告
研究者 |
症例数 |
結果 |
日本歯科大学 |
13 |
歯の根の治療、口内の金属除去、抜歯をおこなったところ、全例が皮膚症状消失もしくは著名に改善。骨関節痛は12例中11例で消失または軽快した。2例は扁桃摘出も併用した。 |
49 |
歯の根の治療、抜歯を中心におこなったところ、骨関節痛は73%、皮膚症状は87%の患者さんが症状消失もしくは著明改善となった。 |
関連するページ 掌蹠膿疱症の歯科治療
※SAPHO症候群、掌蹠膿胞症の治療をご希望の方は、お手数ですが事前にご予約ください。
※1Aljuhani F、Tournadre A、Tatar Z、Couderc M1、Mathieu S、Malochet-Guinamand
S、Soubrier M The SAPHO syndrome: a single-center study of 41 adult patients.
J Rheumatol. 42(2)329-334 ※2Amital H、Applbaum YH、Aamar S、Daniel N、Rubinow
A SAPHO syndrome treated with pamidronate: an open-label study of
10 patients. See comment in PubMed Commons below Rheumatology (Oxford).43(5)658-661 ※3
Hayem G、Bouchaud-Chabot A、Benali K、Roux S、Palazzo E、Silbermann-Hoffman
O、Kahn MF、Meyer O. SAPHO syndrome: a long-term follow-up study of
120 cases. See comment in PubMed Commons below Semin Arthritis Rheum. 29(3)159-171 ※4 小林祐希、高原幹、長門利純,、國部勇、片田彰博、林達哉、原渕保明 扁桃摘出術を施行したSAPHO症候群40例の検討 口腔・咽頭科
24(3)322 ※5 森和久、二宮一智、又賀泉 歯科治療で改善をはかったSAPHO症候群49症例の臨床的検討―全身骨シンチ,予後,血中微量金属― BIOMEDICAL
RESEARCH ON TRACE ELEMENTS23(2)157 ※6 森和久、二宮一智、又賀泉 掌蹠膿疱症を合併した骨・関節炎(SAPHO症候群)13症例における歯科治療効果ならびに血中微量金属に関する検討 BIOMEDICAL
RESEARCH ON TRACE ELEMENTS18(2)168
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