最初におこなわれる治療です。ステロイド軟膏が主に使用され、薬物療法とあわせて歯周病治療、徹底した歯の清掃（クリーニング、ＰＭＴＣ）がおこなわれます。


１）ステロイド軟膏　　最もおこなわれる治療方法
多くの場合、まず最初にステロイド軟膏（デキサルチン軟膏、アフタアゾロンほか）が使用されます。病変が広範囲にわたっていたり、軟膏が届かない部位に病変がある場合は、スプレー（サルコート）を使用します。

一般に２〜４週間ほど続けて使用、あるいは症状が悪化したときに使用します。改善がみられないときは他の治療もおこないます。副作用として口腔カンジダ症などの感染症を合併させたり、傷の治りを遅くするすることがあるため、長期間の使用は注意が必要となります。


　デキサルチン軟膏　　　歯科用アフタゾロン

※ケナログ口腔用軟膏は２０１８年末で販売中止、２０１９年４月に保険適応外になりました。

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２）アルカロイド製剤（セファランチン）　　比較的おこなわれる治療
アルカロイド製剤は円形脱毛症や白血球減少症に使用される薬ですが、口腔扁平苔癬の治療にも使用されます。抗アレルギー作用をもつほか、末梢血管を拡張、血液の流れを改善して病変部に栄養を供給します。

セファランチンを通常量（１．５〜６ｍｇ）の１０倍程度を服用することにより、症状が改善することがあります。ただし、治療は健康保険適応外となります。


セファランチンの治療効果※１etc.

研究者	症例数	服用量（１日）	服用期間	効果
岐阜大学 （口腔外科）	２３	２０ｍｇ	４週間	８７％に有効
岡山大学 （口腔外科）	６２	２０〜３０ｍｇ	１〜１４ヶ月	著効１１％、有効３５％ やや有効３５％
和歌山県医大 （口腔外科）	１２	３０ｍｇ	４週間	７５％に有効

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３）タクロリムス軟膏（プロトピック軟膏）
免疫抑制剤であるタクロリムス軟膏を使用する治療は比較的新しい治療方法で、１日１〜３回、２〜３週間、塗ることにより、症状が改善することがあります。

症状の改善には非常に効果的であるものの、完全に治ることは少なく、治療を止めると再発する傾向があるとされています。そのため、症状が改善した後も、時々使用する必要があります。


タクロリムス軟膏の治療効果※２、３、４

研究者	症例数	効果
鹿児島大学（皮膚科）	３	１〜３週間で全員が著名な改善を認めた
アルシェ病院皮膚科 （フランス）	８	６ヶ月使用し８７％の人が著名な改善を認めた。 使用中止後に平均３８日で７５％の人が再発した。
ロンドン大学（歯科） （イギリス）	１７	使用後８週間で病変部位は平均７３％減少した。 使用中止後１５週以内に７６％の人が再発した。

　プロトピック軟膏



４）マレイン酸イルソグラジン（ガスロンＮ）
急性胃炎や胃潰瘍の治療薬として使用されている薬ですが、血液の流れをよくしたり、傷ついた粘膜の回復を促す作用があることから、口腔扁平苔癬にも効果があるとされています。

ステロイド軟膏の長期間の使用は、口腔カンジダ症を発症させることがありますが、タクロリムス軟膏は副作用が少なく安全性の高い薬です。


マレイン酸イルソグラジンの治療効果※５etc.

研究者	症例数	治療効果
香川大学 歯科口腔外科	３６	２８％が改善、 ２８％％がやや改善、４４％が変わらなかった。
神鋼加古川病院 歯科口腔外科	１８	７２％の人が自覚症状が改善、肉眼では５５％の人が改善した

５）漢方薬
漢方薬には免疫作用、抗炎症作用があり、十全大補湯（じゅうぜんだいほとう）、補中益気湯（ほちゅうえっきとう）、麦門冬湯（ばくもんどうとう）、黄連解毒湯（おうれんげどくとう）、小柴胡湯（しょうさいことう）などが効果があるとされています。

　漢方薬



６）うがい薬　　最もおこなわれる治療

補助的な役割として主にアズレンスルホン酸ナトリウム水和物（アズノール、ハチアズレ）が使用されます。ベンゼトニウム塩化物（ネオステリングリーン）、ポピドンヨード含嗽剤（イソジン）が使用されることもあります。

２〜３時間おきに、1日７〜８回、ぶくぶく、ガラガラの両方を、口内を左右、中央の３部位に分けてなるべく長くうがいをおこなうのが理想です。

　アズノールうがい液



７）その他
ビタミンＡ剤、ビタミンＡ誘導体（エトレチナート）、ビタミンＢ剤、アロプリノールなどが使用されます。

エトレチナート（チガソン）は胎児が奇形をおこす割合が高いため、男性は半年間、女性は２年間の服用後の避妊が必要となります。また、２年間の献血も禁止されています。掌蹠膿胞症（しょうせきのうほうしょう）の治療に使用されることもあります。

アロプリノール（ゼイロリック錠）は粉砕して、うがい薬にして使用すると効果があったとの研究報告があります。

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●金属アレルギー治療　　比較的おこなわれる治療

金属アレルギー治療は、歯周病治療、歯の清掃（クリーニング、PMTC）、ステロイド軟膏、うがい薬による治療で十分な効果が得られず、金属アレルギーと皮膚科で診断されたときにおこないます。

口腔扁平苔癬は溶け出した金属イオン、ガルバニー電流が原因の一つとされ、銀歯や入れ歯の金属バネなど、歯科金属に接する粘膜に多く発症します。特にアマルガム合金（水銀を使用した銀歯）による影響は大きいとされています。

接する部位の金属が、銀歯であればセラミックスやプラスチックのつめ物に交換します。

　　金属の交換前（左）と交換後（右）

関連するページ　　歯科金属によるアレルギーについて　　アマルガム合金



●歯周病治療、歯の清掃（クリーニング、PMTC）　　比較的おこなわれる治療

自分自身でしっかり歯をみがくのはもちろんのこと、歯科医院で歯周病治療や歯の清掃（クリーニング、PMTC)をおこなうなどして、口の中を清潔にしていきます。

銀歯などの金属に着いた歯垢（プラーク）は、金属を腐食させ、金属イオンが溶け出す原因となります。口の中を清潔に保つことは、一定の効果があるとされています。

　　歯のクリーニング前（左）と後（右）

関連するページ　　歯周病　　歯のクリーニング　　歯のクリーニングの効果　　歯垢と歯石



●歯の形態修正、研磨　　比較的おこなわれる治療
口腔扁平苔癬の発症部位にとがっている歯があれば、丸めることで粘膜に刺激が加わらないようにします。また、銀歯などの金属がザラザラしているようであれば、専用の器具できれいにみがき、歯垢を着きにくくします。



●入れ歯の作製、調整　　比較的おこなわれる治療
入れ歯に使用される金属や合わない入れ歯を原因として口腔扁平苔癬の症状があらわれることがあります。ノンクラスプデンチャーなど金属を使用しない入れ歯にしたり、合わない部位の入れ歯の調整をおこなうことで症状が改善することがあります。

　

関連するページ　　ノンクラスプデンチャー


●炭酸ガスレーザー
炭酸ガスレーザーは、二酸化炭素（炭酸ガス）を使用したレーザーで、レーザーを照射することで組織を加熱、蒸散さます。周囲の組織への熱による損傷が少なく、口腔扁平苔癬の組織だけを蒸散させます。

痛みの軽減などで一定の効果があるものの、再発することもあり、また口腔扁平苔癬が悪性化したり、症状が悪化する可能性も否定できないことから、安易なレーザー照射は避けるべきとされています。

　炭酸ガスレーザー



●その他
病変部の切除手術、アルゴンプラズマ凝固療法がおこなわれます。これらの治療は粘膜に刺激を加えるため、口腔扁平苔癬が悪性化する要因になるのではないかという意見もあります。

関連するページ　　口腔扁平苔癬と口腔がん



●セルフケア
タバコや過度の飲酒は控え、毎日しっかり歯をみがくなどして、粘膜に刺激が加わらないようにします。歯ブラシは軟らかめのものを選択し、そっとみがいていきます。

情緒不安定になるなど、ストレスがあると症状が悪化する傾向にあります。ストレスの少ない生活を送っていくことも大切です。

　セルフケア



当クリニックで口腔扁平苔癬の治療やご相談をご希望の方は、お手数ですが事前にご予約ください（電話番号：０４５-９１０-２２７７）。


※１　久保茂正　特集　歯科における東洋医学入門３　口腔扁平苔癬症　歯界展望１０５（２）３７０−３７５　　※２　坂元亮子、具志亮、金蔵拓郎、神崎保　タクロリムス外用が著効した口唇・口腔粘膜扁平苔癬の３例　西日本皮膚科６６（５）４５４−４５７　※３　Olivier V, Lacour JP,Mousnier A,Garraffo R,Monteil RA,Ortonne JP.　Treatment of chronic erosive oral lichen planus with low concentrations of topical tacrolimus: an open prospective study.　Arch Dermatol. 2002;138(10):1335-8.　※４　Kaliakatsou F,Hodgson TA,Lewsey JD,Hegarty AM,Murphy AG,Porter SR.　Management of recalcitrant ulcerative oral lichen planus with topical tacrolimus.　J Am Acad Dermatol. 2002;46(1):35-41.　※５　李進彰、村岡重忠ほか　口腔扁平苔癬に対するマレイン酸イルソグラジンにおける臨床的効果の検討　日口粘膜誌９（１）２６−３３



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