摂食障害とは、過度な量の食事摂取や極端な食事制限により、健康に様々な問題が引きおこされる病気です。症状によって「神経性過食症(過食症)」、「神経性無食欲症(拒食症)」、「過食性障害」の3つに分類されます。
摂食障害の患者さんは虫歯や酸蝕症になりやすく、また病気のために歯科医院に通院できないことも多く、若くして歯がボロボロになってしまう人が多くいます。
厚生労働省が18年ぶりに実施した大規模調査(2016年発表)では、全国の患者数は2.6万人で、女性が9割、症状では拒食症が最も多く、次いで嘔吐を伴う過食症でした。
本人や家族から相談があり、実際に医療機関で治療を受けている人は4割で、治療を受けなかったり、治療をやめてしまう人も多くいました。
調査を実施した医師は、「医療機関を受診しない人も多く、実際にはもっと多くの患者がいる」と話しており、
日本での患者数は数十万人、若い女性の1〜2%が摂食障害に苦しんでいるという指摘もあります。
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歯科治療の問題点
摂食障害の患者さんは、繰り返される歯科治療に対して不安感や不信感があり、治療を中断してしまうことがしばしばあります。歯科大学の研究者がおこなった調査では、
摂食障害の患者さんの7割が歯科治療に対して不安感や不信感があり、全ての患者さんが治療を中断した経験をもっていました。
歯科医師の摂食障害に対する理解不足が、治療中断の一つの原因となっているとされています。勇気を出して摂食障害のことを話しても「吐かなければ大丈夫でしょう」と言われたり、歯科医院に受診しても「何でこんな状態になるまで放置していたんだ」と言われ、治療を中断してしまう患者さんもいます。中には通院を拒否された患者さんもいます。
過食症の患者さんは、過食や嘔吐は止められないものの、歯科治療を受けたいとの気持ちが高く、その一方で過食や嘔吐を他人に知られることを恐れて、歯科治療をおこなわない人が多い傾向にあります。
思春期に矯正治療をおこない、食べるたびに歯みがきをすることが苦痛で食事量が減るなど、歯科治療をきっかけに摂食障害を発症する人は少なからずいます。
ご相談
中川駅前歯科クリニックでは摂食障害の方の歯科相談、歯科治療をおこなっております。お気軽にご相談ください。
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摂食障害の症状と歯科治療
1)虫歯
過食症では、不規則な食生活、糖分の過剰摂取によって、虫歯が非常に発生しやすくなります。また、歯の痛みによるストレスや不安が食事の回数を増すこともあります。拒食症でも、食事の量は少ないものの、一日の大半をあめをなめていたり、砂糖入りガムをかんでいるなどした結果、虫歯が多発することがあります。
虫歯ができたら、可能であれば放置せずに早めに虫歯の治療をおこなうほか、歯科医院で歯のクリーニング(PMTC)やフッ素塗布などの予防処置を頻繁におこなうことで、虫歯の発生を防ぎます。
歯のクリーニング
関連するページ 虫歯 歯のクリーニング(PMTC)
2)酸蝕症
歯はph5.5以下の酸で溶けますが、胃酸はph1〜2と強酸で、歯を溶かしていきます。嘔吐時の胃酸や嘔吐物、過食症では酸性の食べ物(多くはph5.5以下)の摂取時間が長いことを原因として、歯が溶ける病気「酸蝕症」を高い確率で発症します。
歯科治療では、フッ素塗布をおこなったり歯が溶けた部分を治していきますが、嘔吐や過食が改善しない限り改善が難しいことがあります。摂食障害の患者さんは10〜30歳代の若い人が多く、若い人は歯の表面のエナメル質やその内面の象牙質の石灰化がまだ十分でないため、酸蝕の進行が速い傾向にあります。
対策として、嘔吐時に歯を覆うマウスピースを装着したり、嘔吐後や食後に水やお茶を飲んだり、うがいをすることによって、口の中を中和するのも酸蝕症の予防になります。飲むだけで吐いてしまう場合は、うがいをするだけでも十分です。
マウスピース
嘔吐時に歯を守るためのマウスピースは2回のご来院で作製できます。お気軽にご相談、お申し付けください。
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3)知覚過敏
摂食障害の患者さんは歯が溶けやすく、結果として歯がしみる病気「知覚過敏」を高い確率で発症します。熱いものよりも冷たいものがしみやすく、上あごの前歯の内側(口蓋側)が特にしみやすい傾向があります。
治療では、通常は知覚過敏に効果のある薬を塗ることで治していきますが、摂食障害の患者さんに対しては、繰り返される嘔吐などで簡単に再発していまいます。そのため、主につめ物をすることで治していきます。
関連するページ 知覚過敏症
4)歯周病
過食による口内の汚れなどにより細菌が繁殖しやすく、歯周病が進行しやすくなります。一方で、胃酸による酸蝕症がみられる人は歯石が少なく、歯周病治療は比較的簡単にすむことが多い傾向にあります。
歯科医院での予防処置
関連するページ 歯周病 歯垢と歯石
5)ドライマウス(口腔乾燥症)
嘔吐による脱水症状、服用している薬の副作用、拒食による咬む回数の減少などにより、口内の乾燥がおきることがあります。口の中が乾燥すると、虫歯になりやすくなります。
関連するページ ドライマウス(口腔乾燥症)
6)つめ物の脱落
銀歯などのつめ物周囲の歯質が酸によって溶かされていくため、つめ物が外れやすい傾向にあります。
7)唾液腺の腫れ
過食症では、過食や嘔吐によって唾液の分泌が異常に多くなり、唾液腺が発達、肥大化して、腫れます。唾液腺炎になると、「おたふくかぜ」のように顔が大きく腫れます。過食、嘔吐が治らない限り唾液腺の腫れは引かないことが多く、有効な治療方法は確立されていません。
唾液腺の腫れ
8)入れ歯
歯がないために、いつもマスクを着けている、就職できないなど日常生活に支障をきたしている人も多くいます。入れ歯を作製することにより生活の改善をおこないます。
若いときから入れ歯を使用している人も多く、体重の増減などにより入れ歯の調整をおこないます。ノンクラスプデンチャー、磁石を使用した入れ歯など、金属バネを使用しない、外見からは分からない入れ歯もあります。
金属バネの入れ歯とノンクラスプデンチャー
関連するページ 入れ歯 ノンクラスプデンチャー 磁石を使った入れ歯
9)食道潰瘍 胃潰瘍
「食べたいけどかめない」状態が続いたり、歯の痛みによる鎮痛薬の常用によって、食道潰瘍や胃潰瘍になることがあります。
10)窒息 食道潰瘍 胃潰瘍
歯が全くなかったり、多数の歯が痛むために食べ物を丸飲みしてしまうこともあり、丸飲みは窒息の原因にもなります。入れ歯を作製したり、虫歯の治療をおこなうことで食べ物をかみ砕くことができるようになり、窒息などを防ぎます。
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●セルフケア
セルフケアとしては下記があります。可能であれば実行してみてください。ご不明な点などがありましたら、ご来院の際にお気軽にお問い合わせください。
1)嘔吐時
嘔吐をしたとき、嘔吐していなくても口内に胃酸の逆流が感じられたときは、胃酸の味がしなくなるまで、うがいをくり返します。
嘔吐で疲れ果ててそのまま寝てしまう方がいますが、口内が酸性になったまま寝てしまうのは歯にとって最も良くありません。歯みがきがどうしてもできないときは、うがいだけでもしてから寝てください。
歯みがきは胃酸の味がなくなってから、30分以上たってからおこないます。
2)食生活
酸性度の強い飲食物(炭酸ジュース、かんきつ類など)の過剰摂取は避けましょう。
歯が欠けやすいため、氷やアメをかみ砕いたり、フランスパンや硬い肉を食いちぎるといった食べ方はしないようにしましょう。
かんきつ類とフランスパン
3)歯みがき
歯が軟らかくなっているため、硬めの歯ブラシや研磨剤の荒い歯みがき粉は避けましょう。
酸性の強いうがい薬(イソジンなど)は避けましょう。
硬めの歯ブラシは避けて優しくみがきましょう
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